番外編 ガード固い系王子様
私には、気になることがある。それは――アルフレートが妙にガードが固いことだ。
もっと、シャツを寛がせて、楽にしている姿とか見たいのに、いつもアルフレートはきっちりと隙がない姿でいる。
いつ、ボタンを寛がせるのか。謎だ。
朝も、昼も、夜も、アルフレートは服の乱れを見せない。
無敵の要塞のようなのだ。
そして今宵。私はアルフレートの部屋の前にいる。
きっと、ラフな恰好でアンニュイな感じで……こう、ワイングラスを片手に弄びながら、退廃的な感じで過ごしていることを――希望する。
アンニュイとか退廃的ってどんな感じが知らないけれど。私の脳内イメージでは、薄暗い部屋で素肌にシャツを羽織っただけの、お色気全開な感じみたいな。
伝われ、この感じ!
なんだ。まあ、その……私は、いつもと違うアルフレートが、見たいのだ。
先ほどお風呂に入っていたので、もしかしたら楽な恰好でいる可能性がある。
シャツにズボンじゃなく、寝間着姿の可能性が大だ。それでもいい。
そんなわけで――。
「いざ!」
私はアルフレートの部屋をひと思いに開いた。
部屋にいたのは、ぴしっと糊がかかったシャツをタイで締めた上に、ベストを着込んだいつものアルフレート姿だった。ジャケットを着たら、そのまま外出できそうなくらいの、きちんとした恰好である。
当然ながら、私はその場に崩れ落ちた。
「おい、どうした? というか、何がいざなんだ?」
「せ、清楚、すぎる……!」
「なんの話だ?」
アルフレートは超正統派の、清楚系王子だった。
眩しい。タイを巻いたシャツの白さが。
私が見たかったのは、ラフな恰好だったのに。
ボタン全開にした、素肌にシャツの姿でとは言わない。
そんなアルフレートなんて、贅沢過ぎる。
でもせめて、シャツのボタンを二つ外した姿でいいから見たい。
床に四つん這いのままだったので、アルフレートより突っ込まれる。
「おい、なんに対して落胆をしている?」
「ア、アルフレートの……」
「私が、どうした?」
「叶うならば、シャツとズボンだけの、隙だらけの姿を見たい……!」
「はあ!?」
私はそのまま、平伏の恰好を取ってお願いした。
「お願い、アルフレート! ちょっとでいいから見せて!」
「どうしてそんなものを見たがるのか理解できない!」
「好奇心からなんだけど!」
「断る!」
やはり、ガードが固い。陥落できない鉄壁の要塞のようだ。
素肌は嫁入りまで見せない気なのか……!
いや、男性だから婿入りか。
「そういえば……農作業に参加する時だって、腕まくりしなかったよね」
地味に、袖を泥だらけにしているのが気になっていたのだ。
これが高貴な人の泥との戯れかとも思った。
「農作業の時、袖はまくるものなのか?」
「え? 普通そうでしょう」
「知らなかった」
「そっか……そうだよね」
アルフレートは箱入りの王子様なのだ。
露出は絶対ダメだし、結婚するまで肌を他人に見せないのだろう。
「なんか、ごめんね……。乱れたアルフレート見たいとか言って」
「乱れたとか言うな」
「うん」
でも、見たかったな。
「すまない」
「いや、大丈夫。鼠妖精の侍女に絵が上手い子がいるから、退廃的なアルフレートを描いてもらうことにする」
「は?」
「肖像画みたいに仕立てて、部屋に飾る」
「待て! それも禁止だ」
「二次創作は好きにさせてよ!」
「お前だって、似たようなことをされたら嫌だろうが!」
「アルフレートだったら、してもいいよ」
「許可を出すな!」
どのような方法をもっても、ダメなものはダメなよう。
アルフレートのガードを崩せる日は来るのか。
怪しいものだった。