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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】
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第百十九話 魔王――明らかになった正体

 魔人達は倒されたようだった。筋肉妖精マッスル・フェアリのローゼやリリーを呼びだすまでもなかった模様。

 最後は――魔王のみ。

 周囲を取り囲む黒い靄が広がっていた。

 アルフレートは魔剣を引き抜き、一歩前にでて問いかける。


「――お前は、誰だ?」


 いきなり核心を突くアルフレート。

 その刹那、周囲は闇に包まれた。

 慌ててアルフレートの背中に抱きつく。その私の足元に、メルヴがヒシっとしがみついていた。


 その刹那、私達は闇の中に呑み込まれてしまった。

 抱きついていたはずなのに、腕の中にアルフレートはいない。


「え、やだ、アルフレート!?」

「大丈夫だ」

「うわっ、良かった。メルヴは?」

『ココニ、イルヨ!』


 離れ離れにならずに、みんな同じ場所に辿り着いたようだ。

 けれど、ここはいったい?

 光の球を作りだし、周囲を照らすが、どこまでも続く闇を目の当たりにするだけだった。


「なんだろう、ここは?」

「魔王の、精神世界なのかもしれない」

「そっか」


 精神世界。個人個人が持つ、内なる心理を映しだした空間である。

 何もない、闇だけの世界は、魔王らしいとしか言えない。


「エルフリーデ、手を」

「あ、うん」


 聖剣を持っていない手をアルフレートに伸ばす。

 けれど、掴んだ手は硬い篭手ではなくて、ふにゃっとした柔らかな――


「えっ、ちょっ、うわああああ!!」


 ぐんと、手を引かれる。物凄い力だった。


「エルフリーデ!!」

「ひええええっ」


 アルフレートの叫び声が聞こえた。

 どうやら、私は違うモノを掴んだらしい。物凄い速さでずるずると引きずられる。


 辿り着いた先は――もっともくらい闇の中。

 手の中にあったはずの聖剣は行方不明になっていた。


「あ……!」


 顔を上げれば、暗い中で青い目が浮かんでいることに気づく。


「だ、誰……?」


 怖いけれど、聞かなければ。そう思って、質問をする。


『わたしが、わからないのか?』


 女性の声だった。

 最初に見た時は男性だと思ったけれど、違ったようだ。


 掠れたような声。

 もちろん、記憶にない。


『エルが、女性だったから、男性体になっていたけれど、ここでは、誤魔化せないか……』


 なんだろう。私を知っている人みたいだけど、まったく記憶にない。


『まあ、いい。逢えたから……』


 手を伸ばしてきたけれど、怖くなって後ずさる。

 青い目は揺らいだ。


『エル、どうして私を拒絶する? 愛を、何度も誓ったではないか?』

「え?」

『今度こそ、幸せになろう。私はそれを叶えるために、産まれて来たのだ。二人の楽園に行って、誰にも邪魔されないように――』


 女性は言葉を途中で切り、両手を掲げる。すると、周囲の闇が晴れていく。

 全体が浮かび上がる女性の姿。

 すらりとしていて背が高く、被った頭巾から流れる髪の色は金。

 ドクリと、心臓が跳ねる。

 一人だけ、心当たりがあった。

 けれど、それは口にすることすら恐ろしい。


 女性はするりと頭巾を外す。

 見たくないと思って、顔を手で覆った。


『エル、迎えに来たよ。今度は、間に合った。君は死ななかったのだ』


 顔を両手で覆いながら、ぶんぶんと首を横に振る。


『エル……』

「嫌だ!」

『大丈夫、すぐに、同じようになれるから』

『やだやだ!』


 背後に後ずさっていたけれど、足を縺れさせて転んでしまう。

 地面に手を突けば、にっこりと微笑む美しい女性の姿が視界に入って来た。


『エル……』


 うっとりと私を見る女性。

 切れ長の目に、絹のような金色の髪。細められた目は、澄んだ青。

 私は震える声で口にする。


「アルフレート……」


 女性は、アルフレートとまったく同じ容姿をしていたのだ。

 いったいどういうことなのだろう? 

 理解が追いつかない。


 私に手を伸ばしていたが、それを掴むわけにはいかない。

 首を横に振れば、不思議そうな顔で見下ろしてくる。


『エル、何も心配いらない』

「あなた、誰なの!?」

『そうか。記憶がないから、怯えていると』


 私の前に片膝を突き、顔を覗き込んでくる。

 頬に手を伸ばしてきたが――


『クソッ……!!』


 突如として、女性が跪いた位置に魔法陣が浮かぶ。

 後方に跳んだのと同時に、氷柱が突きでてきた。


「エルフリーデ!!」


 背後を振り返れば、アルフレートとメルヴが走ってきていた。


「アルフレート!!」


 慌てて立ち上がり、駈け寄って抱きつく。


「良かった……!」

「ああ」


 アルフレートはぎゅっと抱き返してくれる。


『メルヴも……』

「うん……」


 メルヴも私を抱きしめてくれた。

 聖剣はアルフレートが拾ってきてくれたようで、手渡してくれた。

 振り返れば、こちらを睨みつける女性――魔王の姿が。


「あれは……?」

「アルフレート、じゃないよね」

「私ではない。しかし――」


 魔王とアルフレートは似すぎていた。ぶるりと、震えてしまう。


『アレはね、怨念の集合体よ』


 上から声がする。

 視線を向ければ、アーキクァクト様が私の頭上に浮かんでいた。


『あらん。下から覗いちゃ、やだ』

「あ、すみません」


 しかし、怨念の集合体とはどういうことなのか。

 そんなことを考えていたら、魔王がこちらに迫ってきた。


「うわあ!」


 目標はアルフレートだった。

 杖のような武器を突きだしてくる。

 アルフレートは魔王の攻撃を魔剣で受け止め、弾き飛ばす。

 炎の魔法を撃ったが、氷の壁のような物に阻まれてしまった。


「ええ~~!」

『あの子は眼鏡男子の上位互換だから、ちょっとした炎魔法は利かないわよ』

「そんな!」


 っていうか、あの魔王はどういう存在なのか。アーキクァクト様に聞いてみる。


『あれはね、あなたと結ばれなかった眼鏡男子の怨念の集合体ね』

「うわあ……」


 曰く、アルフレートの魂を持つ人達は、私の死を目の当たりにして絶望。そのあと命を絶つという最期を迎えていたらしい。


『あなた、見事な死に際ねえ。例えば、冤罪で火炙りになったり――放火されて亡くなったり――森林火災に巻き込まれたり』

「火関連ばっかですね」

『ええ。それで気の毒に思った神様が、あなたに炎のご加護を与えたみたい』

「な、なるほど」


 何度も何度も、私の死を目の当たりにしたアルフレートの魂は、汚染されてしまった。

 それを神様が取り除いて転生させていたらしいけれど、どこからかそれが漏れてしまい、魔王となって世界に降り立ったと。


「だから、アルフレートであり、そうでない存在ものと言っていたんですね」

「ええ、そう。魔王アレに魂はないから。あるのはあなたへの執着と、悲惨な運命を背負わせた世界への憎しみだけ」

「終わらせなきゃ」

『そうね』


 コクリと頷き、私はとっておきの魔法を展開させる。

 炎狼フロガ・ヴォルクを呼び、私の体に同化させた。

 精霊憑依魔法である。


 兜からぴょこんと耳が生え、お尻からももふもふの尻尾が生える。

 全身に魔力を感じ、体が燃え上がった。

 聖剣を握りしめ、魔王に近づく。


「エルフリーデ、こいつに近づくな」

『この、何を言っているんだ。エルは私の物なのに!』

「お前こそ何を言っているんだ!」


 美女なアルフレートと、美男子なアルフレートが私を取り合っている。

 なんだ、この光景は。けれど、答えは考えるまでもないだろう。


「魔王、ごめん。私はあなたの気持ちに応えられない」

『今は混乱をしているだけだろう?』

「違う。混乱しているのは、あなたのほうだ」


 カランと杖を落とす魔王。

 一歩、二歩と、ふらふらした足取りで私に近づいてくる。


『エル、約束しただろう。来世で幸せになろうと』

「うん、幸せになったから」

『違う。私達はまだ、結ばれていない!』


 ダメだ。話が通じない。

 魂のない相手に、わかってもらうのは難しいのかもしれない。


『そうか。私が二人いるからいけないのか』


 真っ赤な魔法陣が、アルフレートの足元に浮かび上がる。

 何かと考えている間に、魔法式は展開された。

 バラバラに飛び散る何か。

 いなくなったアルフレート。


 何が起きたかの理解が追いつかない。


 けれど、わかるのは、魔王がアルフレートに危害を与えたこと。

 私は剣を掲げる。


 ありったけの魔力を込めて、振り下ろした。


▼notice▼


エルフリーデの前世

薄幸の美青年だった。

だいたい火の厄災で死んでいる。

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