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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

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第百十八話 魔人戦――意外な結末

 巨大な雪の花からでてきた存在ものは、とんでもなかった。

 真白の美しい髪、輝く銀の瞳、絹の美しいドレスを纏う姿。それから、太い首に筋肉が盛り上がった腕、割れているであろう腹筋、立派な太もも――あれはもしかしなくても筋肉妖精マッスル・フェアリ!?


 具現化した雪の花を見て、グラセはバンザイしていた。


『花チャン!』

『お兄様、初めまして』


 まさかのグラセの妹だった。

 いや、家族でお世話していたから、その可能性もあったわけで。

 純白の筋肉妖精マッスル・フェアリは私とアルフレートを振り返り、しずしずと会釈しながら挨拶をしてくれた。


『お初にお目にかかります』

「お、おお……」


 なんとか反応できたけれど、新しい家族を前に動揺を隠せていなかった。アルフレートは言葉を失っている。


『お父様、お母様、お話は、またあとでゆっくり』

「そうだね。でも、会えて嬉しいよ」

『わたくしも、です』


 ポッと頬を染め、頷く純白の筋肉妖精マッスル・フェアリ


「名前も考えておくね。アルフレートが」

『はい、楽しみにしております』


 そんなわけで、私達は四人家族になった。

 純白の筋肉妖精マッスル・フェアリは、魔人スペルビアに向き直る。


『なんだ、召喚術か? 勝手に人数を増やしおって、卑怯な……』

『召喚魔法禁止の規定はなかったでしょう?』

『お、おのれ……!』


 額に青筋を浮かべたスペルビアは、槍を構える。

 対する純白の筋肉妖精マッスル・フェアリも、魔法陣を展開させて中から花の細工が先端についた杖を取りだした。

 咲いていた花は蕾となり、先端が鋭くなる。槍状に変えたようだった。


『なるほど、お主も槍使いというわけか』


 互いに構え、同時に地面を蹴る。


 ぶつかり合う槍と槍。

 どちらが優勢とかはわからない。けれど我が娘、純白の筋肉妖精マッスル・フェアリは余裕の表情でいるように見えた。


 正々堂々とした戦いと思いきや――ごとりと、何かが落ちる音がした。

 ころころと地面に転がるのは、魔人スペルビアの首だった。


『油断し過ぎ』


 スペルビアの背後には、大鎌を構える魔人アケディアの姿。


『なっ、おまっ……お、おのれ……卑怯な、り……』


 アケディアは恨み言を呟くスペルビアの首を踏み潰し、体は蹴り上げた。


「う~~わ~~……」


 アルフレートはアケディアの動きに気付いていたのか、グラセをぎゅっと抱きしめていた。戦闘が終わったのか質問しているので、状況は伝わっていないだろう。


 純白の筋肉妖精マッスル・フェアリは戸惑いの表情を浮かべている。

 傍に寄っていって謝れば、大丈夫だと切なそうに言っていた。


 なんていうか、魔人汚い。

 どちらが魔王軍側かわからなくなっていた。


『戦闘時に手をだしてはいけない規定はなかったでしょう?』

「まあ、そうだけどね」

『きれいごとだけで、勝てると思っていた?』

「いいえ、まったく」

『よかった。批難とかされたら面倒だから』


 今回の魔人は性格が単純、ではなくて――真っすぐ過ぎたのだろう。

 騙されるほうも騙されるほうだ、というのは乱暴な表現かもしれないけれど、これしかあてはまる言葉が思いつかなかった。


『何してんの。早く先にいくよ』

「あ、はい」


 魔人アケディアは早く家に帰ってお昼寝をしたいらしい。

 昼寝のために魔王を倒し、世界を救うとは。新し過ぎる。


 王の玉座の背後には、隠し扉があった。

 アケディアは壁にあった魔王軍の国旗を剥ぎ、仕かけを解除する。


 ゴゴゴゴ……と重たい音を鳴らしながら、開く扉。

 この先に、魔王がいる。


 ドキドキと、胸が高鳴る。

 緊張していたのがバレたのか、アルフレートが手を握ってくれた。


「エルフリーデ、大丈夫だ」

「うん」


 誰も欠けることなく、一緒に帰ろう。

 そして、盛大な祝賀会をするのだ。


 まっすぐに道を進めば、重厚な扉の前に行きつく。


『この先に魔王がいるみたい』

「そっか。案内ありがとう、アケディア」

『別にいいけれど』


 バクバクと鼓動を鳴らす胸を押さえながら、扉に手を伸ばす。

 コンコンコンと、扉を叩いた。


「エルフリーデ……」

「嫁子、何をしているのだ!」


 コンコンはしなくてよかったらしい。アルフレートとお義母様、二人同時に指摘つっこみを受けてしまった。


 持ち手を捻ろうとしたけれど、扉はズルズルと音を立てて自動で開いていく。

 部屋は夜会をするような大広間だった。

 真っ赤な絨毯が敷かれ、天井には贅を尽くされたシャンデリアが輝いている。

 部屋の奥に、人影がみえた。そこにいたのは――死んだはずの、アケディア以外の魔王七ツ柱だった。

 牛頭の魔人――暴食のグラ。

 蠍頭の魔人――憤怒のイラ。

 羊頭の魔人――色欲のルクスリア。

 蜘蛛の体を持つ魔人――嫉妬のインウィディア。

 猫頭の魔人――強欲のアワリティア。

 角が生えた魔人――傲慢のスペルビア。


「あ、あれは――?」

『死した魔人の影だと思う』


 肉体は滅んだけれど、魂を呼び寄せて再度作りだした存在らしい。

 七ツ柱の奥にある、玉座に誰かが腰掛けていた。

 頭巾を深く被った、成人男性のように見える。


『――ああ、そういうことなの。難儀ねえ』


 突然、天井より神鳥アーキクァクト様が現われた。


「あの、難儀って、どういうことなんですか?」

『あの魔王、あなた達のよく知る人であり、そうでない存在ものなの』

「え?」


 誰だろう。まったく思いつかない。言葉の意味もよくわからなかった。

 そういえば、リチャード殿下は結局海底洞窟の入り口に置いて来てしまった。

 鼠妖精ラ・フェアリ騎士団と待機してもらっていたのだ。


 まさか、魔王様は――


 嫌な予感が浮かび、ぶんぶんと首を横に振った。


 魔王の周辺は黒い靄が漂っていて、霞がかかったようになっている。なので、体型などから判断はできない。


『おい、勇者! よくも俺を殺してくれたな!!』


 牛頭の魔人グラが、こちらに指をさして怒りを向けていた。


『勇者……憎い……』


 蠍頭の魔人イラは相変わらず怒っていた。


『今度は、殺す』


 色っぽい魔人ルクスリアは、アルフレートを睨んでいる。


『雪の精霊、アタシの獲物を奪うなんて、絶対に許さないんから!』


 蜘蛛少女魔人インウィディアは雪の大精霊様に嫉妬を向ける。


『僕のコレクション、返してもらうよ?』


 猫頭の魔人アワリティアは、大鎌を構えて戦闘態勢でいる。


『怠惰の魔人アケディア、殺す』


 先ほど殺された、傲慢の魔人スペルビアは、アケディアに殺意を向けていた。


 ぼんやりしている暇はない。

 まずは魔人達の影を倒さなければ。


 合図もなしに、戦闘が始まった。

 私は炎狼フロガ・ヴォルクを召喚し、背中に跨る。


 魔人グラが角をこちらに向けて突進してくる。

 炎狼フロガ・ヴォルクはひらりと躱した。私は炎の球を作りだし、脳天狙って放った。


 魔人イラは、お義母様とメーガスと戦っていた。

 二人の猛攻にいらついているようだった。


 魔人ルクスリアはアルフレートと剣を交えている。ホラーツが背後で援護していた。

 実力が互角だけど、魔剣を持っているアルフレートが有利だろか。


 魔人インウィディアは雪の大精霊様と小競り合いをしていた。

 多分、大丈夫かな?


 猫頭の魔人アワリティアは、メルヴとグラセ、純白の筋肉妖精マッスル・フェアリと戦っていた。なかなか息の合った戦いをしているようだった。


 傲慢の魔人スペルビアは、アケディアと戦っている。

 怒りを全力で向けられたアケディアは、心底面倒くさそうだった。

 なんていうか、自業自得かもしれない。


『――お前、余所見をするなよおおお!!』

「おっと!」


 私も油断できない。

 聖剣に炎を宿し、魔人へ振り下ろす。


 ガキン! と音を立てて、戦斧で受け止められてしまった。

 歯を食いしばり、聖剣に流す魔力を増やす。

 すると、聖剣を伝って炎がグラに燃え移った。


『あっ、がっ、なんだ、これ!?』


 神聖なる炎――セイクリッド・フロガ。

 聖剣と私の魔法を組み合わせたものである。


 グラの体は瞬く間に燃えて、魂まで焼き尽くした。


▼notice▼


魔王

それはエルフリーデのよく知る人物であり、そうでない存在になったもの。

魔王はひたすら、アルフレートを睨みつけていた。

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