第百十四話 怠惰の魔人――アケディア
ホラーツの指示でマスを進んでいく。
宝箱のあるマスに来ると嬉しくて、敵前に進むとドキドキする。
兵士の駒を二体も失った魔人アケディアは保守的な戦術から、好戦的な駒の進め方に変えてきた。
騎士の駒をどんどん進め、メーガスに戦いを挑む。
魔人アケディアの騎士は職業祝福が与えられていた。
内容は攻撃+30、防御+10、魔防+50。
それに加えて、先制ボーナスも騎士の魔物に与えられる。攻撃+50。
勇者の適正職業の祝福に比べたら数値は小さいけれど、先制攻撃のボーナスと合わせたら結構な付加能力となる。
メーガスは大丈夫なのか。
騎士の振り下ろされた一撃を、なんとか躱していた。
後攻側は能力が引かれる。メーガスは防御-50の呪いを受けているようだった。
魔法で反撃する。
メーガスは炎の球を作りだし、騎士の魔物へ放った。しかし、元々魔防が高い固体なので、弾かれてしまった。
再度、剣が振り上げられる。
メーガスは攻撃を避け、マスから出てしまった。これで、駒は死んだも同然になった。
「む。すまん」
怪我をするよりはいい。不死と言っても、痛みは感じるから。
こちらの数が減れば、どんどん騎士の魔物が進撃してくる。
雪の大精霊様も活躍を見せてくれた。氷雪魔法で魔法使いを倒し、一歩有利へと近づく。
アルフレートは戦闘を避け、女王を詰めようと一点集中型で突き進んでいた。
それを妨害しようと、騎士の駒が迫る。
ホラーツは騎士の駒に、私を戦わせるように進めた。なんとか、アルフレートに到達する前に、対峙することができた。後攻だけどね。
けれど、適正職業の祝福があるので、さほど問題ではないだろう。
騎士と騎士。剣を交える。
重たい一撃を聖剣で受け止める。
剣技の技術は劣っているが、勇者の適正と祝福の力でなんとか応戦できていた。
獅子頭の騎士が気合の叫びと共に、必殺の一撃を放ってくる。
『グルオオオオオ!!』
私は聖剣に炎を纏わせ、剣を盾のように構えて防御に努めた。
重たすぎる一撃がドカンと剣の腹に落ちて来た。まるで、雷撃を受けたような衝撃。
攻撃を躱さずに受けたのは理由がある。
騎士の必殺技は剣に魔力を走らせて発動する。
なので、攻撃を受ける剣に炎を纏わせて、相手の剣に引火するように仕掛けたのだ。
獅子頭の騎士は炎が剣に燃え移り、ごうごうと激しくなっていく。
その炎は全身を包んで、巨体はぐらりと傾いた。
私は聖剣を振り翳し、獅子頭の騎士に止めを刺した。
「エルフリーデ、よくやった!」
でへへ。アルフレートに褒められた。
まあこれも、騎士と勇者適正頼りの力なんだけど。
アルフレートと、敵方女王の距離が狭まる。
その後、数回のターンを経て、ようやく対峙することになった。
敵司令官の魔人アケディアは、憂鬱そうに呟く。
『お前達の実力を見誤っていた。こうなることがわかっていたならば、もっと強力な魔物を用意しておくべきだった。私の左腕を、配置すればよかった……』
なんと、魔人側は最強の魔物を配置していなかったらしい。出し惜しみをしていたとは。舐めてくれる。
アルフレート対女王戦。先制はアルフレート。
適正職業の祝福が与えられる。
魔法攻撃+100、防御+80、魔防80。
加えて、先制攻撃の祝福が、魔法攻撃+50。
対する女王は、杖を掲げる。
アルフレートは氷の槍を女王へと降らせた。
そのまま身を貫くかと思いきや、頭上に魔法陣が浮かぶ。
現れたのは、マスの上にいた騎士。代わりに体を貫かれ、息絶える。
なるほど。女王はマス状の駒を身代わりにする魔法が使えるらしい。
これで、残りの駒は女王一体のみになった。
けれど、ここで想定外の事態となる。
女王が呪文を唱えれば、倒したはずの駒が復活したのだ。しかも、アルフレートの周辺に。
けれど、様子がおかしい。体の至る場所が腐り落ちていた。
どうやら女王は死霊術師らしい。
アルフレートは一斉に攻撃を受ける。
兵士の槍に貫かれ、騎士の剣が胸に突き刺さり、魔法使いの雷撃を喰らう。
けれど、適正職業の祝福がないので、衝撃は半減以下だったようだ。アルフレートはなんとか堪える。大怪我を負っているので、満身創痍状態であったが。
少し離れたマスにいる私は、アルフレートにエリキサと呼ばれる万能の妙薬を投げた。
が、届かずに死霊の騎士の上に落ちてしまった。
瓶が割れて、びしゃりと霊薬が獅子頭の騎士にかかる。
まさか、久々に悪制球を披露してしまうとは。
『グオオオオオオ!!』
けれど、想定外の事態となる。
腐敗が進み、その場に崩れ落ちる騎士。
どうやら、腐敗した体に霊薬は毒だったようだ。
「え、あれ? 効果抜群だ。やった~~」
同じように、霊薬を回収して回っていたメルヴが、蔓を使って投げる。
今度はきちんとアルフレートに届き、傷の回復に使えたようだ。
アルフレートの反撃が始まる。
まず、周囲の死霊の駒を倒していった。周囲四マスへの、氷柱攻撃である。
死霊の駒は全滅。女王も傷を負っていた。
女王も反撃にでる。再度、騎士を復活させていた。けれど、魔力不足だったようで、騎士は現れなかった。
アルフレートは最後の一撃を決める。
大きな氷の礫を作りだし、女王の頭上へ落とした。
女王は押し潰され、息絶える。勝負はついた。
『――なるほど。僕の負けか』
魔人アケディアは素直に負けを認めた。
そして、処刑台へと歩んでいく。
アルフレートはホラーツと顔を見合わせ、健闘を称え合っているように見えた。
それから、ホラーツは視線で魔人アケディアのほうを見るように示す。アルフレートはコクリと頷いていた。
どうやら、二人は目と目で会話をしていたようだ。
「待て」
アルフレートが魔人アケディアの歩みを止める。
『何?』
「お前は、魔王に協力的でないな?」
『だって、面倒くさいでしょう?』
さすが、怠惰の魔人。魔王の配下にいても、やる気を見せないとは。
そんな魔人アケディアに、アルフレートはある取引を持ちかける。
「ならば、私の眷属にならないか?」
『なぜ?』
「殺すのが惜しいと思ったからだ。率直に言えば、利用したい。力を貸せとは言わない。ただ、魔王についての情報を提供してほしい」
アルフレートの正直過ぎる申し出に、目を細めるアケディア。
それは、楽しそうな表情にも見えた。
『魔人に魔王を裏切る契約を持ちかけるとはね。面白い』
「私達は、無駄な争いをしたくない。早期解決を望んでいる。そのためには、魔人よ、お前の協力が必要なのだ」
眷属にしちゃえば悪さはできない。
アルフレートのお誘いにはびっくりしたけれど、気だるげなアケディアのことだ。私達の仲間に加わっても、だらだらするだけで、害になることもないだろう。
『お前の配下になる対価は?』
「三食昼寝つき」
『いいよ』
魔人アケディアはあっさりとアルフレートの眷属になることを了承した。それでいいのか、魔王軍七ツ柱。
猫頭の少年は、アルフレートの前にやって来て、片膝を突く。
アルフレートは手の平をナイフで切りつけ、血を滲ませる。
玉になった血を、魔人アケディアへ与えた。
魔力の結晶たる血を受けて、震える魔人アケディア。ぶわりと毛が逆立っていた。
『あ……ああ!』
頭を抱え、その場に蹲った。
すると、変化が起こる。
紫色だった毛は金色になり、目の色もアルフレートと同じ青に変わった。
魔人アケディアは、アルフレートの眷属となった。
儀式が終われば、何事もなかったかのように立ち上がる魔人アケディア。
『はあ、面倒くさかった』
【怠惰】の魔人らしいことを呟いたが、物憂げな雰囲気はいくぶんか和らいでいる。
「じゃあ、帰ろうか」
そんな言葉をかければ、目を見開いて驚いていた。
アルフレートに早く来るように言われ、こちらへと駆けてくる。
新しい仲間が加わった。
残りの魔人は【傲慢】の一体。
油断しないようにして、挑みたい。
▼notice▼
霊薬
とある天才魔法使いが作ったレシピを元に生成された物。
回復効果は絶大。