第百十話 続く――戦い
村人や領主様など、ホッとした様子を見せていた。
やっとゆっくり夜も眠れることだろう。
これから村の復興のため、さまざまな物資が運ばれることを告げる。
竜人と翼竜がやって来るが、驚かないようにと伝えておいた。
話ではクレシル姫も慰問する予定だとか。美人なお姫様を見て、心癒されてほしいと思った。
村からでて行く時、勇者万歳の言葉で見送られる。ちょっと恥ずかしいけれど、嬉しかった。
私達は諸々の報告するために、アーガンソウへ戻った。
◇◇◇
連合軍の進撃は著しく、占拠された地域も続々と解放されていた。
復興が始まったところも多々ある。
竜人達の全面協力により、物資は早々に届けられているのだ。鼠妖精の奥様方も、いろいろと協力してくれる。各地方より、「癒されている」という声が届いていた。
荒んだ心には、鼠妖精を見て、ほんわかするのが一番なのだ。
今までの情報をまとめる。
まず、魔王軍の魔物は魔人の呪いの力によって、大幅に強化されていた。けれど、指揮する魔人を倒せば、その力もなくなる、
魔人は七体存在する。
牛のような姿をした、【暴食】の魔人グラ。
兎頭で色っぽい体つきをした【色欲】の魔人ルクスリア。
蠍の頭部と尾を持つ【憤怒】の魔人イラ。
少女の上半身に蜘蛛の下半身を持つ【嫉妬】のインウィディア。
どうやら、枢要罪の負の感情の数だけいるようだった。
残りは【怠惰】、【強欲】、【傲慢】の三体だろう。どの魔人も個性豊かで、強力な力を秘めていた。油断は片時もできない。
会議の途中に、慌てた様子の騎士が入って来る。
アーガンソウの総司令官殿に、何やら耳打ちをしていた。
ハッと見開かれる目。何か、大変なことが起きたに違いない。
「――たった今、報告が。リネンセイが、ほぼ壊滅状態であると」
リネンセイは魔王軍に一度占拠された場所だったが、連合軍の奮闘で解放されたばかりの場所だった。
領民達は避難し、非戦闘民はいない場所で、連合軍の後方支援地になっていたのだ。
そこを再度襲撃してくるとは。なんて狡猾な手を使うのか。
話によれば、魔人の姿が確認されているらしい。
「報告では、猫の頭部に少年のような体をした魔人であると」
なんか、魔防強そうだなと思った。
しかも、猫っぽい魔人は二体いるらしい。
精鋭軍が集まる場所が、一瞬のうちに奪われてしまった理由を察する。
「それで――」
ちらりとこちらを見る総司令官殿。
私は隣に座るアルフレートと視線を合わせて頷き合う。戦場から戻って来たばかりだけど、もちろん救援に行くの一択であった。
それからリチャード殿下に、「すぐに行けます」と伝えてもらうことにした。
「すまない……無理を頼んでしまって……」
精霊なので、人間的な体の疲労は感じないし、心配ご無用だ。この場では言わないけれどね。
私達が精霊であるということは、リチャード殿下を始めとする一部の人しか知らない。これから公表するつもりもなかった。
超人的な力は、勇者の特性によるものだと説明していた。
精神的にはどっぷり疲れているけれど、アルフレートと一緒だから大丈夫。
二人きりになれる天幕とは貸してもらったら、もふもふして癒されたい。いや、無理か。
まあ、今は戦うことが第一なのだ。
人類側の物資も無限ではない。世界の魔力量も魔王軍に結構消費されているようなので、決着は早めにつけなければならないのだ。
リネンセイまで、プラタとメレンゲに連れて行ってもらう。
今回も、ホラーツにメーガス、メルヴに雪の大精霊様が同行してくれることになった。
さあ出発! と思っていたところで、意外な人物の参戦が明らかとなる。
「今回は私もゆくぞ」
「お義母様!」
そんな、離宮にいると思っていたのに、なぜ?
無理はしてほしくないと言ったが、首を横に振るお義母様。
「これ以上、魔王軍の好きにはさせぬ。息子と嫁子も、私が守るのだ」
「お義母様……」
ぎゅうっと、お義母様の肩を抱きしめる。鎧姿だったので、痛いといわれてしまった。これは失礼。
離れて謝罪をすれば、冗談だと言われる。
やだ、お義母様の冗談わかりにくい。
こういうところは、親子そっくりだなと思った。
チュチュとドリスもアーガンソウに来ていた。
グラセも不安そうにこちらを見ている。
「大丈夫。きっと勝てるから、信じて待ってて」
一人一人、手を握ってから別れる。
連合軍の見送りを受けながら、竜に跨った私達はリネンセイの地へと急いだ。
◇◇◇
上空から眺めるリネンセイの様子は悲惨の一言。
撤退できなかった兵士達の亡骸が、見せしめのように広場に吊るされていた。
なぜかそこには巨大な蜥蜴が鎖で繋がれていた。あれはいったい――?
私の後ろに跨るメーガスが、忌々しいと吐き捨てた。
「公開処刑でもしているのだろう。胸糞悪い奴らめ」
メーガス曰く、自我のない低位の魔物を使い、兵士達を惨殺しているようだと。
あまり確認したくないけれど、確かに兵士達の亡骸は悲惨な状態になっている。
「酷い……」
「ああ。一刻も早く、倒さねば」
「そうだね」
戦闘場所は開けば広場がいいと思った。飛び降りて、まずは巨大蜥蜴を倒し、魔王軍と魔人を迎え撃つ。
ホラーツとお義母様、雪の大精霊様はリネンセイの外から攻撃を仕かけることに決まった。
「じ、じゃあ、飛び降りないとね」
「ああ。先に行け」
「わ、私から!?」
「老い先短い老人に行けと言うのか?」
「いや、老い先短くないでしょう」
メーガスは精霊なのだ。それに、今は若がえりの魔法をかけているので、四十代くらいの姿でいる。
「いいから先に行け」
どん! と背中を押され、メレンゲの背中から転がるように落下。
同時にアルフレートの飛び込む姿も視界の端に移る。
酷い、酷いよ、メーガス。あとで恨み言をぶつけようと思った。
途中、ひゅるんと蔓のような物が腰に巻きついて来る。
『エルサ~~ン!』
「メルヴ!」
蔓を伝い、メルヴがやって来た。一緒に落ちて……じゃなくて、降りてくれるらしい。
そろそろ地上が迫っているので、炎狼を呼ぼう。そんな風に考えていたら、口をぱかっと開いて私の着地を待つ巨大蜥蜴の姿が。
「えっ、うわっ、これ着地失敗じゃんか!!」
私とメルヴは巨大蜥蜴の口の中に着地しようとしていた。
「炎狼、早く来て~~!!」
大至急と叫ぶ。空中に魔法陣が浮かび、炎狼が来てくれた。
無事、背中に跨ることに成功したけれど、落下地点に変わりはなく。
残念ながら、炎狼は空を飛べないのだ。
『メルヴニ、任セテ!!』
メルヴは頭の上から二本の蔓を伸ばし、一本は炎狼の体に巻きつける。猛一本は破壊されてむき出しになった時計塔の柱に伸ばし、くるくると巻きつけていた。
炎狼は蔓の巻きつけた方向へ、軌道変更する。
なんとか崩れかけた時計塔に着地できた。
「あ、危なかった!」
『ダネ~』
「メルヴ、ありがとうね」
『イエイエ!』
巨大蜥蜴は繋がれた鎖をピンと伸ばし、ガウガウ鳴いていた。
続いて、アルフレートも降りてきたので、炎狼に着地する前に受け止めるよう頼んだ。
地上寸前でアルフレートを回収する炎狼。
それから、時計塔を上って合流した。
「さてと、どうしようかな」
「まずはあの蜥蜴をどうにかするべきだろう」
「噛みつかれたら痛そうだしね」
兵士達の亡骸が一番気になるけれど、弔うのは戦いが終わってからだろう。
私とアルフレートは魔法で炎と氷の槍を作りだした。
振り上げて、全力で投げる。
まず、アルフレートの氷の槍が体を貫いた。そこで、息絶えたように見える。
次に、私の槍が胸部に刺さり、体は燃え上がって炭と化す。
低位魔物なので、さほど苦労もなく倒すことができたが――
『やあ、酷いことをしてくれるね』
少年の高い声が聞こえた――かと思えば、とん! と背中を押されて時計塔から落下する。
あれは、魔人!?
落ちていく私を、猫頭の少年が目を細めて笑いながら、見つめていた。
もう、落下するのは嫌なんだって!
▼notice▼
もふもふ
エルフリーデの癒しの時間。
最高に疲れている時は、アルフレートに猫耳をお願いする。
かなりの確率で嫌がられるが。




