第百八話 救出――孤立した領地
その後、連合軍の猛攻が始まった。
各国の精鋭が集まった部隊は初めこそ統率が取れていなかったが、合同訓練や食事会など、共に過ごす時間を増やせば、おのずと息も合うようになる。
剣と剣を交え、酒を交わせば相手が見えてくるのだろう。
けれど、わかり合う中に会話も含まれるので、通訳さんは大変そうだった。
私達は魔王の本拠地となっている、北の亡国を目指す。
ここ数日の戦果により、前線は北上していった。
魔人がでてこないのが不安だけれど、なかなかいい調子だろう。
一昨日、クレシル姫が後方支援をしにやって来た。美しいお姫様を前に、兵士達の士気もぐっと上がっていたという。
そして、メーガスは動きやすいからと言って、四十代くらいの姿でいたら、お城のお姉様達にモテまくり、困っているとか。『焔の大魔術師様』と呼ばれてちやほやされているらしい。
なので、戦場から戻れば、実年齢に戻ると言っていた。
遠慮などせず、ぜひとも桃色の人生を歩んで欲しいを思った。
暗くならないように毎日を過ごしていたけれど、そうならざるを得ない日も訪れる。
アーガンソウの第六王子が、魔人の手によって殺されてしまったのだ。
四肢は切り刻まれ、首は長い棒に吊るされて長時間晒されていた。
報告を受け、アルフレートと共に現場に駆けつける。
その魔物は蠍の頭部に人の手足を持つ、憤怒の魔人『イラ』と名乗っていた。
戦闘中、ずっと人類への恨み言をぶつけられる。
相手は魔法を使う魔人で、手こずってしまった。
隙を見てアルフレートが頭部の殻を砕き、私の炎で身を焼き尽くす。なんとか勝利を収めた。
王子の亡骸を持ちかえれば、責任は私達の身に降りかかる。
報告を受けた時には別の戦場にいたので、どうしようもなかったが、第六王子の母親――アーガンソウの王妃様に糾弾されてしまったのだ。
勇者といえど、千里の目を持っているわけではない。
万能の神でもないのだ。
けれど、私とアルフレートは、怒りを受け入れた。
精霊になったからか、元々鈍感だからか、八つ当たりをされてもさほど思うことはなかった。
これも勇者の役目だと、魔剣スノウから聞いて知っていたからかもしれないけれど。
悲しみの連鎖は、一刻も早く止めなければならない。
戦争を早く終わらせなければ。
今回のできごとをきっかけに、よりいっそう思うようになった。
◇◇◇
私達はある場所まで向かっていた。そこはとある魔人が占拠している地で、領民らは奴隷として労働させられているのだ。
連合軍が近寄ろうとすれば、領民を殺すという通達が届いているらしい。ゾッとする。
一刻も早く救出しなければならないと、連合軍司令部は判断。少数精鋭で行われる作戦が立てられた。
闇に紛れ、敵本拠地へと向かうのは、私とアルフレート、メーガス、ホラーツ、メルヴに雪の大精霊様。
今回の作戦に、竜人の兵士達も協力してくれることになった。
こちらが合図をだせば、いっせいに上空から制圧してくれるらしい。
場所自体は広くない。鼠妖精の村よりも小規模だろう。
作戦開始は昼間から。
まず、ホラーツの幻術で姿を紛らわせ、内部へ潜入する。
村の様子はいたって普通だった。
女性達は家事をして、男性達は働きにでかける。
けれど、皆の顔色は冴えない。
食堂は昼から異様な盛り上がりを見せていた。そっと覗き込めば、上位魔物達――二足歩行で知能が高い奴らがどんちゃん騒ぎをしていたのだ。
危うく悲鳴を上げそうになる。
酒場も同様だった。商店は荒らされ、見る影もない。
物資はどうやら他所から強奪しているようだった。
途中で青い顔をして荷車を押す村人と、中位魔物らしき獣人の姿を見かけた。
見た感じでは村人達に危害は与えていないようだけど、明らかに村を占拠していた。
村の中でひときわ立派な屋敷が見える。
領主の館だ。あそこに魔人がいる。
ここで、二手に分かれることになった。
ホラーツとメーガス、雪の大精霊様は村人の救出係を担当。
私とアルフレート、メルヴは魔人を倒す。
『アルフレート様、エルフリーデ様、メルヴ様も、どうかお気をつけて』
ホラーツの言葉を受け、メルヴは頭部の葉っぱで親指をぐっと立てるような形を作っていた。
「ああ、爺とメーガス殿、雪の大精霊様も」
アルフレートの言葉に、ホラーツとメーガスは頷いていた。
雪の大精霊様は大型の狼になって、心配をされるまでもないと、ふんと鼻を鳴らす。
ホラーツ達と別れ、私とアルフレート、メルヴは領主の館へと進んでいく。
どうせ変装しても気配で人間ではないとバレてしまうので、鎧姿のまま潜入した。
内部に人の気配はなかった。
それが返って不気味に思ってしまう。
ぎゅっと聖剣の柄を握りしめ、先へ、先へと進んでいった。
『ア!』
「メルヴ、どうしたの?」
『アノ、鎧、変!』
廊下の少し先に、板金鎧の置物がある。メルヴはそれを指差して、奇妙だと教えてくれた。
アルフレートが魔剣を抜く。その刹那、ギギギと、油の切れた歯車のような動きで、板金鎧の兜が動いた。
あれは置物の振りをしていた魔物!?
慌てて私も聖剣を鞘から引き抜く。
突然素早く動きだす板金鎧。
壁に飾ってあった槍を手にしながら、襲いかかってくる。
――凍土から胚胎するは、空風と冬帝の北颪。冷冷たる振りは、あまたのものを冱て尽くす。
アルフレートの詠唱で、氷の魔法が紡がれる。
鋭い氷柱が地面から生え、板金鎧の体を貫いた。
カランカランと兜が外れ、その場に倒れる板金鎧。
やったかと思ったが、アルフレートに近づくなと注意される。
廊下に伏した鎧は、まだカタカタと動いていた。
「ええええ、なんなの!?」
「あれは、首なしの騎士だ」
「なんと!」
首を刈られた騎士の怨念が魔物の姿となった存在、首なしの騎士。物語の中にのみ存在するものだと思っていたが。
「アルフレート、あれ、どうやって倒すの?」
「そうだな……まずは動きを止めて……」
ゆらりと起き上がる首なしの騎士。
メルヴが鋭くした葉を投げつけたが、剣で弾き返す。
「来るぞ!」
「お、おう……」
剣を振り上げながら襲い掛かって来る首なしの騎士。アルフレートは魔剣で攻撃を受け止める。
弾き返し、相手がよろめいた瞬間に、私は炎の球を放った。
火の球を受けて膝を突き、燃え上がる首なしの騎士。けれど、炎を纏ったままゆらりと立ち上がる。
「そ、そんなのって有り!?」
「みたいだな」
アルフレートは氷の柱を作りだし、首なしの騎士の行く手を阻んだ。
けれど、草を刈るように、氷柱は両断されてしまう。
「うわ、魔防高いな!」
どうにもならないので、私は奥の手を使う。
「ローゼ、リリー!!」
筋肉妖精の姉妹を呼べば、巨大な蕾が出現する。ふわりと蕾が綻び、中からローゼとリリーがでてきた。
「ごめん、首なしの騎士を倒して欲しいの!」
『わかりました』
『お安いご用ですわ』
二人は杖を取り出し、手にしたかと思えば、同時に首なしの騎士へと振り上げる。
ローゼは槍のように突き、リリーは高い位置から振り下ろした。
強力な打撃を受け、よろめく首なしの騎士。
『アルフレート様、エルフリーデ様!』
『今です!』
振り返って叫ぶ筋肉妖精の姉妹達に、「お、おお」と返事をする。
アルフレートと共に作りだしたのは、炎の槍と氷の槍。
それをフラフラしていた首なしの騎士に思いっきり突き刺す。
左右同時に突かれ、苦悶の叫び声を漏らす首なしの騎士。
頭がないのに、どこから声がでているのか。
槍から手を離し、距離を取る。
メルヴが投げた葉の攻撃を受け、転倒していた。
止めに、ローゼが拳を入れ、リリーが蹴りを決める。
鎧は砕け散り、黒い靄となって消えて行った。
なんとか倒せたので、ホッとひと息。
休んでいる暇などないので、先に進むことにした。
▼notice▼
首なしの騎士
上位魔物。根暗で、村の飲み会に誘われなかったので、廊下でぼっち見張りをしていた。




