第十一話 意外――アルフレートの知人について
とりあえず、魔石作りはどうにかなりそうだ。
各家庭に魔石大・一個、魔石中・一個、魔石小・ニ個くらいあればいいだろうか?
魔石大は暖炉用、魔石中はお風呂用、魔石小は台所の竈などに使う。
それを三十世帯分。
けっこうな量の鉱石が必要となりそうだった。
持ち帰ることを考えたら、召喚したのは筋肉妖精で大正解だったのかもしれない。
アルフレートとホラーツには――今度、紹介しよう。一日に何度も呼び出すのは悪いし、ね。
そういうことにしておいた。
◇◇◇
午後からはアルフレートとお供のチュチュと共に、村の騎士団を訪問する。
領主のお城から鼠妖精村に辿り着けば、何からチラチラと視線を感じていた。
「なんか、凄い視線を感じるんだけど」
「有名人だからな、お前は」
「有名人? 私が?」
「ああ。連日新聞に書かれていたからだろう」
「な、何それ!?」
驚いたことに、私が陶器工房に不滅の炎を放ったことが鼠妖精の村で配布されている新聞の一面記事になっていたとか。
「新聞社よりインタビューをしたいという話もきていたが、多忙を理由に断っておいた」
「そ、そうなんだ。ありがとう」
いったいどんなことが書かれていたのか。帰宅をしたら確認をさせてもらおう。
三日前に来た時よりも注目を受けた状況のまま、騎士団の駐屯地へと到着した。
鼠妖精騎士団の建物は小さく、私とアルフレートが入るには窮屈なので、チュチュに団長を呼んできてもらうことに。
ちなみに騎士団の建物は、外観上は小規模だが、地下が広いらしい。
そのほとんどが訓練場だとか。
数分後、鎧姿の鼠妖精達が一列に並んで出てきた。
鎧は全身を覆う板金鎧。
兜から耳が露出しているのがなんとも可愛らしい。
小さな騎士様は全員で三十もいるだろうか?
手には、各々得物を握っている。剣に槍、弓矢に杖などなど。
騎士の妖精さん達は、キリリとした様子で整列した。風が吹けば、肩に着けてあるマントがひらりとはためく。
その様子を眺めていれば、勇まし可愛いという言葉が頭の中に浮かんだ。
皆一斉に目元を覆っていた兜のバイザーを上げ、団長っぽい、ひと際厳めしい雰囲気の鼠妖精が号令を出すと、びしっと敬礼してくれる。
私は「いやはやご丁寧に」と会釈を返し、アルフレートは静かにそれを受け入れていた。
鉱山に行く話はすでに済んでいるようで、同行するメンバーを紹介してくれた。
勇敢なチュロー、陽気なチュール、真面目なチュライ。揃って弓兵である。
魔法も少しだけ使えるらしい。魔法で火などを矢に付与し、撃つことも可能だと話す。
頼もしい存在だと思った。
弓兵達の実演も少しだけ見せてもらった。
木に張り付けた的に矢が放たれ、どんどんと中心を射止めていく。
腕は確かなようだった。
出発は明日、翼竜便が荷物を持ってくるので、そこに同乗させてもらう。
魔石の素となる鉱石はそこまで深く潜って探すわけではないので、半日ほどで集まる
とのこと。
駆け足での日程ではあるが、薪が尽きる前に魔石を作らなければならないので、なるべく急ぎたい。
騎士団の視察が終了すると、そのまま真っすぐお屋敷に戻る。
執務室でお茶を楽しんでいたが、ふと疑問が浮かんだので、質問をしてみた。
「アルフレート、そういえば、もう一人の前衛ってどんな人なの?」
「竜人だ」
「へえ、それはまた、珍しい」
妖精村のお隣は、竜人が暮らす里だとか。
彼らは人前には絶対に姿を現さない、慎重な性格の種族なのだ。
「同行してくれるのは、ヤンという青年で、竜人としては、少し、いや、かなり変わっている」
「どんな人なの?」
「一言で表せば、騒がしい」
「……な、なるほど」
なんでも、アルフレートとヤン青年との出会いは五年前まで遡るらしい。
アルフレートは眉間に皺を寄せながら、思い出を話し始める。
――ある日、夜会で悲鳴が上がった。
聞こえた場所に近い位置にいたアルフレートは、騒ぎを確認しにいく。
すると、一輪の花を持って片膝を突く、竜人の青年が貴族令嬢に求婚をしていたのだ。
蜥蜴のような頭部に全身鱗に覆われた体、太く長い尾に、鋭い爪。
そんな存在が律儀にも貴族の礼服をまとい、人の娘に愛を囁いている。
「あの当時、我が目を疑ったものだった。まさか、人里を嫌っている竜人がやって来ることなど、誰が予想できたものかと」
一瞬、誰かの仮装かな、とも思っていたらしい。
けれど、正真正銘、本物の竜人だったのだ。
夜会の招待状は、親しい関係になりたいと思った商人だか貴族だかが、ヤンの一家が国で唯一翼竜の繁殖に成功し、飼いならしている噂を聞き付け、竜人だと知らずに送ったとか。
「でも、竜人のヤンは人間の社交界が開かれている夜会に何をしに来たの?」
「困ったことに、あれは人間の女性が好きなんだ」
「それはそれは……」
彼は会場内で一番に目に付いた女性にいきなり求婚した。
獰猛な二足歩行の蜥蜴にしか見えない姿と、人の感覚ではありえない台詞を聞き、絹を裂くような悲鳴が上がったというわけだった。
「まあ、見た目はもちろんのこと、求婚の言葉も悪かった」
――こんな美味そうな女、見たことがない!
「え~っと、それは言われたくないな……」
「一応、竜人最大の褒め言葉らしい」
「異文化だなあ~」
ヤンが夜会にやって来た目的は言わずもがな、お嫁さん探しだったのだ。
その後もめげずに女性に声をかけ続けていたが、当然ながら結果は振るわないものだったらしい。
「そういうわけだから、お前も気をつけ――」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
「あ、うん」
早口言葉だったので、聞き逃してしまった。大した内容ではないとのこと。
「今回、過去に貸した借りを返すつもりで同行するようにと言ってある。腕だけは確かなので、魔物が出ても心配は要らない」
「竜人って無条件に強そうに思えるよね」
「実際強いからな」
聞けば、ヤンとの付き合いの始まりは、暴走していたところを止めたことから始まった。
二年目も三年目も、懲りずに夜会会場に現れていたらしい。その度に、アルフレートは騒ぎを収めるために奔走していたと。
時には、女性を集めるための餌にされかけたこともあったと話していた。
「なんだか面白そうな人だね」
「面白くない。私はあれのせいで、王都ではいろいろと苦労した」
明日、久々に会うのが憂鬱だと呟いている。
けれど、その表情は心底嫌だという感じではない。親しいからこそ、そんなことが言えるのだろう。
「炎の、お前は――」
「はい?」
「一応、女性の姿をしている」
「……あ~、うん。まあ、ね」
「ヤンがいろいろとちょっかいをかけてくるかもしれないから、気を付けておけ」
「それはどうだろう?」
短い髪に平らな胸、ガリガリの手足など、女性らしい要素は皆無なので、心配はいらないかと。
……なんだか、悲しい事実に気付いてしまった。
それと同時に、大変な可能性に気付いてしまう。
「うわ!」
「どうした?」
「な、なんでもない」
竜人って、嗅覚とか発達していたりするのだろうか?
匂いで人間か精霊か嗅ぎ分けられたりしたら困る。
これを、アルフレートに聞くわけにはいかない。不審に思われたら最後だ。
チュチュは、知っているだろうか?
彼女ならば、普通に知識として教えてくれそうな気がする。
一旦準備をすると言って、アルフレートの執務室から出た。
チュチュは扉の向かいの壁に沿うように立って待機をしていた。
「やあチュチュ、お待たせ。部屋に戻ろう」
『はい』
歩きなら問いかける。
竜人を知っているかと。
『ええ、存じております。たまに、団体様がいらっしゃって、陶器を買って行かれますよ』
「そうなんだ」
勇気を出して質問をする。
彼らは、どのような点が優れているのかと。
▼notice▼
=status=
name :チュレリー
age :30
height:60
class :弓騎士
equipment:騎士鎧、白樺の弓矢
skill:絶対命中【LV.66】
title:???
magic:???
name :チュール
age :23
height:65
class :弓騎士
equipment:騎士鎧、白樺の弓矢
skill:絶対命中【LV.56】
title:???
magic:???
name :チュロー
age :19
height:57
class :弓騎士
equipment:騎士鎧、白樺の弓矢
skill:絶対命中【LV.40】
title:???
magic:???




