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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】
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第百六話 魔人――対決

 思い切って竜の背中から飛び降りたけれど、死ぬかと思った。

 着地は絶対に失敗すると思い、炎狼フロガ・ヴォルクを呼んだ。

 空気の読める子なので、落下する私を跳び上がって受け止めてくれたのだ。

 すぐ近くでは、アルフレートが雪の大精霊様に跨っていた。同じようなことを考えていたらしい。

 炎狼フロガ・ヴォルクと雪の大精霊様は馬よりも一回り大きな姿になっている。立派な精霊のいでたちであった。


「アルフレート、じゃあ、あとでね!」

「わかった。いろいろ、気をつけるように」

「了解デス」


 アルフレートと別れ、まずは孤立している兵士の元へと向かう。

 戦闘能力のバランスを考えて、筋肉妖精マッスル・フェアリはアルフレートと共に向かってもらうことにした。


 途中、角の生えた二足歩行の牛みたいな魔物に囲まれている兵士達を発見。

 敵は三体。

 拳大の炎の球を作りだし、同時に飛ばした。

 見事、牛っぽい魔物の後頭部に直撃。

 くるりと振り返る牛。

 頭の左右から生えている角をこちらへと向けて、突進してくるが、炎狼フロガ・ヴォルクは地面を蹴って攻撃を軽やかに回避する。

 その間、私は術式を組み立て、魔法を発動させた。


 ――凍解いてどけ撃ち破る果ての蔦焔つたほむら釁隙きんげきなく紡ぎ、近傍きんぼうの敵対者を縛り執れ!!


 ポツポツと周囲に魔法陣が浮かび上がり、するすると炎の蔓が生えてくる。 

 魔物の足元に絡まり、全身を巻き取って身動きを取れなくすると、最終的に蔓が炎を発する。

 牛の魔物は燃え上がり、一瞬で炭となった。


 呆然とする兵士達には、自分が勇者である旨を名乗り、救援に回るように指示をだす。

 兵士達は返事をしたかと思えば、弾かれたように走り去る。私の存在に、少しでも希望を見出してくれたらいいけれど。


 強い魔力を感じたからか、魔物がどんどん近寄って攻撃を仕かけてきた。

 私は聖剣を鞘から抜いて、切っ先を向ける。

 長い戦いの始まりであった。


 聖剣は持っているだけで、使わない。杖代わりに揮うだけ。

 炎狼フロガ・ヴォルクのおかげで、攻撃はまだ一度も受けていない。

 反撃ヒットしつつアンド後退アウェイを繰り返していた。


 けれども、戦っても戦っても数が減らない魔王軍。

 これは、体力に限りがある兵士は辛いだろう。


 途中で筋肉妖精マッスル・フェアリ達が援軍に来てくれた。


 みんなの奮闘あって、この辺りの兵士達は撤退させることに成功した。

 あとは、新たな援軍を待つばかり、なんだけど。


 再度、遠くが怪しい紫色に発光する。

 あれは、移出魔法の光?


「ええ、もうやだ~~!!」

『耐えなさい。勇者でしょう?』

「わかっているけれどさあ」


 私の心が折れそうになれば、聖剣が活を入れてくれる。

 でも、でもでも。

 現状は酷すぎるとしか言いようがない。あんな大群、援軍が来ても焼け石に水的な感じになるのではと、聖剣に弱音を吐いた。


 幸い、魔力はみなぎっているし、元気なんだけど。

 先が見えない戦いは辛い。

 アルフレートは大丈夫だろうか?

 雪の大精霊様もが一緒なので、心配ないだろうが。


 白目を剥きつつ、魔物を魔法で倒していく。


『オマエガ、裏切リモノ、カ?』


 ふいに、男の甲高い声が聞こえた。ぞっと、全身に鳥肌が立つ。

 地面に黒い魔法陣が浮かび上がり、周囲の魔物を取り込んで行く。

 バリバリと肉を齧るように、魔物は魔法陣に喰われていった。


「あ、あれは――」

『魔人ですわ。気をつけて』

「ええ~~」


 ついに魔人のおでましみたいだ。

 アルフレートのところにでるのは嫌だと思っていたけれど、自分のところにでるのも嫌だった。


 会いたくない相手を今から迎えることを、心から不幸に思う。

 気落ちしているところに、幻聴が聞こえた。


『エルサ~ン』


 メルヴの声だ。心が癒しを求めているのか。


『エルサ~ン、会イニキタヨ~~』

「メルヴ~~、私も会いたいよ~~」


 思わずその場で叫んでしまった。


『良カッタ!』

「うん?」


 メルヴの声が、炎狼フロガ・ヴォルクの足元から聞こえる。

 下を覗き込めば、メルヴの姿が。


「え? ほ、本物のメルヴだ!」

『ウン、メルヴダヨ!』


 ピシっと手を挙げて挨拶をしてくれる。

 嬉しい! メルヴが来てくれた。でも、どうして?

 手を差し伸べれば、蔓を伸ばして私の腕に絡ませ、炎狼フロガ・ヴォルクの背に跳び乗ってきた。


「メルヴ、どうしたの?」

『アル様ガ、エルサンヲ、助ケテッテ』

「そうだったんだ……。アルフレートが、メルヴを」

『安心シテネ』

「ありがとう、嬉しい」


 メルヴが来てくれただけで、心強くなった。

 その様子をみていた聖剣が、ぼやく。


『ねえ、見ました、炎狼フロガ・ヴォルク? わたくし達今まで一緒に戦っていたのに、葉っぱがやって来ただけで勇気が湧いたって』

「あ、うん、ごめんね。感覚が麻痺していて」


 炎狼フロガ・ヴォルクは攻撃を回避しつつも、炎を吐きだして詠唱する時間を稼いでくれた。聖剣も、祝福をしてくれている。

 二人や筋肉妖精マッスル・フェアリ達にも、感謝をしなくてはならない。


「みんな、ありがとうね」

『まあ、いいですけれど。さっさと倒して、スノウの所に行きましょう』

「そうだね」


 私もアルフレートの元に行きたい。

 ここが頑張り時だろう。

 ついに、魔人が現われる。

 黒い魔法陣から、ズ、ズ、ズとゆっくりでてきた。

 まず、黒い角が二本見えた。角の生えた牛をたくさん呑み込んだので、同じような姿になったのだろうか。

 ゆっくり、ゆっくりと地上に姿を現す魔人。牛頭で筋肉隆々。肩からは鋭い棘のような物が生えている。先端から滴っている液体はきっと毒だろう。見上げるほどの巨体を持っていたが――周囲の筋肉妖精マッスル・フェアリ達が魔人をすぐに取り押さえた。


『グルエエエエエ~~、オノレ、勇者、卑怯ナリ!!』


 いや、卑怯とかどうとか言われましても。油断している魔人が悪い。

 魔人は涙目でじろりと私を睨みつけ、恨み言をぶつけてくる。


『コウイウ時ハ、正々堂々ト、戦ウノガ、オ決マリダロウガ!!』

「ごめん、こっちも余裕ないから」


 拘束されて動けない魔人に向って、魔法を放つ。

 魔人の角がふっとんだ。


『ギャアアアアアアア!! 痛イ、痛イイイイ~~!!』

「あ、なんか、ごめん……」

『許サン……オ前……絶対ニ、許サン……!!』


 けれど、こちらも生活がかかっているので、再度魔法を放つ。

 またまた角に攻撃が当たり、折れ曲がっていた。


『ギャウウウウウン、ソッチノ角、神経メッチャ通ッテイルカラ!! 馬鹿、モウ、馬鹿!!』


 本当の本当に申し訳ないと思うけれど、遠慮なく攻撃させていただく。

 大きな炎の球を作りだし、肩に向かって放った。

 見事着弾。毒の棘は抉れて肩からぽろりと外れた。


『グアアアアアア~~!! 強ク見エル棘ガ、抉レタアアアア!! ソレヨリモ、ナニヨリモ、痛イイイイイイイ~~!! 肩、メッチャ、痛イイイイイイイ!!』


 ごめん。本当に、ごめん。

 私は魔人を倒し、アルフレートと再会しなくてはならないのだ。


「そういえば、あなた、名前は?」

『我ノ、名カ?』


 魔人はふふんと笑いながら言う。


『見テ驚ケ、聞イテ驚ケ、我ハ魔王軍、七ツノ柱の一ツ、『暴食』ノ、グラ、ダ!!』

「そっか。私は勇者エル。よろしくね」

『アア、ヨロシ――』


 返事をした瞬間、私は魔人グラに巨大な炎の球を落とした。

 筋肉妖精マッスル・フェアリ達は、素早く撤退していた。


『ハ、ハアアアアア!? オマ、チョッツ、ヒデエエエエエエ!!!!』


 なんか憎めない性格の奴だったけれど、敵は敵なので。

 容赦をするなと、メーガスに言われていた。

 多分、人間の私だったら、こういうこともできなかっただろう。

 精霊的判断ができたのだ。


 炎の中から、恨み言が聞こえた。


『オ前、最後ノチカラデ、呪ッテヤル!! 来世デ、一日一回、バナナノ皮デ転ブ、呪イダ!!』

「あ、ごめん。私、精霊だから、来世とかないんだ」

『ナンダトオオオオオオオオ!!』


 それが魔人グラ最後の言葉だった。十字を切って合掌する。

 どうか来世では、まともな人間に生まれてきてほしいと思った。


 魔人に来世があるかどうか、わからないけれどね。


 その後、残存部隊と戦う。

 アルフレートのほうで戦っていた筋肉妖精マッスル・フェアリがやって来る。

 どうやら、アルフレートのほうも片づいたようだ。

▼notice▼


魔人グラ

魔王軍七ツの柱【暴食】の魔人。

戦闘能力は三本の指にはいるほど。だが、ちょっと抜けている部分がある。

牛の頭部に、筋肉隆々とした男の体を持っていたが、筋肉妖精に阻まれて、実力を出し切ることが叶わなかった。

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