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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】

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第百三話 アルフレート――精霊化へ

 なんと、今日はアイスクリームの日だった。

 雪の大精霊様を中心に、愉快なパーティーが催される。

 本日はリリンとサリアさんもご招待。リチャード殿下は忙しくて無理だったとか。残念。

 精霊化を知らない人達がびっくりしたらいけないので、髪の毛はホラーツの幻術で黒く、短くしてもらった。これで問題はないだろう。


 リリンと雪の大精霊様の邂逅は微笑ましいものであった。

 雪の大精霊様が小さな仔狼の姿でやってきたのも良かったのだろう。

 リリンの目は輝き、瞬かせれば周囲には星が散っているように見えた。


 そして、アルフレートが頑張って作ったアイスクリームが振る舞われる。

 今回、竜のご夫妻にもおすそ分けしようと、多めに作られた。


『うわ~~、どの味にしようかしら』


 味も豊富に用意されている。

 チョコレートに木苺、林檎に砕いたビスケット、紅茶などなど。

 中でも一番人気だったのが――


『今日ハ、メルヴ味ガ、アルヨ~~、美味シイヨ~~、メルヴ味ダヨ~~』


 メルヴ本人がオススメをする(?)メルヴ味。

 細かく切ったメルヴの葉がアイスクリームに練り込まれている。


 鼠妖精ラ・フェアリの器を持ったリリンが、メルヴのところへ行き、もじもじしながら話しかける。


「あの、メルヴ味は、どういう味、ですか?」

『エットネ~、幸セノ味?』


 メルヴは食べたことはないのでよくわからないと言っていた。

 リリンは「幸せな味」が気になったのか、メルヴにアイスクリームを頼んでいた。

 母、サリアさんと共に、食べている。


「あ、美味しい」

「本当ですね。甘酸っぱくて、不思議な食感で、美味しいです」


 良かった。メルヴ味はご婦人方にも好評のようだ。


 ヤンと大砲姫ことクレシル姫もご招待した。

 いつの間に仲良くなったのか、二人は並んでアイスクリームを食べている。なんだかお似合に見えてしまった。


 チュチュとチュリンはアイスクリームの補充で忙しそう。 けれど、二人共たまに視線を合わせたりして、楽しそうだ。王都の生活にも馴染んでいるようで、よかったと一安心。ドリスはそんな二人を眺め、蕩けそうな笑顔を浮かべている。

 チュチュとチュリン、ドリスとも、街歩きに行けたらいいなと夢見ている。


 ふと、視界で首を傾げながらアイスクリームを食べるメーガスの姿が映りこむ。

 気になったので、話を聞きに行った。


師匠せんせい、どうしたの?」

「いや、不思議な食べ物だと思って」


 メーガスはアイスクリーム会に参加をしたのは初めてだったらしい。

 アルフレートの作ったそれを、普通の物とは違うと評した。


「普通と違うって?」

「魔力が含まれているようだが、効果は謎だ。悪影響ではないので、気にする必要もないが」

「アルフレートの愛情なんじゃない?」

「またお前は、適当なことを言いおって」


 でも、そんな気がしてならないのだ。

 だって、これはみんなのために、気持ちを込めてアルフレートが作った物だから。


「まあいい。どうせこの先時間も無限にあるのだ。好きなだけ、自由に研究させてもらおう」

「うん、そうだね!」


 メーガスがこうして精霊化に前向きなのはかなり嬉しい。

 いつかお別れの時がかならずくるって思っていたから。

 一応、アルフレートの精霊化が成功したら、続いてメーガスの儀式も行う予定となっている。


 まだまだ課題は山積みであった。


 ◇◇◇


 夜、鼠妖精ラ・フェアリの村に行き、精霊化の儀式の準備を行う。

 お義母様は気が気でないとのことで、今回は不参加。

 代わりに、雪の大精霊様が来てくれた。


『しかし、精霊化なんて、酔狂としか思えないわ』

「そうでもしないと、魔王に勝てないのですよ」

『あっそ。人間って大変ね。まあ、私には関係ないことだけど』


 とか言いつつも、作戦会議などにはきちんと参加してくれる真面目な大精霊様なのだ。


 アルフレートは緊張の面持ちでいる。

 私も、同じくらい落ち着かない気持ちでいるだろう。


 聖剣と魔剣は箱に納められ、運びこまれていた。

 蓋を開けば――


『うふふ、スノウ、なんだか新婚時代を思い出し――きゃあ!』

「あ、その、すみません」


 まさか、箱の中でいちゃいちゃしているとは想像もしていなくて。

 平伏平謝りである。


 アルフレートは魔法陣の上に横たわっていた。剣を突きさしやすいように、あのような恰好となったのだ。

 現在、精霊化を補助する魔法に馴染ませている最中らしい。


 私は聖剣を手に取り、魔法陣の上に置く。お守り的な感じで、設置した。

 アーキクァクト様の羽毛は耳飾りにして身に着けている。アルフレートは心臓のないほうの胸に差していた。

 魔剣を握るのが怖い。

 大丈夫、大丈夫と何度も言い聞かせる。


 気を聞かせてくれたのか、気がつけばみんな部屋からいなくなっていた。

 二人きりの空間となっている。


「エルフリーデ」

「うん?」


 近こう寄れと、手招きをされる。

 横たわるアルフレートを見下ろした。


「何?」

「顔が強張っている」

「当たり前だよ。今からアルフレートの心臓に剣を突き立てなければいけないんだから」

「すまない。あとで、何か詫びをしよう」

「いいよ。猫耳大精霊になってもらうから」

「猫耳……はあ!?」

「アーキクァクト様と話し合って決めたの」

「いつの間に!?」


 はあと大きな溜息を吐くアルフレート。馬鹿なことを考えると、小さな声で呟いていた。

 しつこく頼み込めば、二人きりの時だけならばと言ってくれた。凄く嬉しい。

 アーキクァクト様には悪いけどね。


 しんと静まり返る部屋の中、意味もなく見つめ合う。


「ねえ、アルフレート」

「なんだ?」

「上手くいくおまじないをしてもいい?」

「ああ、頼む」

「じゃあ、目を閉じてくれるかな?」


 何も疑いもせずに、素直に目を閉じてくれる。こういうところがたまらなく可愛いんだよね。

 アルフレートのお腹あたりに座ったら、「ウッ!」と苦悶の声をあげていた。ごめんよと、心の中で謝っておく。


 上体を低くして、アルフレートの頬を両手で包み、口づけする。

 いったん離れて、問いかけた。


「アルフレート、いい?」

「心の準備はできている」

「わかった」


 アルフレートの近くに置いてあった、竜の血が入った小瓶をつかみ取る。

 蓋を開いて口に含み、アルフレートへ口移しする。


 喉あたりを見て、ごくんと呑み込んだのをしっかり確認した。

 カッと、見開かれるアルフレートの目。

 私は急いで立ち上がり、魔剣を手にする。

 鞘から闇のような刃を引き抜いた。

 これを、アルフレートの胸に突き刺さなければならない。

 ドクンと、胸が大きな鼓動を打つ。

 ホラーツは『突き刺す』のではなく、『憑き差す』のだと言っていた。

 やることに違いはないけどね。

 アルフレートが「ぐう」と声を上げ、苦しそうにしだす。

 急がなければ。


「アルフレート、ごめんねえ~~」


 気合と共に叫んで、魔剣をアルフレートの胸に憑き・・差した・・・


 肉を刺したという手ごたえはない。

 剣を鞘に納めるように、ずぶりと沈んでいく。


 魔剣をその身に宿した刹那、カッと瞼を開くアルフレート。お腹の上から退避する。

 体を曲げ、胸を押さえて先ほどよりも苦しみだす。

 魔法陣の上にあった聖剣を手に取り、横になっていたアルフレートを正面に向けると、上に置いてみた。

 なんていうか、聖なる重石みたいな。

 いくぶんか、苦しそうな様子が和らいだような気がする。さすが聖剣。


 もうこれ以上、私にできることはない。

 よろよろと交代すれば、ふわりと、私の体を誰かが抱きしめてくれる。


『炎の娘っ子、大丈夫よ』

「アーキクァクト様……」


 びっくりした。突然の出現だったから。


 長い長い戦いになると思ったけれど、アルフレートの精霊化への時間は一時間ほどであっさりと終わった。


「よ、よかった」

『ええ。魔剣万々歳って感じ』

「本当に」


 アルフレートの髪は金から白銀へと変わった。目の色も、濃い青となる。

 もしも性格が変わっていたらとドキドキしたけれど、目覚めたアルフレートは起き上がって静かに私を抱きしめた。


「エルフリーデ、ありがとう」

「う、うん」


 涙がポロポロと零れる。

 本当に良かった。

 これでずっと、私達は一緒にいられる。


 これ以上、幸せなことはないと思った。


▼notice▼


聖剣ヴィクトリアール

重石にもなる。

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