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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】
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第百一話 炎の精霊――エルフリーデ

 なんでも、私が目覚めない一ヶ月は悲惨なものだったらしい。


『一言で言えば、地獄絵図でしたわ』


 まず、お義母様が取り乱して、とっても大変だったとか。皆で協力をして落ち着かせようとしていたけれど、まったく効果がなくて、今も寝込んでいるらしい。


「うわ、だったら早く無事を伝えないと」


 慌てて立ち上がったら、体がふわりと浮いてぎょっとする。勢いのままに進んでいって、天井で頭を打ってしまった。


 体が物凄く軽い。それに、暗闇の中なのに、しっかりと周囲の状況が見える。


「な、何これ~~」

『それが精霊化ですわ。人とはまったく性質が異なるから、あまり動き回らないほうがよろしくってよ』

「う、うん。そうだね」


 メルヴがアルフレートを呼びに行ってくれたので、大人しく待つことにした。


 それから一時間後、アルフレートがやってくる。先にメルヴが走って来て、知らせてくれた。

 時刻は深夜だということで、申し訳なさで爆発しそうになった。

 アルフレートは私を見てどう思うだろうか。

 どうか、黒髪好きではありませんようにと、祈るしかない。

 そういえば、鏡で姿を確認していなかった。

 儀式に挑む時に来ていたのは魔導研究局の制服だったけれど、今纏っているのは黒いドレス。

 あれ、これっていつ着替えたんだろう?

 リボンとかレースとかたくさんあしらわれていて可愛いけれど、果たして、私に似合っているものなのか。

 確認したい。

 メルヴに鏡を持っているかと聞こうとした瞬間、扉がバンと開かれる。

 魔法で作った光球がふんわりと漂ってきて、一気に部屋が明るく照らされた。


「エルフリーデ!!」


 心の準備も整っていないのに、アルフレートが部屋に飛び込んできた。

 なんだか、痩せたような気がする。

 目の下に濃いクマができていた。きっと、心労が祟ってあんな風になってしまったのだ。

 私をじっと見つめ、言葉を失っているように見えた。


 どうしよう。私、変なのかな?

 いますぐ抱きつきに行きたいけれど、また変に動いて天井に激突とかしたらとってもおマヌケなので、両手を広げた。

 さあさあ、私を抱きしめたまえ、という姿勢を取る。


 これで来てくれなかったら悲しいなと思ったけれど、アルフレートはすぐさまかけ寄り、私の体を力いっぱいに抱きしめてくれた。


「ただいま、アルフレート」

「エルフリーデ、よく、帰ってきた」

「うん。たくさん心配かけてしまったね」

「まったくだ……気をつけてくれないと、困る」


 アルフレートの声は震えていた。

 本当に、多大な心配をかけたのだろう。

 痩せたねと言えば、この一ヶ月食事がほとんど喉を通らなかったと言う。

 ここ数日は、メルヴの葉っぱを食べて生活をしていたらしい。


「やはり、私にはエルフリーデが必要だ」

「うん……」


 アルフレート、嬉しいけれどちょっと重い。

 これも、『太陽の子』の祝福を持つ私がいけないのだろう。お気の毒にとしか言いようがない。


 アルフレートがぱっと離れる。

 何かなと思っていれば、お義母様がやって来た。


「嫁子~~!!」

「お、お義母様!!」


 臥せっていたと聞いたけれど、大丈夫なのだろうか。いつもより、顔色が悪いような気がする。


 私の前に座っていたアルフレートを押しのけ、抱きついてきた。


「嫁子、嫁子……心配、した……!」

「はい、大丈夫です、元気です。すみませんでした。それから、ありがとうございます」


 義理の母親にこんなに心配されるなんて、私は世界一幸せな嫁だろう。


 それから、ホラーツやメーガスもやって来る。

 皆に心配をかけたことに対する謝罪と、お礼を言った。


『エルフリーデ様、何もお変わりなくて、安心しました』

「見た目はちょっと変わったけどね」

『ええ、素敵な御髪です』


 アルフレートにもどうかなと聞いてみた。

 わくわくしながら返答を待っていたけれど、眉間に皺を寄せて黙ったまま。

 似合っていないのだろうか。


「これ、変? 短く切って、黒く染める?」

「……」


 ますます顔を顰めていた。長い髪と短い髪、いったいどっちが好きなんだ、アルフレート。

 聞きだそうと接近すれば、ホラーツよりお言葉がかかる。


『ほほ、エルフリーデ様、アルフレート様は照れているだけですよ。どうか、二人っきりの時にお聞きになってはいかがでしょうか』

「そっか!」


 なんだ、そうだったのか。い奴め。

 そんな私達のやりとりを見ていたメーガスは、呆れているように見えた。


「長い間心配していたが、欠片も変わっていないではないか」

「変わったよ。いろいろと」


 残念なことに胸は大きくならなかったけれど、髪の色や長さが変わったし、体もふわふわして軽くなっている。


「物事の考えとか変わっていないと思うな」

「だから、それを先ほどから変わっていないと言っていたのだ」

「なるほど!」


 メーガスにほっぺたをぷにっと抓まれてしまった。

 相変わらず、容赦ない。

 けれど、いつもの態度で接してくれることを、嬉しく思った。

 メーガスの言う通り、何も変わっていない。


 そんなわけで(?)精霊になりました。居住まいを正し、会釈をする。


「ふつつか者ですが、これからも末永くよろしくお願いします」


 みんな笑顔で頷いてくれたので、心からホッとしたのでした。


 ◇◇◇


 離宮に帰宅をすれば、使用人が出迎えてくれた。

 深夜なのに……ごめん。

 みんな、目が真っ赤だ。お茶とか大丈夫なので、ゆっくり眠ってほしい。

 ふと、使用人の中に小さな影が混じっていることに気づく。


「チュチュ?」

『は、はい……!』


 ちまちまと、前にでてきてくれた。

 目がウルウルしていたので、しゃがみ込んで顔を覗き込み、震えていた手をそっと包む。


「チュチュ、心配かけたね」


 そんな言葉をかければ、ぽろぽろと泣きだしてしまった。

 チュチュのもふもふの体を抱きしめて、謝った。もう二度と、悲しい思いはさせないと誓う。

 周囲からぐすぐすと、啜り泣く声が聞こえる。

 チュチュの健気な様子に、心を打たれているのだろう。


「みんなも、ありがとう。遅い時間にごめんね。ゆっくり休んで」


 お茶や軽食など必要かどうか聞かれたけれど、お腹は空いていないので必要ないと答えた。

 一ヶ月飲まず食わずだったのに、不思議だ。これが精霊という存在ものなのだろう。


「嫁子、今日は私と一緒に寝よう」

「あ、はい」


 お誘いを受けたので、お義母様のあとをついて行っていたら、ぐっとアルフレートに腕を掴まれる。


「アルフレート?」

「エルフリーデ、なぜ、母を選ぶ」

「え?」

「息子よ。嫁子は私と眠ると言った」

「……」


 アルフレートがなんでそんなに悲壮感溢れる表情でいたのか首を傾げていたら、離宮に戻ったのが一ヶ月ぶりだったことを思い出す。

 みんな私を見てウルウルしていた。けれど、一ヶ月眠っていたという感覚はなく、私にとっては久しぶりでもなんでもないのだ。


 アルフレート、ごめんよ。

 今日はお義母様が弱っているから、一緒に眠るね。そう視線で訴えれば、手を離してくれた。


 あとからついて来ていたメルヴがテッテケテ~と走って来て、アルフレートの足にヒシっと抱きついて言った。


『メルヴ、今日、アル様ト、一緒ニ、眠ル!』


 メルヴ・メディシナル。なんて空気が読める子なのか。花丸をあげたい。


『グラセも、父様と一緒に眠るデス!』


 グラセも良い子。

 安心して部屋を去ることができた。


 ◇◇◇


 寝間着に着替え、鏡を覗き込む。

 黒から色が変わった髪は、燃えるような赤だった。

 櫛を入れたら艶が増し、炎みたいな色合いになる。

 お義母様から、美しい髪だと褒めてもらった。


 眠る準備が整えば、寝台へと潜り込む。


 ここで驚きの事実を教えてもらう。

 なんと、精霊は睡眠を必要としないらしい。

 けれど、目を閉じて静かにしていると、人と同じように眠れる。

 その時に、魔力をより多く取り込むことができるのだとか。


「だから、精霊になっても、睡眠は大切だ」

「はい、お義母様」


 精霊の在り方など、聞いているうちに意識が遠くなる。

 私の精霊としての最初の夜は穏やかに過ぎていった。


▼notice▼


一ヶ月メルヴ生活

アイスクリームに、スープ、パンなど、様々な食材に練り込まれてでてきた。

どれも非常に美味しい。

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