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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
最終章 【対魔王――最終決戦!】
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第九十九話 束の間の休日――街歩きへ

 空には月が浮かび、すっかり夜になってしまった。

 メレンゲやプラタと話し込んでいたら、こんな時間になってしまったのだ。

 メーガスは竜にかなり興味があったようで、目がキラキラと輝いていたのがなんとも微笑ましかった。

 メルヴも、久々にお友達に会えて嬉しそうで、ホッとした。


 そんなわけで、メルヴのおかげで無事に竜の血を持ち帰ることができた。

 竜のご夫妻には、別の差し入れを持って行かなければと考えている。


 アルフレートとお義母様に成果を報告すれば、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。

 竜の血は人にとって毒だ。飲めば、死ぬか精霊化かの二択。


「ねえ、やっぱりアルフレートはやめたほうがいいと思うんだけど」


 私は魔力を受け止める神杯エリクシルがある。けれど、アルフレートはない。


 なんでも、その件についてホラーツとメーガスに相談したらしい。


「もしもの時は、聖剣と魔剣の力を借りる」

「それでなんとかなるの?」

「ああ。だが、エルフリーデ、お前の力を借りることになるだろう。頼んでもいいだろうか?」

「それはもちろん」

「そうか、よかった」


 聖剣や魔剣の使い方については、その時に説明してくれるらしい。

 まずは成功率の高い私から、ということになった。


 いろいろと、ホラーツとメーガスが精霊化の準備をしているようで、実行は明日の夜に、ということになった。


「――というわけだ。嫁子と息子は明日までゆっくり過ごせ」

「いいんですか?」

「ああ、人の余生を堪能しておくのだ」

「ありがとうございます」


 羽目は外すなよと、しっかりと深い釘を打たれる。お義母様は心配そうな表情を浮かべながらも、部屋からでていった。

 そんなわけで、明日は休みになった。


「エルフリーデ」

「何?」

「明日は、街にでかけよう。前に、行きたいと言っていただろう?」

「いいの!?」

「ああ」


 まさかの街歩きデート!

 嬉しくって、アルフレートの腕にぎゅっと抱きつく。


「でも、大丈夫かな? アルフレートってバレない?」

「変装をすればいいだろう」

「そうだね」


 変装って、わくわくする。

 アルフレートはどんな格好をしても、似合いそうだなと思った。


 ふと、じっと見つめられていることに気づく。


「何かな?」

「いや、なんだ……ありがたいなと、思って」

「ありがたい?」

「精霊化とか、いろいろと、決心を固めてくれたことが」

「そんなの、当たり前だよ」


 だって、来世で会えるより、今世でずっと一緒にいたほうが絶対いいと決まっている。

 私はアルフレートが好きなのだ。遠い未来で出会っても、意味がない。

 それを伝えれば、ぎゅっと抱きしめられる。

 そっと耳元で囁かれた言葉は、なんでも熱烈的な物で、ドキリとした。


「……言葉にできない感情が、渦巻いている」

「いいよ、ぜんぶ伝わっているから」


 ハッとしたように揺れるアルフレートの瞳。直接見てみたくなり、眼鏡を外す。

 氷色の目は、わずかに潤んでいるように見えた。


 瞼を閉じたのが先か、口付けされたのが先か。

 ぼんやりしていて、よくわからない。


 精霊になったら、変わってしまうかもしれないので、気持ちをしっかり伝えておくことにした。


「アルフレート、大好きだよ」


 口にすれば、なんだか切なくなってしまって、ボロボロと涙を零してしまう。

 変わることは怖い。

 けれど、アルフレートを失うことや、別れてしまうことはもっと怖い。


 精霊化の試練をどうにか越えなければならなかった。

 二人で頑張ろうと、励まし合う。

 大丈夫、きっと。

 ホラーツとメーガスも上手くいくと言ってくれた。

 悲観しないで挑もうと、改めて決意を交わした。


 ◇◇◇


 翌日。

 デートのために朝から身支度を行う。

 用意されたのは茶色の髪に、紺色のドレス。黒縁の眼鏡。

 化粧はいつもより濃く施され、髪は三つ編みにして、カチューシャのように頭に巻いてもらった。なかなか可愛いと思われる。

 傍で私の身支度を眺めていたお義母様が、完成した姿を見て絶賛する。


「嫁子、良いぞ、良いぞ! 王都に初めてやってきたいおのぼり娘感が良くでておる!」


 なんだろう。喜んでいいのか、悪いのか。微妙な評価。

 黒い肩かけ鞄には、お義母様がお小遣いを入れてくれた。


「これで、何か美味しい物を食べて来ればいい」

「わあ、ありがとうございます」

「楽しんでこい」

「はい、本当に、ありがとうございます!」


 私は完璧な変装で、アルフレートの部屋まで行く。


 扉をトントンと叩けば、すぐに返事があった。

 中から顔をだしたのは、黒髪のアルフレート様!


「うわっ、凄く素敵!」


 金髪も素敵だけど、黒髪も似合う。

 長い鬘を一本の三つ編みに結っていた。瞳の色は焦げ茶色になっていた。ホラーツの魔法で変えているらしい。


 別人のような変装に驚く。これで、街にでかけてもアルフレートだと気づく人はいないだろう。


 部屋に入り、じっくりと眺める。

 アルフレートの私服はいつも白い服が多くて清楚系なんだけど、今日は全身黒ずくめで、ちょっと悪っぽい感じがでているのが良い。

 恰好良すぎて、はあと溜息がでてしまった。


「ねえ、アルフレート。私はどう?」

「……けっこう、かわいいと、思う」

「えへへ! ありがとうね」


 そういえば、初めて可愛いとか言われたかもしれない。図々しく聞いてみるものだ。


 そんなわけで、変装をした私達は意気揚々と街へ繰りだした。


 ◇◇◇


 本日はいつもお忍びで行っている市場は避けて、貴族の商店街に連れてきてもらった。

 まず、喫茶店に入る。

 ここは美味しいガレット――生地を薄く伸ばして焼いた物に、果物などを包んだ料理が有名なお店らしい。


「ああ、しょっぱい系と甘い系、どちらにしようか迷う!」

「どちらも頼めばいいだろう」

「そんなの、食べきれ――るか、普通に」


 そう言えば、アルフレートに笑われてしまった。

 いいんだ。色気よりも食い気だから。


 私はチーズと卵の黒胡椒ガレッドと、春苺のクリームガレッドを頼んだ。

 アルフレートはベーコンとチーズのガレッドを注文した模様。


 店内は落ち着いた雰囲気。

 席と席の間に板が置いてあって、周囲の目も気にならないようになっている。

 店内では生演奏があり、しっとりとした空気。良い店だ。


「ここ、どこで知ったの?」

「兄上に教えてもらった」

「リチャード殿下に?」


 なんでも、サリアさんお気に入りのお店だったらしい。そう言えば、美味しいお菓子の店があるから一緒に行こうと誘われていたような気もする。ずっとバタバタしていて、おでかけしている暇なんてなかったけれど。


「そっか~。今度、サリアさんとリリン、チュチュとドリスを誘ってみようかな」

「ああ、楽しんでくるといい」


 そんな話をしているうちに、ガレッドが運ばれて来た。

 目の前に二枚も皿を置かれたので、若干恥ずかしい思いをする。ちょっと欲張りすぎたか。

 まあ、そんなことはいい。冷めないうちに食べなければ。

 まず、しょっぱいほうを攻略する。

 卵にナイフを入れた。すると、とろりと黄身が溢れてくる。ガレッドの生地を一口大に切りわければ、チーズがみょんと伸びた。卵を絡めていただく。


「う~~ん!」


 美味しい。

 生地は外側がカリカリで、中はもっちり。卵の濃厚な味と、チーズの塩気がなんとも言えない。

 食べたあと、甘い物も欲しくなったので、このオーダーは大正解であった。

 どちらも美味しくって、感動してしまった。


「大袈裟な」


 アルフレートに呆れられてしまったけれど、悔いはない。

 けれど、さすがにお腹が苦しい。しばらく休憩が必要だ。

 矯正下着コルセットのないドレスを選んでもらってよかったと思った。


 食後の紅茶が運ばれてくる。

 じっくりと堪能しながら、このあとの予定についても話し合った。


▼notice▼


ガレッド

王都名物。甘い系としょっぱい系がある。

量はそこまで多くなく、女性でも軽く二枚食べてしまう。

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