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失策

熱出しながら1日でガッと書いてしまったので後で改稿するやも知れません。

 しくじった。


 地べたにうつ伏せになり、アルコールを飲み過ぎた時のように全く定まらない視界の中でエドは唇を噛む。


 警戒していなかった訳ではない。むしろ最上級の警戒を敷いて手ぐすね引いて待っていたはずだ。

 既に探知されたものと割切り、反響定位とシャックスによる音の結界を作り盤石の迎撃態勢を敷いていた。


 3つの心音がこちらの居る空洞に出る前に魔法の灯を消し、反響定位を停止。相手方が空洞に踏み込んで来たタイミングでカルラが合図、アンナ、ハインツ、ダービッドを含む実働隊で機先を制する手筈だった。


 しかし、全てが見事に裏目に出た。


 最初に見えたのは魔導回路の光だった。

 据えられていた駆動式までは判別出来なかったが励起状態に移行した駆動式の周囲に空中放電が発生した。

 電撃魔法。


 カルラの、絶縁防御と叫ぶ声とほぼ同時に全員が装具に仕込んである絶縁防御を展開し終えている。集団戦闘を主とする以上、電撃による制圧が1番怖い。当然、これにも最善と言うに余りある備えをしていた。


 慢心だったのだろう。

 長く集団戦闘をこなす内、集団故の弱点というものは軒並み潰したつもりでいた。


 だから、こんな単純な手に引っ掛かったのだ。


 空中放電を発していた駆動式と魔導回路が突如として強制破棄される。こちらの絶縁防御を察しての事だとほくそ笑むが、違う。

 こちらに絶縁防御の態勢を取らせること自体が相手方の狙いだったのだ。


 薄ぼんやりとした朱色の駆動式が新たに展開され、一瞬にして起動する。


 瞬間、真っ白な光と暴力的な大音声が空洞を埋め尽くした。


 光と音。


 言ってしまえばそれだけであるが、単純が故に防御が難しい。しかも真っ暗闇の状態からの閃光だ。暗順応しきっていた目は完全に視力を失った。

 音は、もう音と言って良いものか躊躇する程だった。鉱脈内という存分に音が反響する条件が整っていたせいもあるのだろう。本当に物理的な衝撃を伴って押し寄せた爆音は三半規管をぐちゃぐちゃにシェイクし残響と共に消えた。


 一瞬の間に、竜狩りの精鋭たるジャッカルは無力化されていた。


『ヴィゾーヴニル』。

 ルーン系統ではやや特殊な、微細なアルミ粉末と酸素の結合を利用した目くらましの魔法だ。外的な発火を必要とせず、尚且つ最小の燃焼反応で激烈な発光と音響パルスを発生させる魔法だが、ここまで大規模な影響を及ぼすようなものでは断じて無い。

 頭蓋の中で蛇がのたうつような頭痛を堪え、何とか頭を上げると辛うじてザラ、ハインツ、アンナ、ダービッドの4人が灯を灯したところだった。

 単純に反射神経の問題だろう、駆動式を見て種類を判別。絶縁防御を解いて耳と目を閉じるのが間に合ったのが4人だけだったというだけの話だ。


「……! ……⁈」


 地べたに倒れ伏したエドに向かってザラが何事かを叫んでいるが、耳の奥に残響する巨大な鐘の音に邪魔をされ何を言っているか判別がつかない。

 エドはまだマシな方だ。

 シャックスを展開して聴覚を強化していたカルラは脳髄に直接打撃を受けたようなものだ。首を巡らせると、黒尽くめのローブが地べたで痙攣しているのが見えた。被虐性愛者である彼女がフードの奥で嗤っている気がして、エドは身震いする。


 吐き気がする程の頭痛をどうにか振り切り立ち上がろうとするエドの、そして未だ地に伏したままの団員達の周囲に新たな駆動式が同時展開。

 ご丁寧に魔導回路への阻害式を気が狂っているのかと思う程綿密に編み込んだグレイプニルが17人を同時に雁字搦めにするのにそれ程の時間は掛からなかった。


 エドは歯噛みする。

 言いたくはないが敵ながら見事な手際だ。

 正体不明の探知魔法を使う魔法使いが居るとしてもたかが3人と、圧倒的な数の有利に油断していた。相手は対多数戦闘に長じた手練だ。

 恐らく先遣隊の失敗を繰り返さないよう、フィッツジェラルドが送り込んだ虎の子のはずだ。

 甘いはずが無かったのだ。


 しかし、エドは状況程は絶望していなかった。

 何故ならばまだ、こちらには戦の申し子たるザラ・ハックが居る。

 先の大戦で4体もの竜を狩り獲った最強の竜狩りが、こちらには居るのだ。それにザラには及ばないが卓越した高速戦闘を得意とするアンナに、その気になれば単独でもヘーシオドス系統の魔法を使う事が出来るハインツも、そして認めたくはないが肉弾戦ならばザラに次ぐ実力を持つダービッドも無事で居る。

 この4人が無事ならば、ジャッカルに敗北は無い。

 エドはそう確信していた。


 その4人が、呆然と1点を注視していた。

 見た事も無いザラの表情に疑問を覚え、エドは唯一自由になる首を動かして視線の先を追う。


「ああ……」


 内耳に響く自分の声が聴覚の回復を教えてくれたが、エドにはそれに気付く余裕が最早無い。


「あああああああ!」


 あり得ない。


 エドの常識はそれを断ずるが、それはそこに在り、成された結果は正に自分が味わっていた。


 視線の先には、17個ものグレイプニルの駆動式が据えられた、見た事も無い巨大な魔導回路に照らされた入れ墨の男が悠然と立っていた。

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