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チェルリア3

「作戦会議をします」


 ホテルに戻って早々に寝にかかろうとしている緊張感の無い男2人を叩き起こし、個室に備え付けられていたカウンターに座らせた時には時計は深夜の1時を回っていた。


 2人は明らかに不服げだが知ったことか。すると言ったらします。


「出発時と状況が変わったので意見の擦り合わせをしたいのですが取り敢えずダブラスさんは起きて下さい!」

「起きてるふぉ」


 あくびしながら言われても説得力が無い。一先ず時間も惜しいので続ける事にしよう。


「どうも酒場での情報によれば対人戦の可能性が浮上した訳ですが、お2人はジャッカルについて何かご存知ではありませんか? 私、巷の噂話程度の知識しかありませんので具体的な戦力等がわからないのですが……」

「ジャッカル。言わずと知れたネウロー・クラフトワークスの私設傭兵団だね。例の第4次竜伐隊の生き残りが中心なんだったっけ?」

「正確には第4次竜伐隊12番隊の21人だな。最前線で戦っていながら1人の戦死者も出さなかった、全員が竜狩の称号を持つ猛者共だよ。頭目は元ルネシオン正規軍少佐のザラ・ハック。ザラを含めてセドナが12人。それにソーンが2人と7人の人で編成された混成部隊だ」


 さっきのあくびが嘘かのようにダブラスからジャッカルの詳細が明かされる。


「随分詳しいのですね?」

「まあ傭兵やってりゃ嫌でも話を聞くからな。むしろ知らなかったら傭兵としてモグリだぜ」


 言ってテーブルに用意してあった瓶入りの冷えた水を一気に煽る。


「しかもその精鋭がネウロー・クラフトワークスの特注品で固めてるんだ。正直、正面切って相手したくは無いね」


 一流メーカー特注の装具でフル装備した統制の取れた精鋭部隊。しかも竜狩の実績持ちと来た。

 厄介さで言えば間違いなく単体の竜以上だ。


「いっそ何かの間違いで別の目的で動いてくれていれば良いんだがそうは行かないだろうねぇ」

「旦那の魔法で纏めてどうにかならないのか?」

「取り敢えず会敵してみないと何とも言えないな。鉱脈内で会敵してしまった場合、むしろ今回の鍵はリーリエになると思うよ?」

「私ですか?」


 思ってもみないタイミングで自分の名前を挙げられた為、つい声が上ずる。


「キミの得意とする電撃系の魔法は集団での対人戦でこそ真価を発揮すると思うけれども?」

「確かに限定空間内での戦闘であれば細かい制御が要らない分対集団向きではありますが、相手が何らかの絶縁手段を持っていたら簡単に無力化されてしまいます」

「例えばミョルニルであれば神具級でもない限り絶縁破壊は可能では?」

「可能不可能で言えば可能だとは思いますが、クオさんは兎に角ダブラスさんの無事を保証出来ませんわ。そのアミュレットはどの程度まで抵抗出来ますの?」

「顕現する現象のどこまでが式によって制御されているかに依るな。仮に効果時間、波及効果総てが式の制御下にあるならばミョルニルと言えど抵抗は可能だね」

「私の演算速度で制御出来るのは主雷撃からの電位差の中和までが限界ですわ。発生してしまう熱エネルギーや大気のプラズマ化まではとてもじゃありませんが制御しきれません」

「やべぇ、全然わからねえ」

「詰まるところリーリエがミョルニルを撃ったら敵も死ぬだろうがキミも死ぬって事だよ」

「解説痛み入るぜ……」


 そもそも、敵対するからと言って殺してしまってはならない。相手はただこちらと同じく仕事をしているだけなのだから。

 必要なのは21人を死に至らしめる事なく無力化する方法だ。


「鉱脈内の空洞の規模もわかりませんし、そもそもジャッカルがフルメンバーで参加しているのかも不明ですし、問題は山積みですわね……」


 作戦を考えようにも相手と状況の情報が少ない。


「各個撃破じゃ駄目なのか?」

「わざわざ編隊組んでる奴等がバラけるとは思えないな。さっきリーリエが言ったように手の入っていない鉱脈筋の広さがわからないから最悪21人同時に相手にするパターンを想定しておいて無駄は無いと思うよ。まあ7人編制3班に別れているとは思うけどもね。しかし……」


 クオ・ヴァディスが言い淀み、顎に手を当てて考え始める。


「相手にソーンが居るというのが1番の懸念だな」


 そうか。

 ソーンは海を基本生息域とした水棲種だ。肺呼吸とえら呼吸両方の器官を持つ両棲種族なのだがもう1つ、重要な器官を持っている。


「エコーロケーション……」

「そう。彼等はエコーロケーションを用いて感覚的に鉱脈の構造を把握出来る。恐らく何分か毎に探知を繰り返しての探索をしている筈だが、我々がそれに引っ掛かった時点で先手は取られたものと思っていい」


 通常水中で行われるエコーロケーションは大気中では著しく範囲が減衰する。それは水に対して大気の音の伝播する効率が低いからだが、鉱脈のように四方が反響率の高い硬質な鉱物で囲まれていれば話は別だ。

 先に鉱脈内の構造を把握されていては奇襲されに行くようなものだ。


「一先ず鉱脈に入ったら私が絶えずシャックスを展開しておいて探知されたかどうかだけでも確認しよう。ちなみにリーリエは何か探知系の魔法は持っているかい?」

「すみません……。私、魔眼で見える範囲の探知は出来るのですが広範囲となると……」

「そうか……。電気信号とか使って探知する魔法を持ってればとか思ったんだがそう都合良くは……、ん?」


 言葉を区切り、クオ・ヴァディスが何か思い付いたように再び考え始める。


「電気信号……ふむ……そうか……ならば……」


 ブツブツと何かしら呟きながら真剣そのものの顔のクオ・ヴァディスを見て、訝しんだダブラスが声を掛ける。


「旦那、何か思い付いたのか?」

「ん? ああ、ぶっつけになってしまうから保証は出来ないけどどうにかなりそうだ。やっぱり鍵はリーリエになるけども」

「私で出来ることならば頑張ります。説明していただけますか?」

「その為の下準備を今から始めるからキミたちは明日に向けてゆっくり休んでくれ。リーリエにはイグナに向かう馬車で説明するよ」


 今から始める下準備?

 役に立てるのは嬉しいのだが、そこはかとない不安が脳裏をよぎる。


「はい、じゃあ解散。各自しっかり睡眠をとるようにね」


 不安が形を成す前に、クオ・ヴァディスは強引に会議を打ち切る。

 不安が想定のやや斜め後ろから自分を苛むという事を知るのは実際に現地に辿り着いてからだという事は、まだ、知る由も無かった。

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