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レゾ村での遭逢2

挿絵(By みてみん)


 意識が覚醒するのと同時に飛び起きる。


 先ず視界に入って来たのは木造建築の室内だった。左手側の窓から暖かい日の光が差し込んでいて、ベッドが程良く暖まっている。


 ベッド。


 リーリエは腰の下のマットレスの感触を確認する。

 

 未だ思考は混乱しっ放しで理解が追いついてこないが、どうやらベッドで寝ていたらしい。見回すとどうやら民家の一室のようだ。


 竜と会敵して、魔力欠乏を起こして、あの謎の魔導回路を見て……。

 消滅した竜を見て、もう村は大丈夫だと気を抜いてしまったところから記憶が無い。


 一息ついて、身体の力を抜き、ベッドのヘッドボードに上体を預け天井を見上げてみた。蜘蛛の巣1つない掃除の行き届いた天井だ。きっとこの家の家主さんはマメな方なのだろうなぁなどと考えを巡らせた瞬間、急にベッドを借りていた事が申し訳なくなってきた。


 家主の方を捜してお礼をしなくてはとベッドを下りようとしたところで、ベッドの右手側にあるドアが開いて壮年の女性が顔を出した。


「あら、目が覚めたみたいねぇ、良かったわ。担ぎ込まれた時は真っ白な顔してたから心配だったのよ」


 農村でよく見る綿で出来た服を着た女性は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「村長が言っていた協会の人よね? こんな若い女の子だとは思わなかったからビックリしちゃったわ」

「すみません、ご迷惑をおかけしてしまいました」

「良いのよ、どうせ一部屋空いていたし。野郎の家にこんな可愛い娘をおくわけにもいかないしねぇ」


 かっかと笑いながら女性は部屋を横切り、窓を開けた。適度に涼しい風が部屋に流れ込みリーリエの頬を撫ぜる。王都育ちのリーリエには収穫期の濃い緑の匂いがなんだか新鮮に感じられた。


 ふと、彼女の言葉が引っ掛かった。

 

 担ぎ込まれた? 誰に?


「あっ、あのっ」


 慌ててしまったため声が裏返ってしまう。恥ずかしさから赤面し口元を抑えるリーリエを見て、女性は目を細めて笑った。


「慌てる事はないよ。2日も寝てたんだ、お腹が減っただろう? 先ずは腹拵えだよ」


 リーリエは言われてみて自分の空腹感に初めて気付いた。ただでさえ魔法を使った後は腹が減ると言うのに魔力欠乏まで起こして2日も眠っていたなら当然であろう。

 自覚したが最後、強烈に襲い掛かってくる飢餓感に負けて、リーリエはまずご相伴にあずかろう全てはそれからだ、と思考を投げ捨てた。









 ご馳走になった押麦入りのミネストローネとライ麦パンはもう死ぬ程美味かった。ミネストローネは木皿いっぱいをお代わりしたしパンは3つも食べた。肋骨が内側から爆発するんじゃないかという程の満腹感に寝転がりたい衝動に駆られるが、リーリエの中の自制心はそれを許さなかった。


 自宅であれば考える間も無く転がっていたところだが。


 女性、アレッサ・ノームと名乗った彼女はリーリエの見事な食べっぷりを見てそれは嬉しそうに笑っていた。


「いやぁ、自分が作った料理を美味そうに食べて貰えるってのは嬉しいもんだねぇ。今からでも結婚相手捜してみようかねぇ」


 アレッサはテーブルに頬杖を付いてリーリエを眺めている。

 

 食事をしながら教えて貰った話によるとアレッサはこの家に1人で住んでいるらしい。夫と死に別れた、というわけでもなくただ単に結婚しなかったと言う。


「アレッサさん美人で料理も上手なんですから引く手数多だと思いますけど」


 お世辞でも何でもなく純粋な感想である。

 女性にしては背が高く肩幅が広いが農村であればプラス要素でしかないし、掃除のマメさ、料理の美味さ、何より同じ女であるリーリエからみてもアレッサは美人である。リーリエは自分が男ならこういう女性と結婚したいと心から思った。


「いやぁ、リーリエちゃんは都会の人だから偏見ないだろうけど、あたしセドナのハーフなのよ。田舎はそういうの煩くてね」


 セドナ。

 ここエレンディア大陸の東、ルーベ海を船で3日程航海した先にあるアージェス大陸ルネシオン連邦を中心に生活している所謂戦闘種族だ。

 男性は体表の一部に鱗状の甲殻がある場合が多く、その巨体も手伝って見間違う事は無いが、女性は人族よりやや身体が大きいというだけでパッと見での見分けは難しい。ハーフとなれば尚更だ。


「と言うか、ケンカであたしに勝てる男が居なかったってのが一番かねぇ。すっかり怖がられちゃって今や34歳よ」


 言ってアレッサはかっかと笑う。


「ここは田舎だけど差別は無い方だと思うよ? リーリエちゃん担いできた牧師も……こう、なかなか奇抜な見てくれだけど普通に受け入れられてるし」

「そう、先程も伺いましたがその牧師さんですけど、何方にお住まいですか? お礼を申し上げたくて……」

「村の南にある丘の上の教会だよ。行くなら悪いんだけど届け物頼んでも良いかい? 一昨日渡すはずだったんだけど女の子担いで現れたもんだからビックリして忘れちゃってねぇ」


 そう言ってアレッサはテーブルの上のバスケットを指す。

 ガーゼが掛かったそれの中身は先程のライ麦パンだろう。


「飢えて死ぬ事はないだろうけど、好物らしくてね。あたしは収穫に行かなきゃだし悪いけど頼むよ」


 このパンの味を知っているリーリエは、自分を担いできた所為でパンにありつけ無かった牧師に対して物凄い罪悪感を覚えた。恨まれても文句は言えないと思う程に。


「すぐにお届けしますわ! 今から向かえばお昼にはこのパンが食べれますものね!」


 一刻も早くパンをお届けに上がらねばと謎の使命感と共にリーリエは立ち上がった。


「帰りにまたお礼に伺いますわ。何か買って来ようと思うのですが、甘い物は?」

「気を遣わなくって良いよ。どうしてもって言うなら甘い物よりアルコールに合う物をお願い。寂しい独り女は午後のお茶より夜の酒盛りさ」


 2人は同時に吹き出した。

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