未知との遭遇
アレッサ視点の幕間です。
アレッサ・ノームは田舎特有の『玄関から声を掛けたけど反応が無い。しかし鍵は開いているのだから居るには居るのだろう。よし、ならばズカズカと敷地内に踏み込んで窓から声を掛けてみよう』という謎の習慣をここまで憎んだことは無い。むしろ昔はやられて嫌だった筈なのに今ややる側だという事実を今更自覚してしまって積んだ年月に唾を吐きたくなる。
おかげでとんだ場面に出くわしてしまった。
別に他意があった訳ではない。ただ明日の収穫感謝祭のお誘いに来てみたら教会にクオ・ヴァディスの姿は無く、ならば家屋の方かと教会を迂回し角を曲がろうとしたら捜していた男がとんでもない美人を泣かせていた。そこにはリーリエちゃんも居て、挙げ句の果てには女子2人が男子1人をなじり始めたところで思わず立ち止まっていたところを見付かったのだ。
気不味いったら無い。
会話の内容まではわからなかったが美人が何やら叫んでいたようだし、それに賛同したリーリエちゃんが共にクオ・ヴァディスを野次っていたように見える。
詰まるところ……。
「痴話喧嘩か⁉︎」
「違うねぇ」
「違いますわ!」
「違……う? かな?」
「ハルさんそこは力一杯否定してくれないと私の信用とか諸々が危機なんだがね」
なんだ、ただの仲良しか。
しかし。
「明日のお祭のお誘いに来たんだけど……リーリエちゃん王都に帰ったんじゃなかったかい? それに其方の美人さんはどなた? どこかで見た事あるような気がするんだけど……」
僻地のど田舎に住んでいるとまず見ない類の美人だ。造形どころか身に纏うオーラが違う。リーリエちゃんもなかなかの美人であるが、可愛いと美しいは根本的に異なる物であるという見本のようだった。
こんな美人を1回でも見れば忘れられる筈も無いのだがどこで見たのか……。
「ハルという、私の古い友人だよ」
思考を巡らせようとしたのを邪魔する家のようなタイミングでクオ・ヴァディスが声を掛けてくる。
「古い? ……あぁ、セロだったんだ」
セロ特有の尖った耳に目が行く。
種族全体として美形が多いと言われるセロであるならば、あの美しさにも合点が行く。
「そういう貴女はセドナ?」
美人が聞いてくるが、同じ女の筈なのに何故かドギマギしてしまう。美人は声まで美人だ。そっちの趣味は無いのだが思わず目覚めてしまうんじゃないかと錯覚してしまう。
「あ、ああ、はい。ハーフだけどね。アレッサ・ノームって言うんだ、よろしく」
「アレたんね、よろしく! やっぱりセドナの血が入った女の子は筋肉の付きが良いから身体のラインが非常に素晴らしいよね!」
どうしよう変な人だ。
「って言うかお祭って? なに? どんなの?」
「小麦とアプタルが豊作であったことを神様に感謝する催事だよ。最近では収穫お疲れ様って意味の村をあげた酒盛になっているがね。まあ、酒と言っても自家製のエールとアプタルの果実酒くらいだが……」
「行きたい!」
キラキラした瞳でハルと呼ばれた美人が声を張り上げる。
ピンピンに真っ直ぐ天へと掲げられた腕は彼女の好奇心を象徴するかのようだ。
対してクオ・ヴァディスは明らかに顰めっ面を晒している。何を言いだしてんだコイツは、と言わんばかりのその顔は普段ヘラヘラしているばかりのクオ・ヴァディスにしては珍しい。と言うか初めて見たような気すらする。
「っていう事でアレたん」
おやつを心待ちにする子供のようにキラキラした虹色の瞳がこちらを向く。
「服、貸して」




