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ワンライ自選集

絶後の宇宙ショウ/The Show

作者: yokosa

【第54回フリーワンライ】

お題:

時間切れ


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 まもなく『ショー』が始まろうとしていた。

 この時ばかりは、せせこましくも勤勉に働く日本人ですら、仕事を切り上げて家路を急いだ。

『ショー』を家族や恋人と過ごすためだった。

 家に待つ者がいない者たちは、手近な居酒屋やバーへ向かった。『ショー』を待ち侘びて早くも前夜祭から騒いでいる連中が多く、どこへ行っても歓迎された。

 安酒はぶちまけるほど配られたし、至高の秘蔵酒も同じくらい振る舞われた。何千万もの価値の酒を堪能し、人々はアルコールによるものか乱痴気騒ぎによるものかわからない酩酊状態に酔った。帝国ホテルの高級料理と下町のB級グルメが同じように並び、身分も年齢も性別もマナーも無関係に分け合った。

 今日を、今日だけを生きるように、誰も彼もが『ショー』を待望する祭に熱中した。


 同じことは小さな青い惑星の各地で――いや、膨張宇宙の内包するありとあらゆる知的生命体が宴に興じていた。

 全ては宇宙最大のその時のために。

 歴史上一切の接点を持たなかった未知の生命も、根深く交流してきた既知の生命も、距離の多寡を問わず皆等しく手を取り合って、その時を待った。

 その時を前に、有史以来いがみ合い憎み合ったあまねく主義、主張、種族、それら全ては平和裡に和解した。

 その時を前にしては、それらの問題は些末事に過ぎなかった。


『ショー』に反対する者は誰一人として存在しなかった。

 望むと望まざるとに関わらず、個人どころか生命体のスケールでは何をしても無意味なほど巨大なイベントだからだった。

 あまりにも巨大なうねりは逆巻く波をも飲み込むものだ。


『皆さん、もうまもなくです』

 どこからともなく聞こえるそれは、それはカウントダウンを告げる音声だった。

 一際高度な文明が技術を持ち寄り、宇宙の隅々にまで伸ばした汎宇宙中継ネットの全宇宙同時生放送だ。超空間から同期を取って伝送される汎宇宙中継ネットに受信端末は必要なかった。

『これから始まるのは、我々生命体が、いや、この世界が経験したことのない前代未聞の出来事です』

 興奮気味のアナウンサーの声は、通訳されなくとも、聞く者の母語として正しく理解された。

『まさしく我々は歴史の証人となるのです。我々は如何なる過去の偉人さえ凌ぎ、輝く偉業さえも色を失って見えるほどの栄誉に浴することとなるでしょう』

 宇宙に点在する熱狂の渦は一段とボルテージを上げた。

『誰も目にしたことないスペクタクルが、今――!』


 そしてその時は来た。

 唐突に、膨張宇宙の端から端までくまなく亀裂が走った。

 空間に広がる亀裂は美しいガラス細工のようだった。

 亀裂が広がって、空間が剥離すると蛍火のように淡く光り、溶けて消えた。

 全世界が蛍火で満たされた。

 同時に音が鳴り響いた。それは歌だった。それは合奏だった。それはこの世界に存在するあらゆる音階だった。一切合切が同一になった音は、まるで儚い悲鳴のようだった。

 消えていく。

 何もかもが消えていった。

 宇宙はこの瞬間に崩壊した。

 残された真の闇が、


 *


 全宇宙に向けて放送していたアナウンサーは、最後にこう告げた。

『それでは皆様、また時の彼方でお会いしましょう』

 時空間の断裂に巻き込まれ、届けられなかった汎宇宙中継ネットの音声は誰に聞かれることもなく超空間を漂い続けた。



『絶後の宇宙ショウ/The Show』了

 お題をダブルミーニングにしてみた。

 とはいえ、発想の大本は『宇宙の果てのレストラン(The Restaurant at the End of the Universe)』なんだけど。パロディってわけでもない。内容は全然違うので。

『宇宙の果てのレストラン』はそういう名前のレストランが舞台として出てきて(ストーリー上あまり重要じゃない。単なる一場面)、そこは泡状のバリアーで時空間から断絶していて、宇宙終焉の瞬間をタイムワープしながら繰り返し繰り返しショーのように見せてる。終焉の反対側、宇宙開闢の瞬間ではビッグバン・バーガーという名のバーガースタンドがあるそうな。

『宇宙の果てのレストラン』を含む『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズははちゃめちゃナンセンス荒唐無稽SFの金字塔なので気になる方はご一読を。

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