【彼女の失恋と僕の初恋】
ハイヒールとアスファルトがぶつかり合う音が、七月の湿った空気にぼんやりとこだまする。
いつものように、彼女はふんわりとした髪を風と遊ばせながら、ゆっくりと歩いてくる。
朝露のような透き通った瞳をした彼女は、すれ違い様に僕に軽い会釈をする。
頭を少し下げる時に、その透き通った瞳から朝露がこぼれてしまうのではないかとひやひやしているのと、彼女の綺麗さに赤面してしまうのではないかという恥ずかしさから、いつも僕は視線を落としてしまう。
後には、雨上がりの夏の匂いを含んだ、彼女の香水とシャンプーの、柔らかい香りが、僕の周りを走り回るだけだった。
秋が過ぎ、完全に冬の雪の中にずっぽりと足をはめてしまった季節のことを睨みつけながら、いつもの道を歩く。
どんな季節よりも、冬が一番うるさくてきらいだ。
雪が地面に落ちる音が耳に響く。
その不協和音を引き裂くように、足音が聞こえてきた。
冬の乾燥した空気を走り抜けるように伝うはずの彼女の足音も、雪の落ちる音にかき消されそうだ。
遠くのほうで携帯電話を耳に当てている彼女は、誰かと話をしているように見える。
僕は少しの間気まずそうな顔をしたが、立ち止まることなく雪の中を進んだ。
後ちょっとで僕とすれ違うというところで彼女は携帯電話を耳からはずし、鞄の中にしまった。
なんだか、この世界の暗闇を全部背負っているような顔をしている。
いつものように軽く会釈をする彼女。
相変わらず僕の視線を落としてしまう癖は直っていない。
そして後には、雪の匂いを含んだ、彼女の香水とシャンプーの柔らかい香り、
そして
「涙の匂いがした」