第三話>>>
[1]
□ 市立体育館。
立看板「平成××年度○○市女子柔道大会」
□
対戦表。
声「すげえ…優勢勝ちもあったとはいえ五勝だぜ」「1人チームのコでしょ」
「相当な自信があって出てきたのね。」「一体、どこの誰?」
□
対戦表に、「○ 今川冬実(2級)」の文字。
□ 廊下。
冬実、へたばってる。
はあっ はあっ はあっ
□
孝之「一回戦突破おめでとう!」「やるじゃないか冬実!!」
□
冬実「孝之……あのな、軽いんだ。」
孝之「は?」
[2]
□ 扉絵。
□
冬実(自分の手を見て呆然としつつ)「対戦相手は女だろ。男のお前より軽いんだ、
パワーも無いし…。」
孝之「だろ! ずっと俺と練習してたからな。」
[3]
□
冬実(驚き)「孝之! おまえまさかわかってて…」
孝之、ウィンク。
□
冬実、拳を握り締めて正面を見据え、笑顔。
冬実「行ける…行けるぞ!」
フェードアウト。
□
ワーー ワーーー
冬実の試合。相手Bと組みあっている。
□
観戦席。
生徒A「ツイてねえな。2回戦めで優勝候補チームと当たるなんて。」
生徒B「でもやるじゃん今川のやつ。負けてねえよ。」
□
開始線に立ってる冬実、汗だく。
審判「技あり! 合わせて1本!」
声「ありあとーごらいあしたっ!」
□
冬実、消耗した様子で帰ってくる。
孝之(タオルを手に)「冬実っ!」
[4]
□
冬実「今のが次鋒戦だから…」
はあっ、はあっ、はあっ……
孝之「次の中堅を抜いたら、優勝候補を破って3回戦進出だぞ!」
□
冬実「冗談!」「私は柔道部員を増やすために来たんだから。完全勝利 軽く
かまさなきゃ!」
□
驚く孝之。
□
パァン!
孝之、冬実の背中を叩く。
孝之「その意気だガンバレ!」
冬実の目は「(◎_☆)」。
[5]
□
審判の声「中堅戦!」
真剣な顔で出て行く冬実。
見送る孝之。
□
孝之(歯を食いしばって悲痛な表情)「あンの、すっとこどっこいが…!」
(作者注:不可能であることを見抜いていて、しかし言うと士気を落として
しまうから言えず、葛藤してます)
[6]
□
冬実、重量級の相手Cと対戦してる。
□
だが息が荒く相当に消耗が激しい。
□
ダッ
足をかけなんとか転ばしたと思ったが…
審判の声「場外!」
□
冬実「はぁっ、はぁっ」
ニヤリとする相手C。
□
ふたたび対峙。
審判「はじめぃっ!」
[7]
□
衿を取り合いながら
冬実「ここで体力を消耗したらあとの2人に……」
□
ガッ ガッ と足がぶつかり合う。
□
払われる冬実の足。
冬実の声「あっ!?」
[8]
□
相手C、冬実を抑え込む。
審判「抑え込みー!」
ピィィィッ!
□
冬実(苦痛に顔を歪め)「も……もうだめ。」
□
孝之(絶叫)「冬実ぃぃっ! お前だけ勝ち抜き戦なんだ!」「後のことなんか
考えるな! 全力で行けぇ!」
冬実(心の声)「孝之っ!」
□
ずりっ・・・ずりっ・・・
冬実「くっ!」
冬実、畳の上を少しづつ動く。
□
ずりっ・・・
赤い畳から外へ足が出る。
[9]
□
審判「場外!」「抑え込み20秒! 有効ひとつ!」
ワーーーー
離れる両者。
□
冬実(ものすごい消耗具合)「はあっ、はあっ、はあっ…」
□
審判の声「はじめ!」
冬実「セイヤッ!」
突進。
[10]
□
ガッ!
相手C「あっ」
冬実の小内刈りがかかる。
□
耐える相手C。
□
冬実「頭を……」
□
ぐいっ
相手C「!!」
冬実「使うっ!」
頭で相手の顎を下から押し、強引に倒す。
孝之「うまい!!」
書文字「でも意味が違う(汗)」
ピーッ!
審判の声「技ありっ!」
[11]
□
コートの隅で息を整えてる汗だくの冬実。
冬実「はぁ、はぁ、はぁ……」
孝之「冬実、棄権しよう。」
□
冬実「孝之っ!?」
孝之「今のは運良く判定勝になったけど、もう限界だ。」「お前がもたないよ」
□
冬実(立ち上りながら)「バカな! 優勝までにはあと20勝はしないと……」
孝之「3勝、先に取ったからもういいんだよ!」「あとの二戦、棄権してもお前の
勝ちだ!」
□
汗だくの冬実は、孝之の手を振り払ってコートに出て行く。
冬実「私は…」「やるっ!」
孝之「冬実!」
□ 試合場。
相手Dと対峙してる冬実。
審判「副将戦! はじめ!」
□
くわっ!
冬実「私は、やるっ! 最後の最後まで……!」
[12]
□
冬実(心の声)「ファィト・・・」
冬実は、相手Dの衿を持ったままぶらさがるように倒れてる。
驚いてる相手Dと審判。
□
冬実は完全に気を失ってる。
[13]
□
対戦表に「失神」「棄権勝」の
書き文字。
□ 廊下。
うずくまってる冬実。
その隣に孝之が座ってる。
□
孝之「冬実…お前 最後までファイトを燃やしたよ。勝負に負けたけれど、試合には
勝ったんだ。」「俺にはわかってる、俺にだけは。」
□
冬実(涙目)「たかゆき……」
[14]
□
冬実、孝之の胸にしがみついて号泣。
あたりはばからぬ大号泣……。
(無音)
□ 部室前。
冬実、「女子じゅうどう部」の看板を外す。
□
孝之「とうとう廃部になっちゃったな。」
冬実「うん。でもやるだけのことはやったから。」
[15]
□
冬実(無理に笑って)「これからどうしようかなあ?」
孝之「練習続ければいいじゃん。」
□
冬実「え?」
□
ポン
孝之の声「柔道場は使えなくても、グランドの隅で遊ぶのは自由だろ。」
冬実、畳まれた柔道着を孝之に渡され、それを手に呆然としてる。
□
草地で受け身の練習をしてる二人。
□
孝之「ど、泥だらけ……」
冬実「うん。でもなんか楽しいからいいや!」
後ろから声「あのう……」
[16]
□
二人が振り向くと、女の子が2人。
一年「あのう……私たち1年の者ですけど」「実は、こないだの試合、見まして。」
「クラブ、無くなっちゃったそうですけれど、柔道…教えてくれませんか?」
□
冬実&孝之「え?」
□
さらに反対方向から、稽古着姿の…
由希子「おほん。ではまず受け身から教えてあげましょう。」
博美「冬実ちゃんはキビシーから覚悟してね。」
冬実は振り向いてビックリ。
冬実「由希子! それに博美!」
□
孝之「女子柔道部…復活かな?」
指で顔をひっかきながら照れ笑い。
□
ガッ!
冬実と孝之、笑顔で拳をクロス。
---おしまい