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トリコロール  作者: そらみみ
【しろ】
13/20

白霞は冬と共に

冬は、暖かさを求めずにはいられない。



零れた吐息が白く染まる。

マフラーで冷ややかな水滴に変わって顔に触れるから、思わず首を竦めていた。

目指す街角に佇む姿に、思わず足を速めると、向こうも気づいて一目散に駆けてくる。


「久しぶり、十和子さん」


抱きしめて暖かさにほっとすると、にゃあ。と十和子さんが嬉しそうに鳴いた。

十和子さんは、街猫だ。

誰にも飼われていないけれど、十和子さんはこの街以外の自由を知らない。

十和子さんはこの街で生まれて、多分この街で死ぬ。

それに疑問を感じるようになったのは、少しずつ年を重ねてきたからだろうか。

大学受験だとピリピリし始めた周りの空気は、冬と相まって寒さを強調する。

だから余計に、十和子さんの暖かさは泣きたいくらい切なくなるのだ。


「あのさ、春から県外の大学に行くつもりだよ」


十和子さんは不思議そうににゃあ。と鳴いて、それから柔らかな肉球で、肩を叩いた。

それはまるで、何を不安に思っているのかと呆れているかのようで、十和子さんはごしごしと頭を胸元に押しつける。


「そこはさ、行かないでっていって欲しいんだけど」


十和子さんは答えずに、するりと腕の中を抜け出して、道路に立った。

すらりとした立ち姿は、出会った時からぶれたりしない。

十和子さんは街猫であることを憂えないし、多分決して自分以外の何かの運命を、呪ったりはしないのだろう。

だからこそ、そんな十和子さんに会いに来るのだ。

暖かくて優しい、この生物に。


「じゃあ、十和子さん。合格したら、一緒に行こうか」


一度だけ振り返って、十和子さんはにゃあと鳴いた。

十和子さんは街猫だ。

この街で生まれて、多分この街で死ぬつもりだった。

でも、十和子さんだってこの街を出ていける。

生きている限り、何だって自由でいられるのだ。

春になったら、十和子さんは飼い猫になる。

街から出て、何処までも自由な猫として、十和子さんは生きるのだ。


「加瀬? 何やってるんだ?」

「必勝合格祈願」

「はぁ?」

「お互い受験頑張ろうね、速見」


通りで鉢合わせたクラスメイトにそう言って手を振ると、空に向かって息を吐く。

真っ白な息は、ふわりと霞のように、世界に融けた。

小さな世界は大きな世界に。

例え冷たい冬にでも、暖かさを抱いて歩いていく。


蛍灯 もゆる

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