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魔王を怒らせると多大な罪悪感と命の危険に晒されるから自重したい


「ただいま…ってうわっ!」


やる気になれなかったので仮病で学校を早退して帰ってみたら、シャルルがオレのベッドで寝てた。幸せそうな表情で。


「何してんだよ!?探りを入れるんじゃないのか!?」

「ん…おかえりぃ?」


寝ぼけ眼で起き上がって目をこすり、ふにゃっと笑う。


「はぐぅ」


両腕を広げ、抱擁を要求してくる。


「んなことより花香のことはどうなってんだよ!」


怒鳴ってからしまったと思う。シャルルの目は覚めたようだが、代わりにこれでもかと言うほどに目を見開いている。


「…私との抱擁より鹿野花香の方が重要か」


どうやらオレはシャルルの機嫌を損ねたらしい。


「………今の死神は冷たい」


そして布団をかぶって丸まっている。


「でも…幼なじみが変な事件に巻き込まれたら心配になるだろ?」

「そんなことより私を抱きしめろ。キスをしろ」

「そんなことって…!」


だんだんシャルルの言い種にイラついてきた。


「それを解決すんのがお前の仕事なんだろ!魔界からわざわざ来たならさっさとやれよ!」

「…好きで人間界(こんなところ)に来たんじゃないのに…」

「じゃあ帰ればいいじゃねえか!!」


カッとなってそう返すと、シャルルの体がビクッと跳ねる。


「……本気で言っているのか…?」


ふてくされたような声とは一転し、震えた声が返る。


「本気だ。我が儘ばっかでぐうたらしてんなら帰れよ」


言った後に、ちょっと言い過ぎたかと思い直す。


(…でも今のはシャルルが悪い)


そうは思っても、シャルルを見て心配になる。


シャルルはピクリとも動かない。しばらくすると、いきなり飛び起きて頬を張られる。


「お前の所為で私がどれだけ苦しんだか知ってのセリフかっ!」

「―っ!」


シャルルは泣いている。泣きながら怒り、揺さぶられる。


「何で…何でお前はそんなに薄情なんだ!どうしてそんな非道いことを口走る!!私の苦労も知らずっ…!!」


そして床に押し倒されて首を絞められる。…見た目に合わない怪力だ。


「鹿野花香のことばかり心配して…よもや貴様っ!鹿野花香に恋心を抱いているのではあるまいなっ!!私を…もはや愛していないとは言うまいなッッ!!!!」


苦しい…息が……出来ない…


「どうなのだ死神っ!!私などではやはり物足りないかっ!定めで決められた相手などでは不足なのかっ!!答えろッッ!!!!」


シャルルは息を荒くして睨みつけてきたが、しばらくしてゆっくりと手を離す。


そして顔を押さえて一層悲しそうに泣く。


「好きだ…お前が好きだ…」


小さな子どものようにしゃくり上げるシャルルを見て、かなり罪悪感が湧いた。


「ご………ごめん」

「…それは謝罪のつもりか?」


また睨まれる。


「まぁ…一応」

「一応!?」


そしてまた布団に潜った。また泣き始めたようだ。


「で、でもお前がそんなことって言うから…」

「……………………」

「悪かったよ、言い過ぎたって。オレが悪かったから許してくれ」

「…………………………………」


いよいよダメかと思ったら、シャルルがぼそりと呟く。


「………………………………キス…」

「え?」

「…………………………………………………唇に……キスしたら許す」


(だからそれは無理…)


「分かった…シャルル、愛してる」


また体が勝手に動いてキスしている。しかも今度は長い。


いつの間にかシャルルは起き上がって、オレの体に手を回してる。


「…許してくれ。頼む」

「………うん」


シャルルは微笑んで心地良さそうに胸板に頬ずりをしてくる。


「私も愛してる…愛してるよ、死神」


そしてまた…今度はシャルルからキスしてくる。


(ちょっと待て!何で動けないんだよ!!)


金縛り…じゃないよな。やっぱりシャルルの色香に惑わされ…


次の瞬間、体が自由になった。


「死神…うぅ…」


体を離すとめっちゃ残念そうな顔をされた。


何だろう、この可愛すぎる生き物は。目はうるうるで(しかも上目遣い)見つめられてるとこう…何でもしてやりたくなる。


「うぅ…仕事だ仕事!さっさと死神を元に戻すんだ!!」


どうやらやる気になったようだ。


自分に言い聞かせるように言って、シャルルは窓を開けた。


するとまたあの(クソがらす)が入って来る。


「今日は時間が無い。直接視る」


よく分からないことを言って、鴉の頭に手をあてる。


「ふむ…分かった。もう良い」


鴉は深々と一礼して、また消失した。


「…もう頃合だな……行くか」


シャルルが空を見て呟き、マントを羽織った。


「どこ行くんだ?」

「鹿野花香のいた高校だ。もうすぐ夕刻だからな、もしかしたら今宵活動するかもしれない」


そして窓から出て行こうとするので、思わず引き止める。


「待ってくれよ!オレも連れて行ってくれ!!」


シャルルが困ったような顔をする。


「しかもお前の体は今、ただの人間なんだが…」


少し考えた後、軽く息を吐いて頷く。


「いや…私さえいれば何とかなるか。だが死神、お前には正視するに堪えない光景を見るやもしれんことだけは覚悟してくれ」


ちょっと…いやかなり行きたくなくなった。


「行かないでいいんだぞ?」

「…行く…行かせてくれ」


…でももし花香が悪魔なんかに操られて酷いことをさせられるなら、止めさせたい。


「…うん、分かった」


シャルルはそっと微笑んで、オレの手を繋いで窓から…


「ちょっと待てよ!今は明るいんだから人間が空飛んでたら大問題になるぞ!」


昨日ももしかしたら人に見られていたかも…


「問題無い。昨日もだが、人間に不可視になる結界を張った。私達の姿は見えないよ」


そして今度こそ本当に、オレたちは窓から飛んでいった。

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