魔王が無自覚過ぎてマジ困る
(これ何てエロゲ!?)
いいのか!?これもしかして押し倒しても許させる!?
今はベッドの上だし、完璧にこれ合意だし、可愛いしエロいしボンキュッボンだし…
いいよな!?ヤっていいよな!?
それじゃあ…
「…チッ」
不意にシャルルが舌打ちして窓の前に立つ。すると窓から漆黒の鴉が入ってきた。目が紅い。
「なんだそれ?」
「魔界からの遣いだ。…何用か」
さっきまで笑っていたシャルルの表情が、全くの無表情に変わる。
『ご機嫌麗しゅう御座います、全能なる魔王様。死神…様は見つかりましたでしょうか』
「ああ、此処にいる」
馬鹿丁寧な鴉が、オレを見る。気のせいか軽蔑したような目で。
『…御冗談を、これはただの人間に御座ります』
「悪魔の仕業だ」
『悪魔なんぞに…まあ死神では当然…』
気のせいではなかった。
どうやらこの鴉、死神に対しては敬意が無いらしい。
オレが文句をつけようとしたが、それよりも早くシャルルが睨みつける。
「…我が夫を愚弄するのか貴様」
鴉がビクッと震える。
『そのようなことは…』
「ならば言を慎め。これ以上無駄口を叩くのならば即首叩き斬る」
さらりと端的に言うと、鴉がペコペコと頭を下げる。
『申し訳ありません!お許しを!!』
シャルルはギロッと鴉を見下ろし、しばらくして頷く。
「…今回は許すが二度は言わん。他用はあるか」
『はいっございますぅっ!』
シャルルが目で促すと、鴉がペラペラ喋り出す。
『保持者の居場所が分かりましたっ。ただ死んでいたのですが…』
「構わん、教えろ」
『はい、南に三十、東に六百二十六行った墓地に御座います』
「残留魔力が残っている遺物、または禁断魔石の反応がある物は分かるか?」
『いえ、所在不明です』
「ご苦労」
鴉は深々と一礼する。
『それではこれで失礼致します』
「ああ」
鴉が消えた。
飛び去ったのでは無い。本当に消失していた。
「…では、夜になったら行こう」
「墓地にか?」
シャルルは頷き、そっとまた寄りかかる。また理性を失いそうだ。
「愛してるぞ死神…お前だけをずっと…」
シャルルがオレの頬を撫でる。
「死神も私に言ってくれ…あの日のように愛していると…」
…気づくと、オレはシャルルを離していた。
「…死神?」
「……メシ、行ってくる」
「う、うん…」
シャルルは戸惑ったように頷き、オレに手を振る。
「いってらっしゃい」
「…ああ」
メシを食って戻ると、シャルルはオレのベッドで寝てた。
寝顔は案外あどけない。軽く寝息までたてている。
ほっぺを突っつくとむにむにする。触り心地が良い。
「ん…死神?」
シャルルが目を擦りながら起き上がる。
「あっ…起こしてごめん」
「ううん、大丈夫。死神、昔もよくほっぺた突っついてきたから…」
懐かしむように頬に触れ、目を細める。
「まだ…思い出してはないか…?」
「…ごめん」
「ううん、大丈夫。私がお前を救うのだからな」
そう言って微かに笑む。
「さて、私は少し疲れてしまった。時が来るまで寝るとしよう」
そしてまたベッドに入る。
「この部屋にはこれしか寝具が無いようだからな…必然的に私とお前は一緒だな」
軽くとんでもないことを言う。…心臓に悪いだろ。
「一緒に寝よう、死神?…二人のほうがあったかいぞ?」
おいでおいでと手招きするので、ベッドに入ってシャルルに対して後ろを向く。
「おやすみなさい…」
シャルルがそっと抱きついてくる。…胸がめっちゃあたる。
…でも何だろう…こいつとオレにはズレがある。それがなんかもやもやする。
懐かしい…気がする。
……でも…
…オレはこいつを愛せない気がする。