寂しがりな魔王様の授業参観(という名のストーキング)
お久しぶりです。
シャルル視点の間話のつもりで書いたものです。
「…暇だ」
澪のベッドに入っていたシャルルが呟く。
澪は毎日のように高校とやらに行く。他の女がたくさんいるという高校にだ。
(私は知っているぞ。学校には通学途中にはパンをくわえた美少女にぶつかって運命の出会いというおぞましい危険があることも、家庭科があればカップケーキやらクッキーやらを食べてくださいと渡され後日お味はどうでしたか?などのたまい社交辞令で美味しかったなどと返せばよかったぁ?などという媚びたように笑って距離を縮めていこうとされる虫酸が走るようなイベントがあることも、美術の授業では二人ペアで絵を描き合わされ舐め回すように視姦されてしまうことも、下校時雨が降れば傘を隠され何食わぬ顔で頬を染め相合い傘を提案し断ってもごり押したりする不届きな出来事が存在することも!!)
若干アホな勘違いを脳内で叫びながら、シャルルはガバッと起き上がる。
(…そういえば人間界の教育施設には授業参観というものが存在したな)
愛しの夫に会えてその夫に媚びを売る女のチェックをしようと考えつくと、シャルルの頭でそれはこの上無く甘美なことに思われた。
魔力の無い澪には魔法を使い隠れれば視認されないし、建物に入らずとも窓から覗けば良い。あと魔界からストーカーの如く付いてきている奴等は撒く。
たまには気配を断ち自然体な澪の観察をするのも良いだろう。それが不特定多数の他人に見られているという事実は虫酸が走るものだが。
…ちなみにこの時点でシャルルは自分が魔王であることも、一応今仕事中であることも、すっかり忘れていた…いや、正味覚えていても多分放棄していた可能性が高いが。
「…とりあえず死神に色目を使う奴がいたら適当に脳を改竄しよう」
物騒な事を呟き、シャルルは手に魔力を込める。
『スモークツリー』
シャルルの手から淡い紅色のふわふわとした花が生まれ、軽く息を吹き込むとシャルルそっくりの人形になる。
シャルル…もとい魔王には他の魔族と違い特殊な魔法を使える。
シャルルの知る花を具現化し、その花言葉に沿った魔法を使えるというもの。そして大抵一つの花には複数の花言葉が存在し、シャルルの知識の中にあればどの花言葉に沿ったものでも良い。
スモークツリーの花言葉は“煙に巻く”。つまりシャルルはダミーを作ったのだ。
ちなみにこの魔法はかなりの魔力を使うのだが、シャルルの頭の中では疲労やら後に控える事>>>>>>>澪の観察なので欠片も気にしていない。
というか頭の中は死神でいっぱいで、シャルルの頭には一刻も早く澪の観察をしに行くことしか頭に無い。
「この騒動が終わったらいっそ死神の高校に入るというのも手だな」
部屋にダミーを設置し、窓から外に飛び出す。
「…高校とやらは案外小さいな。私の生家程もない」
シャルルはふわりと浮かんだまま高校を見、澪のいる教室を見つけ(しかも一番後ろで窓際の席だ)、シャルルはその真横にある樹の枝に腰掛けた。
勿論姿は隠しているので澪はシャルルに気付いていない。が、何故か視線を感じて居心地悪そうにしていた。
澪はどうやら学校に着いてすぐのようだが、シャルルの見る限り誰とも話していない。
キーンコーンカーンコーン
一時間目数学。十分で寝る。(こちらに顔を向けてる。寝顔が可愛い)
二時間目社会。教科書で隠して小説を読んでいた。(真剣な顔をしてて格好いい)
三時間目科学。どうやら何かの実験をしているようだが、皆が黄色の物質を作っている中一人だけ紫色で沸騰している液体を製作していた。(誰より早く完成させてどやっていたが自分だけ色がおかしいのに気付いた。おろおろしている姿は死神の時は見えなかったから物珍しい)
四時間目古典。爆睡していたが五分前に目覚め、チャイムが鳴った瞬間教室を飛び出した。そしてホクホクした顔で様々なパンを買って戻ってきた。(うん、やっぱり死神は笑ってた方がいいな…)
「………ふむ?」
他のクラスメートは男女入り交じって談笑しているというのに、澪の周りには誰もいない。というかシャルルが見ているうちに澪はまだ誰とも接触していない。
澪は孤立していた。
「…死神は巷で言うボッチというやつなのだろうか?それはそれで好都合だが」
そう言いつつもいつもと違う澪に戸惑うシャルル。
それも無理はない。
澪は基本的に他人に興味を持たずどちらかといえば現実より二次元に興味があるオタク気味&若干のコミュ症なのだが、あまりに非現実的なシャルルが来たためツッコミという新たな属性を発掘してしまったのだ。
そして澪は死神でもあるため勝手にリラックスしてしまっていて素が出ているというのもある。
…一番の要因はキャラの濃すぎるシャルルに振り回されていることなのだが。
キーンコーンカーンコーン
「…死神に近づく女どころか近づく人間が一人もいないのは予想外だったな。まあ死神をこれだけ見つめているというのは楽しかったが」
やはり一人で昼食を食べている澪を見ながらシャルルが呟く。
「しかしパンだけというのは感心しないな。…私がここに入り死神の為に弁当を作り四六時中共にいれば確実にいらん虫も付かないし、本格的に転入を視野に入れるか」
くどいようだが、シャルルの頭の中で自分が魔王であり人間界には仕事の為に来たということはすっかり忘れられている。
しかしふと目を落とした時計を見て、シャルルが立ち上がる。
「…そろそろ時間か」
シャルルは空いた窓から体を乗りだし、パンに夢中に澪の額にキスを落とす。
「………また後でな、死神」
シャルルは笑って飛び立った。




