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残された禍根  作者: 長谷川龍二
第三章 駿府
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胸中

慶長十二年 閏四月十一日 駿府城


 駿府城の主、徳川家康は次男秀康が本多冨正を伴にして登城した事を側近の本多正純から聞き、思案していた。


(秀康が来たか……。冨正の肩を借りて歩いておるという事は病が完全に癒えたのであるまい。秀忠に将軍職を継がせる事を決めてから、日々の食事に毒を盛るように手配した。あれから大分時間が経っておる。完全に回復などあり得えぬ事だ)



 本多正純は秀康らを二の丸にある控えの間に案内した後で、主君家康に秀康の様子を報告していたが、家康は特に何かを口にする訳でもなく黙して話を聞き、何事かを考えるような表情を浮かべていた。


 家康からの返答が無い為、正純は家康に対面するのかを尋ねた。


『大御所様。越前黄門様は伊豆守殿を供に先程登城なされました。伊豆守殿の肩を借りながら歩いておられるので、御病気が癒えたようには見えませぬ。越前黄門様から大御所様とのご対面を望むと承りましたが、如何なされますか』



 家康は秀康との対面について指示を出した。


『二の丸の茶室に通せ。秀康とは茶室で話す。本来であれば正式に本丸の書院で対面すべきであるが、お主の話しでは秀康の病は癒えて居らぬ。病躯をおして越前から来たのは儂に別れを告げる為であろう。秀康の望みが儂と最期の別れを告げることならば、余人を交えず親子だけで話をする』



 指示をうけた正純は家康の言葉を秀康に伝え、対面の用意をするべく退室した。


 家康は目を瞑りどのように秀康に接するべきか、どのように毒の一件を確認するべきか、何を話すべきかを思案し続けていた。


 秀康か駿府に来ると知った日から考えたが、いまだに考えあぐねている。


(秀康は間違いなく毒の件を儂に確認してくるであろう。正純の話を聞く限りやはり秀康は毒に蝕まれておる。残された時間は多く無いはずだ。このまま時が過ぎれば秀康は死ぬ。対面の場ではぐらかす事も可能だが、そうすれば秀康は儂が毒を盛ったと判断するであろう。秀康が冨正にそれを話せば、秀康の家臣達は主君を暗殺された事に激昂し、兵を挙げる事もありうる。嫡男の忠直や冨正ではその者達を抑えきれぬであろう。だが、真実を口にする事など出来ぬ……)



 秀康に毒殺の件を覚られることなく、親子の対面を終わらせる方法を家康は考えたが、間もなく死を迎える秀康を完璧に欺く事ができるか不安になった。


 死の間際に立たされると人は感覚が異常に鋭くなる。多くの合戦を戦い抜き三方ヶ原の戦いで武田信玄に敗れ、討死の寸前にまで追い込まれた事がある家康は自身の経験から秀康を侮る事は非常に危険なことだと感じていた。


 茶室を対面の場所として選んだのは、毒殺の件を誰にも知られない為である。秀康が毒殺の件を覚り、激昂するような事があれば大声で父である自分を罵り、刃傷沙汰になることもある。そのような事になれば真実が明るみに出てしまい、越前の者達は徳川家に反旗を翻すことも充分あり得る。


 家康は秀康と二人で話し、秀康が真実に気付いているならば、家臣を呼び寄せ秀康が乱心したとして家臣に秀康を斬らせる事を覚悟した。それ故に内密に話ができる茶室を対面の場所とし、茶室の付近には正純だけを控えさせておくつもりだった。


 (ほんの僅かな失敗も許されん。万が一毒殺の件を儂が手配した事を秀康が気づいておるならば、あ奴を斬らねばならん。嫡男に次いで次男をも儂の手で葬る事になるか。不憫だが徳川家を守る為にはやむを得ん……)


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