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残された禍根  作者: 長谷川龍二
第三章 駿府
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登城

慶長十二年 閏四月十一日 駿河国


 結城秀康は本多冨正を伴に駿府城に登城した。父家康と対面するためである。


 秀康は冨正の肩に手を置き、冨正に支えられるように歩いている。

 登城の直前、冨正に病躯を押して駿府に来たと父に説明すると伝えた。


『冨正。儂は間もなく死を迎えるあろうことを父上に正直に話すつもりだ。だが儂が病んでいるように見えなければ、猜疑心の強い父上は儂を疑い、本音で話さぬであろう。そうなれば病躯をおして駿府まで赴いた意味が無い。ゆえに儂は歩くのにお主を力を借りねばならぬように見せかける』



 秀康の言葉の意味を理解した冨正は、何も言わずに秀康のいう言葉に従った。


 秀康の少年時から傍らに仕えていた冨正は、家康が秀康を養子に出すまで嫌悪していた可能性があること事、そして現在では秀康の存在を恐れて息子に対して、まるで媚びているかのように遠慮していることを理解していた。


 家康の行動から秀康が父から家族と思われ信頼されていないとだと感じても不思議では無い。少なくとも冨正には、家康が主君である秀康のことを家族として大切にしているようには見えなかった。


(やはり殿は大御所様に対して不信感をお持ちか。大御所様が殿を幼い頃からないがしろにした事は事実だ。殿が大御所様を信じていないのは、大御所様から家族としての扱いを受けた事が無いとお考えなのが理由であろう)


 だからこそ秀康は自力で歩けないように見せかけ、病躯を押して父のいる駿府まで足を運び、父との最期の対話をする事で、秀康という存在を家康が本当はどのように思っているのかを確認しようとしていると冨正は判断した。


 幾度も養子に出され、父親という存在を秀康は良く知ることが出来なかった。

 それが心残りとなっており、病躯をおして駿府へ赴いた理由ではないかと推測している。


(大御所様は殿に家族として接しなかっただけでなく、太閤殿下に養子に出された。養父となった太閤殿下も亡き鶴松君がご誕生された後は、殿を実子を支える一門衆として育てるのではなく、脅かす存在と判断し、結城家に養子に出された。殿は実父と養父の二人の父から捨てられたとお考えなのかもしれん)


 冨正から見た秀康は、兄の松平信康を失ってから孤独を一人で耐えてきたように思われた。秀康が結城家へ養子に出される事が決まった際に冨正は秀康に慰めの言葉を掛けた事がある。


 父と慕っていた豊臣秀吉が、秀康に一門として別家を起こさせるのではなく他家に養子に出されたからである。羽柴姓を賜り、秀吉の養子であった事から結城家に養子に出されても豊臣一門である事は変わらないが、他家に養子に出された事で秀康は父親を再度失った。


 冨正は、結城晴朝も「父親」として秀康に接する事は無いと考えていた。家を存続させる為に天下人から養子をもらい受け、結城家の血族と婚姻させ秀康の子に結城家の血を入れる事で自家の安泰を図ったと見えたからである。



 秀康は冨正の慰めの言葉に返答しなかった。

 落胆していたのか、自分に家族はいないと諦めていたのか冨正には分からなかった。


(殿は先代の晴朝様を父としてご覧になった事は無いのかもしれん。殿に家督を譲ってご隠居なされたが、殿に家督を譲る事は太閤殿下からご養子として迎える際の条件になっていたのであろう。それ故に殿は晴朝様に敬意をもって接してはいるが家族として、父親としてご覧になる事が出来ないのであろう)



 死の間際に駿府に赴いた事は、秀康が実父家康から家族として接してもらう事を諦めていないからであると冨正は思っていた。


(大御所様が殿を家族をして認め、最期の別れに際して父親として接する事を殿はお望みなのかもしれん。そうでなければ病躯を押して駿府まで赴くなど考えられん)


 冨正が主君秀康の胸中を忖度していた時、秀康もまた冨正の事を考えていた。


(冨正に儂の伴をさせるのも今日が最後となる。幼いころから常に儂の傍らで忠を尽くした者すら欺かねば、儂の望みを達する事が出来ぬ。全てが終われば詫びねばならん。父上との戦いが終われば全てを伝えられる……)


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