第四話 番外編 「五分前」
番外編です。
和人達がいる場所とは違う所が舞台
またもやゾンビは登場しません(いつ出すんだ)
楽しんで頂ければ幸いです。
とりあえずここでこの国の『軍』について説明しておこうか。(海軍、空軍別)
日本王国陸軍…今でこそ個人装備や車両などに日本製の物を使い特色が出てきたが、少し前まではまるっきり『アメリカ連合国』一色だった軍隊。階級等は今でもアメリカ式。徴兵制度は無いが、犯罪者の更生プログラムとして軍入隊がある。
規律の厳しさは地域によって様々で、東京など重要な所ではより厳しくなっていくし、逆もまたしかり。(その基地の最高責任者にもよる)
だが、訓練の一環として定期的に各国の紛争鎮圧に協力していることもあり、全員(新人以外)実戦経験もあるので、諸外国からの評価はそれなりに高い。この訓練という名の現地派遣、毎回『○○(地名)サバイバルツアー』等ふざけた名前が付けられているが、死亡率は三割を超える厳しい訓練である。もちろん反対の声も大きいが中止予定は無い。
こんなところだろう…
まぁこの基地がどんな感じなのかは読んでもらえばわかる。
陸軍基地内地下食堂 空爆5分前
それなりに清潔に保たれた食堂内では軍人が6人程集まりテキトーにだらだらしながら、まぁサボっていた。
「緊急招集かけといて寮で待機ってどーゆー事なんだ?」
「んな事俺が知るかよ…」
「おばちゃーん!おばちゃんは何か知らない?」
食堂のおばちゃんこと『平井トメ』69歳 まだまだ現役(自称)は面倒臭そうに答える
「あたしが知るもんかいね…。それよりもあんたら、寮で待機じゃないんかい?バレたら減給じゃすまないよ」
「あ〜大丈夫大丈夫。つか、あんなクソ暑い寮にいたら倒れちまうよ」
「あぁ、それに俺らより危ない人もいるしな」
「危ないって『岩城さん』か?え!?まだあの人パート続けてたのか!?」
「そ。しかも緊急招集かかってんのに遅刻」
「こっちが本職だって分かってんのか?」
「分かってねぇからやってんだろ?真面目そうな顔してヤル事無茶だからなぁ」
『岩城』とはあの『岩城』で間違い無いだろう。まさか軍人と掛け持ちで仕事をするとは恐れ入る。…と、ここでトメさんが口を開いた。
「あんたら好き勝手言ってるけど…岩城はあんたらの上官だろう?」
「そうだけど、本人が良いって言ってるし」
さらに上官だったらしい…あの上官にしてこの下士官あり…か?
と、ここでもう3.4人軍人が入ってきた。
「よぅ!お前らもサボリか?」
「いっしょにすんな…と言いたい所だが、そうだな」
口ぶりから察するに階級は同じらしい、カウンターで水を汲むと近くの椅子に座った
「上の様子は?」
「ん?あぁ、真面目に待機してるのは新人ぐらいだ。噂で『召集は間違い』なんてのが流れててな、敷島部隊長が確認に行ってる。だからもうじきここも人でいっぱいになるんじゃないか?」
「げぇ〜」
話を聞いた一人が心底嫌そうな顔をしたが、突然…
「静かにおしっ!」
トメさんが大きな声を出した
「おばちゃん?何…」
一人がトメさんに反応しかけてその場の全員が『気付いた』
換気扇から『ゴォォォォォ』という音が聞こえる、もちろん換気扇は回していない。
「2機…いや3機以上はいるな」
「あぁしかもデカイ、だが…ジェットじゃないペラだ」
「プロペラ機!?この時代にか?聞き間違いだろ?」
「間違っちゃいないさ」
トメさんがまたゆっくりと口を開く
「あたしがこの音を聞き間違えるもんかい……B29だよ」
突如、恐ろしい爆音と揺れが食堂を襲った
爆撃は一分にも満たなかっただろう、だがその場にいた者にとっては長い長い一分だった。
何時間にも感じた爆音と揺れがようやく終わる。もうB29のエンジン音が聞こえないのを確認して一人が顔を上げた。周りを見回すと非常灯に切り替わっている以外は特に異常は無さそうだ。だが地上がどうなっているかは、まだ分からない。
とりあえず現状把握が第一だ。
「全員無事か!?」
「敷島隊4名 全員無事だ」
「岩城隊5…6名 大丈夫です」
「おばちゃんはっ!?」
厨房を探すが見当たらない。
「生きてるよ…ちょいと手伝ってくれんか?」
すると、食堂の奥から大きな箱を引きずって現れた
「ちょっとおばちゃん!ビックリするからやめてくれ」
「なんでも良いからコイツを開けな」
トメさんはそれだけ言うと「ヨッコラショ」という掛け声と共にイスに座った
「おばちゃ〜ん!これカギかかってんだけど」
引きずって来た箱は鉄製でそれなりに大きく、南京錠がかかっていた
「ああ、忘れてた。あいよ」
「おっと」
小さなカギが投げ渡された。
カギを開けた箱の中には、
「うお!何だこりゃ!?」
見たことも無い『ライフル』が5丁と弾薬装填済みのマガジンが1丁に二つずつ入っていた。
機関部がグリップより後ろにくる『プルバップライフル』だというのは分かるのだが、後は見た目が「おもちゃ」っぽいというのと、マガジンがM16の物と同じという事しか分からない。
全員が戸惑っていると、
「なんでもいいから、とっとと持っていきな!」
トメさんが怒鳴った
「!? あぁ、敷島隊!2丁持って行けこちらは3丁だ!動作チェックが終わったチームから地上の生存者捜索に当たれ!分かったか!?」
「了解!!」
もう先程までのふざけた感じは無い、全員黙々と銃の点検をしている。ライフルを渡された者は少し迷いながら、それ以外の者は腰に吊っていた拳銃をテキパキと。評価が高いと言うのも頷ける。
そして、両チーム食堂から走って出て行ったのだが、先程命令を出した一人が残っていた。
「あの銃は『F2000』ですね?なぜあんな物が?」
「おや…知ってたのかい」
トメさんは少し驚きながら答えた。
『F2000』ベルギーFN社製、人間工学に基づいて設計され、将来的に火器統制装置(FCS)の装備も考えて作られた。まだ配備している国も少ない新型のライフルだ。知っている人間が見ればこんな基地に少数とはいえ置いてあるのは不思議に思うだろう。
「あれはねぇ、テストのために輸入されてたのをアタシが”ちょろまか”したのさ」
笑いながら言うが、とてもじゃないが笑い事ではない。
「チョロまかって…あなたは民間人でしょう!?」
当然怒る…だが
「何言ってんだい、あたしゃあんたらの隊長よりも上官だよ」
と言って階級章を見せた
「は!?」
確かに上官だ。それもかなりの
「とっとと行っといで、喋ってるヒマはないだろう?」
「っ!了解!!」
弾かれるように走りだしたのだが…止められた
「あぁそうそう…さっきの命令、なかなか良かったよ。それと、敬語は止めとくれ」
兵士は少し考え
「ありがとう、おばちゃん!」
今度こそ地上に飛び出した。
所変わって『農業地区中心部』 同じく爆撃5分前
農業地区は中心に小さな商店街を持ち、周りを田畑と山で囲まれている。そんな土地だ。
普段はとても静かな場所なのだが、今日は違った。周りの山々から『ダーン』という重い銃声が鳴りっぱなしだった。そして商店街にはオレンジのジャケットを着て、散弾銃を携えた猟師が何人も集結して何やら話をしている。皆年寄りばかりだが体つきは良い。
「ヨネさん!やっぱりだめだ…足ぃ吹き飛ばしてもまだ死なねぇらしい」
ヨネさんと呼ばれた男が聞き返す
「弾ぁ何使った?」
「全部スラッグ弾だ。もう十発以上当たってんのに…」
「頭に当たったか?」
「いや…狙っても当たらねぇんだ」
「じゃああれだ、鳥撃つ時使う『玉』が細けぇのがあるだろ。あれ使え!」
「分かった。伝えて来る!」
こんな田舎街で一体何があったのか、事件があったのは朝方。一人暮らしの御婆さんが熊に飲まれたのを、畑仕事をしていた爺さんが見たらしい。そして猟師が数人だけ向ったのだがとても手に負えず、応援を呼んだ。そういうことらしい。
しばらくすると、山に出ていた一人が弾切れで戻ってきた。
「おい!どんな熊だって?」
ヨネさんがすかさず呼び止める
「ん?あぁ見た目は『ツキノワグマ』なんだが、バカでかい。2m以上ある」
「2mだ!?他は?」
「他っつっても…あ!あの熊やたら臭ぇんだ。腐った臭いがプンプンしやがる。それぐらいだな」
「そうか、ありがとよ」
そう言ってヨネさんこと『米吉』は悩んでいた。
「(カベが出てきて撃たれた奴もいるって話だし、今度はバカでかい人食い熊か…どうなってやがる)」
そうして不機嫌そうに煙草をふかしていると、遠くの方から『ドーン』という音量は小さいのだが妙に体に響く音が聞こえてきた。目をやると、山の間から微かに立ち上る黒煙も見える。
「(街の方か?…)」
最初はあまり気にしていなかったのだが、ある物が頭上を飛んで行くのを見て絶句した。
「(B29!?何であんなポンコツが飛んでやがる!)」
かなり上空だが見間違えるはずが無い、子供の頃に散々見たのだから。周りの年寄り連中も同じらしい、上を見てポカンとしている。
「本当に…どうなってやがるんだ…」
「ヨネさん!」
と、米吉が呆けていると若い(と言っても40代)猟師に呼ばれた
「どうしたぁ!」
「熊が…もう一匹出やがった!!」
「何ぃ!?」
のんびりしているヒマは無さそうだ、と考えた米吉は
「しかたねぇ…おい!全員で行くぞ!!」
その声を聞き皆がわらわらと軽トラに乗り込み、山へと入って行く
今、この田舎町で最大の『狩』が始まった
読んで下さりありがとうございました。
番外編という事で『軍隊』中心に書いてみましたがいかがだったでしょうか? 『F2000』これは自分が一目ぼれした銃です。気になる方は画像検索して下さい。
『ヨネキチ』も登場させちゃいました。この人には後々活躍してもらう予定です。
では、また次回も読んでやって下さい