第五章:劉備軍は変わり始める
劉備軍は、静かに変わり始めていた。
目立った勝利があったわけではない。
名のある戦があったわけでもない。
だが——“崩れ方”が変わっていた。
以前なら、行軍中に小さな混乱が起きればすぐに乱れていた。
食料が足りなければ士気が落ちていた。
夜営では常にどこかに不安が漂っていた。
それが、今は違う。
「……腹が減る時間が読めるな」
「昨日より動きやすい」
そんな小さな声が、兵の間に増えていく。
転生者は気づいていた。
これは“強くなった”のではない。
“消耗が減った”だけだ。
だが、それが戦場では致命的な差になる。
ある日。
劉備が軍の様子を見回っていた。
その横に張飛がいる。
「最近、変だな」
「何がだ」
「負けそうな空気が減った」
張飛は鼻で笑う。
「気のせいだろ」
だが、その目は否定していない。
劉備は静かに言う。
「人は、少しの変化で変わる」
その視線の先には、転生者がいた。
転生者は兵糧の管理を見ている。
帳簿。
配給。
消費量。
それらをただ“並べているだけ”だ。
だが、その並び方が違う。
劉備が近づく。
「また何かしているのか」
転生者は頭を下げる。
「いえ、確認です」
「何の?」
「崩れないかどうかの」
少しの沈黙。
劉備は笑う。
「お前は戦を見ていないな」
転生者は答える。
「はい。崩れる前を見ています」
その言葉に、劉備は少しだけ目を細める。
「面白いな」
それだけだった。
だが、それで十分だった。
■小さな異常
数日後。
奇妙な噂が出始める。
「劉備軍、長く動いても崩れないらしい」
「食料が少ないはずなのに、疲れていない」
「夜襲に強くなっている」
だが、誰もまだ理由を知らない。
兵たちはただこう思う。
「最近、なんか楽だな」
そして転生者だけが知っている。
これはまだ“序章”だということを。
遠くで、時代が動き始める音がする。
曹操。
孫権。
そして、まだ見ぬ戦場。
劉備軍はまだ弱い。
だが——
もう“同じ弱さ”ではない。




