22_ラストリゾート(10)
シャルロットから叔母の身に起きた事の顛末の全てを聞き終えたトルテは、暫く放心状態だった。それから、どうして叔母が両親や兄に呆れられても尚人間を庇うような発言を繰り返しているのかを本当の意味で理解すると、トルテはわけもなく無性に泣きたくなってしまった。だからトルテは全てを語り終えたシャルロットに抱き着くと、おいおいと声を上げながら泣く。それは彼女が今もどれだけつらい思いをしているかが容易に想像出来たと共に、今も尚ルビーという少女改め自分が恋した人の母親を愛しているかが手に取るように分かったからだった。
――これは傍から見れば傷の舐め合いにしか見えないかもしれない。けれど傷の舐め合いなどという何も生まない非生産的な同情と憐憫が生み出したスピログラフではなく、次の世代である自分に叔母と同じようにこの恋を胸の内にしまい込んで相手の幸せを願うか、あるいは神などという大それた存在を相手に逃避行を繰り広げるかを考えさせ、そしてその答えを託すに必要な一幕だったのだとトルテは感じると、ただひたすらにその胸の中で泣きじゃくった。そして過去の痣を乗り越えた先に待ち受ける、『今』の問題――自分はどうするのか、どうしたいのかをよく考えるように告げられると、トルテは自信なさげに頷いた。それはどちらを選んでも苦しい結末になることを、叔母の話から悟ってしまったが故だった。
「……わたし、選べないわ。」
「それでもね、選ばなきゃいけないのよ。」
泣き止んだ後、つい弱音を吐いてしまった姪をシャルロットは優しく叱責する。それから眉間に皺を寄せては難しい顔をしながら百面相を繰り広げるトルテに「悩んだ時は身体を動かすのがいちばん!」と、話し込むうちにすっかり明けてしまった夜を背後に隠しながら高らかに声を上げた。シャルロットは空が白むにつれて徐々に明るくなっていく海の中を指差しながら、気晴らしに散歩にでも行ってくるように告げる。トルテはとても散歩なんて気分ではなかったものの、あまりにも外に出ることを勧めてくる叔母を断りきれずに頷いてしまうとふらふらとした動きで彼女の家を後にした。
トルテは海の中をどうか兄や両親に会いませんようにと願いながら、海の底をゆっくりと泳ぐ。そうするうちにどんどんと昇ってきた朝日に照らされてキラキラと輝く海藻や小石を見遣りながら、トルテはジェラールが唯一口にしたマレノスタリアの海に対しての不満――小さい頃、家族で出掛けた夏の旅行で目にした南国の海のように鮮やかで神秘的な色とは異なる、どうにも灰が掛かったような北国特有のくすんだ青がどうにも気に食わないとボヤいていたことを思い出すと、無意識にくすりと笑ってしまった。それから陸から見下ろす北の海は確かに少し濁った色をしているかもしれないけれど、こうやって底まで潜れば南国の海にも負けないくらいに輝いていることをどうか彼にも知って欲しいなと考えてしまっている自分に心底呆れてしまうと、ため息を吐いてから海底でごろりと寝そべった。けれど海の底から横になって見上げる空の輝きや神秘的な光に、またしてもジェラールにもこの北の海の良さを知って貰いたいなと全くの無意識のうちに思考している自分に気が付くと、思わず「……病気ね…。」と呟いた。
トルテは目に映るもの全てをジェラールと結びつけてしまう自分の単純さに諦めて海の底から空を見上げながら、箱入り娘――というよりかは兄のザッハが口うるさいが故に全くもって知らなかった異性へ装飾品を贈るという行為の意味を、ジェラールは知っていたのだろうかと考える。それから知っていようがいまいが、どうであれ既に告白じみた行為を知らなかったとはいえ実行に移していた己の無知さと恥ずかしさに海底でひとりゴロゴロと転がっては身悶える。そしてその拍子に、ついうっかり海底に転がっていた鋭利な石で腕に切り傷をつけてしまうと、予想していなかった痛みに目を瞬かせた。それから血の匂いに魔物や鮫の類が寄ってきてしまうと顔を青くして焦ると、一先ず海以外の場所――陸で止血しなければと海面に向けて泳ぎ出す。無論、いつもジェラールとの逢瀬に使っていたあの大岩と複雑な海岸線ではない、何処か別の安全そうなところでと思考を巡らせるも、そこ以外に人目に着きにくい安全な場所など知りはしないトルテは一瞬迷う。
が、きっと時刻的にもジェラールは大学だろうし、そうそう会うこともないだろうと人魚らしい楽観的な思考に任せると、トルテは通い慣れたあの海岸線へ向けて泳ぎ出す。幸いにしてまだまだ若いトルテは普段住処にしているあたりとは反対側の海域を散歩していたにも関わらず、ものの数分でいつもの大岩の陰にたどり着くと念の為にあたりをキョロキョロ見回してから身体を休めようとした。しかしそんな折、海食崖の端に引っかかっているゴミを見つけてしまうと、トルテはどうにも無視出来ずに怪我の手当てよりも先にそちらへ手を伸ばしてしまった。
「……もう。ゴミなんて捨てないでよね!」
トルテはひとり頬を膨らませてはプリプリと怒りながらそれを手に取る。少し触れただけで崩れてしまった紙袋は、どうやらそれなりに長い時間海水に浸っていたようだった。トルテは触れれば触れるほどに解けていく紙袋に情けない声を出しながら必死にゴミを集める。が、その拍子に紙袋の中に何か入っていることに気が付くと、どうにも疼いて仕方がない好奇心に任せて思い切って中身を取り出してみた。
すっかり海水に溶けてしまった紙袋の中には耐水性のある素材で作られているのか、それとも魔法が掛けられているのか、とにかく長時間海水に晒されても尚サラサラを保ったままの小さな箱がひとつ、入っていた。トルテはその箱に書かれた文字を読めないものの、その文字列や包装のデザインにはなんとなく見覚えがあった。――以前にジェラールが贈ってくれた焼き菓子店に、よく似ている。トルテはそう思った。それからあの日……ジェラールを一方的に拒絶して泣きながら帰ってしまった日、彼が鞄とは別に何か手に持っていたことを思い出すと、トルテはまさかね、と呟いた。これ以上期待させないでと口にしながら、震える手で恐る恐る箱を開けた。
――するとそこには前に確かに自分がいちばん美味しいと言ったチョコレートのマカロンが3つと、ツヤツヤのクロワッサンが入っていた。トルテは全くの偶然と呼ぶには少々出来すぎなこの状況に、そんなはずがないと首を横に振る。けれど本能は間違いなくこれはジェラールのものだと告げていて、トルテは込み上げてくる愛しさやら困惑やら、はたまた自分が彼を不幸にしてしまうかもしれないという罪悪感に苛まれると大きな瞳からポロポロと涙を零す。わけもなく、声も上げずに泣いてしまう。それから本当にほんとうにどうしようもないくらいに優しい人だと鼻を啜ると、まん丸に太ったチョコレートのマカロンをひとつ摘んだ。あの日のように齧り付いてみた。
久しぶりに食べたマカロンは、相変わらず口の中で咀嚼する度にネチョネチョと音を立てては歯に纏わりつく。それがなんだか嫌なような気もすれば、却って楽しいような気がする。何れにしろ海の中には存在しない不思議な食感に浸っているうちに、舌を通して痺れるような甘さが口いっぱいに広がる。脳の隅から隅まで染み渡る。占領する。ああ、この感覚だとトルテは泣きながら笑うと、舌の上で蕩けるチョコレートと砂糖をごくりと喉を鳴らして飲み込む。どうしようもなく甘くって、なのにそれが心地良くって。少しだけ変な感覚がするのに、何故だかまた欲しくなってしまうところが、本当にほんとうにジェラールにそっくりだとひとり泣き笑いする。
それから同じく箱に収められていたクロワッサンに齧り付いてみると、今度はマカロンとは反対に鼻水に覆い尽くされている鼻腔さえも刺激してみせる芳醇なバターの香りとサクサクの食感がしたものだから、トルテはまたしても泣いてしまった。どうして彼はこんなにも優しくて善い人なんだろうと、嘆きさえした。そしてそんなにも善い人間である彼に自分がしてやれることなど、ただのひとつ――彼の人生から立ち去ることに他ならないとトルテは決めると、シャルロットの言う通り散歩というのは本当に思考を纏める効果があるのだなと苦笑した。と同時に、どうかこれを胃に収めるまではまだ彼のことを愛させていて欲しいと誰に向けているわけでもない言い訳を何度も何度も心の中で吐くと、腕の怪我も忘れてふたつめのマカロンを手に取った。
「――――――!?ちょ、ちょっと?!いや無理無理無理、待って……!!」
そんな時だった。トルテは砂浜を踏む足音に息を呑むと、大岩と海食崖の隙間に身体を押し込む。そして必死に息を殺す。以前ならば無邪気に誰か来たのだろうかと好奇心のままに顔を覗かせていた彼女だが、初めて叔母の話を隅から隅まで聞いた今となっては人魚が人間社会においてどういう扱いを受けるのかなまじ知ってしまったがだけに、少々用心深くさえなっていた。故にトルテは必死に息を殺しては早く何処かに行ってくれと、その足音の主に心の中で呼び掛ける。
が、この海岸を訪れた誰かはわざわざトルテとジェラールがいつも語り合った大岩のすぐ近くまで足を進めた上に、暫し砂浜の上で休憩することにしたらしい。鼻と唇から言葉にならない吐息を漏らしながら静かに砂を踏みしめては座り込む音が聞こえると、トルテは口の中で「もう!」と呟く。これじゃあせっかくジェラールが残してくれた菓子を食べることも音を立てて潜って逃げることも出来ないじゃない、と。それから腕の怪我といいなんてツイていない日なんだとひとり静かに不貞腐れる。
するとまるで「その程度でツイていないだなんて思うんじゃない」と言わんばかりに不意に押し寄せた些か大きすぎる波にバランスを崩したトルテは、その綺麗な箱と中身のマカロンを暴れ狂う海水から守ろうと変な体勢になってしまった。具体的には右手で箱を高く掲げつつ、高波を受け止める背筋は海老のように大きく反り、かつ安定を求めてどうにか手近な岩場に捕まろうともがく左手はわけもなくその手のひらを開いたり閉じたりしていた。加えて更に彼女にとって不幸だったのは、根っからの明るく楽観的な性格故に反応が良すぎることだった。つまりは、トルテは本来口を噤むべき状況で大きく声を上げてしまったのだ。それも盛大に上げてしまったのだ。
――しくじった、と思った時には既に時遅しだった。先程砂浜に座り込んだばかりの誰かが此方へ向かって歩いて来る音が、やけに鮮明にトルテの鼓膜を揺るがす。トルテは半ばべそをかきながら今からでも潜って泳いで逃げるかと考えるも、せっかくの美味しいマカロンを味わうことなく口に放り込むのは些か気が引けた。ましてやこれを食べ終わったらジェラールへの未練を断ち切ろうと勝手に決めたばかりだったのだ。
とはいえ、背に腹はかえられまい。トルテは大切に食べたかったなあ、と思いながら箱に入ったマカロンに手を伸ばす。そして器用に右手と左手にそれぞれひとつずつ持つと、改めて本当に勿体ないと未練がましく右に左に視線を彷徨わせた後、思い切ってふたつとも口の中に纏めて放り込もうとしたその瞬間。背後に歩み寄る足音と投げ掛けられた声に、トルテはマカロンを放り込もうと開けていた大口を思わず閉じた。それもそのはず、その足音も声も聞き間違える筈がない、その人のものだったからだった。
「――――――トルテ……?」
「…………ジェラール……。」
耳を掠め、鼓膜を震わせたのは愛しい人の控えめで柔らかな声だった。トルテはどうして、と頭の中で問答を繰り返しながら恐る恐る振り返る。どうか幻聴であってくれと願いながら真後ろを向いた。するとそこには春の陽射しのようにあたたかく、夏の海のように大きくて、秋の風のように少しだけ控えめで、冬の朝焼けのように心が震えて堪らない、その人が居た。本来ならば居るはずのない、ジェラールが居た。
トルテは歓喜と絶望とが混ざりあった声を震わせながら、彼の名前を呟く。ジェラールはまるで初めて出会った時のように怯えたように見えるトルテの様子に、やはり昨日のあれは不味かったよなあ…と眉を下げては心底昨日の自分のことを恨むと共に軽蔑する。それから自分が此処に居る理由――急遽今日の授業が教師側の都合で休講になってしまったことを口にしては、邪魔ならば直ぐに退散することを伝えようとする。
が、ジェラールはそれを告げるよりも先にトルテの腕に伝う海水が滲んで薄くなった血液と、明らかに出来たばかりの傷を目敏く見つけてしまうと自身が濡れることなど構わずに海食崖の中を進んでいく。複雑な海岸に押し寄せる波がぴちゃりと大きく跳ねては靴やズボンは勿論、シャツまで濡らしていくことさえもなんら気にせずにトルテに歩み寄る。そして彼らしからぬ真っ直ぐな瞳と動きで此方に向かってくるジェラールに、思わず身体が竦んでしまって動けないトルテはあっという間に腕を優しく掴まれる。捕らえられてしまう。拘束される。けれどまるで昨日などなかったかのようにいつもの調子で口元には曖昧な笑みを、そして眉は迷子の犬のように大きく下げながらその唇を開いたジェラールは、相変わらずトルテの好きな優しい口調と表情で告げるのだ。
「――大丈夫?手当て、しないと。」
「……………………。」
「……あ、大丈夫だよ。幾ら僕が駄目駄目な人間だとしても、切り傷を消毒して包帯を巻くくらいはお手の物だから。」
ジェラールは緊張した面持ちのトルテに、どうにも思い描いたような結果を得られない自分に少しだけ呆れながらも、それさえも曖昧な笑いに変えてしまうと優しく微笑む。そうやって何もなかったかのように精一杯強がりつつ振る舞っては、自分の心が壊れないように努める。彼なりに上手く立ち回ろうとする。
けれどそうやって自分を責めるわけでもなく、寧ろ昨日あんなにも散々拒絶した相手に何事もなかったかのように優しさを向けることが出来るジェラールの心の広さだとか、気の弱さだとか。いじらしさだとか、健気さだとかにどうしようもなく今しがた抱いたばかりの決意が揺れるのを感じると、トルテは唇を噛み締めた。代わりに咄嗟に手の中に隠したマカロンをそうっと箱の中に戻すと、瞳を揺らしながら彼を見上げた。上目で見つめたその瞳は、やはり何処までもや優しく柔らかくあたたかな新緑の色をしていた。
「――――ねえ、ジェラール。」
たった半日振りだというのにやけに久しぶりに見遣ったような瞳を見つめながら、トルテは囁く。波の合間に飲まれては溶けて消えてしまうような小さなちいさな声に、一抹の期待を乗せて口を開く。ジェラールはそんなトルテに、早く手当てをしてやらなくてはと急く気持ちを抱えながらもどうしたのかと向き合ってやる。少しだけ首を傾げては、何かを伝えようと細かく震える唇と生成りの色をした瞳を見つめる。
「……あのね。わたし、わたし――。」
そうやってどれくらいの時間が経ったのだろうか。もしかしたら数秒かもしれないし、数分以上経ったのかもしれない。時間の感覚が失われるくらいに静止したふたりだけの世界の中、トルテは何度も口を開いては閉じる。言うな、という理性と言いたい、という本能の間でひたすらに揺れる。そうするうちに幾ら温厚なジェラールといえどもきっと早くしろと怒っているに違いないと感じてしまうと、瞳にじわりと涙を浮かばせる。
しかしトルテの予想とは反対に、ジェラールは腰を屈めると言葉を渋るトルテと目線をしっかりと合わせる。そしてその白い手のひらで誰よりも何よりも優しく彼女の頭を撫でながら嫋やかな笑みを浮かべると、子供相手に窘めるように穏やかな声を吹き込む。「大丈夫だよ。」と。
「言いたいことがあるんだよね?大丈夫。用事があったってなくたって、僕はちゃんと言葉に出来るまで待つよ。だから大丈夫。ゆっくりでいい。――ほら、深呼吸して?」
「………………うん……。」
――嗚呼、本当に何処までも優しくて穏やかで真っ直ぐでかけがえのない人で――それから、ずるい人だとトルテは泣きながら笑う。次いで自分のことのように他人の痛みに寄り添える素晴らしい人の優しさに漬け込むような真似をしようとしている自分のことを、彼とは対象に醜くて仕方がない存在だと嘲笑すると言われた通りに大きく深呼吸をした。けれど一向に収まらない心臓の拍動にいよいよもって本能のままに禁忌へ足を踏み入れようとしている自分に、トルテは固く結ばれた唇と心を解くと理性などという所詮は後付けのそれをかなぐり捨てるかのようにジェラールに抱き着いた。そしてほんの少しの隙間も許さないと言わんばかりにぎゅうぎゅうと力を込めて上半身を寄せると、上目遣いのあざとさと卑怯さを自覚しながら彼の胸の中からその新緑の色をした瞳を見上げた。
「ねえ、ジェラール。」
トルテの当然の行動に、ジェラールは驚きのあまり目を見開く。それから改めて昨日の出来事を振り返っては、果たしてこれは抱き締め返して良いのかを真剣に思案する。が、隙間なくぴったりと寄せられた身体に加えて仄かに熱を孕んだ瞳に見つめられると、ジェラールは恐る恐るではあるものの自分でも驚くくらいごくごく自然に、その狭い背中に腕を回した。控えめに、抱き締め返した。
けれど抱き締め返しておきながらも、どうしてトルテがこのような行動に出たのか訳の分からないジェラールは少々困惑しながら小さな声で彼女の名前を呼んではそれに呼応するようにあまりにも真っ直ぐに、かつ臆することなく自身を見つめてくる甘い色をした瞳に視線を彷徨わせる。どうすれば良いのかが分からずに、ひとり戸惑いを隠せないままトルテを抱き締め続けた。
すると不意に背中に回されていた彼女の細い腕が解かれて、代わりに自分の腕を掴んだものだからジェラールは一体どうしたのだろうと首を傾げる。が、困惑はともかく思考する暇さえ与えられずに、今度はその腕が自分の首元に回されるとジェラールは目を瞬かせた。そして間髪入れずに近付いてくるトルテの顔に、流石の鈍いジェラールといえども目を大きく見開くと反射的にその肩を押して身体を離そうとした。けれど昨日よりもずっと至近で見つめた彼女の顔に乗った切なげな色だとか、そのくせ固い意思を感じさせる色だとかに気がついてしまうと、ジェラールはその華奢な肩を押すのをやめた。否、やめるを得ざれなかった。代わりにその紅色をした、薄い唇から紡がれる言葉に全身を脱力させた。
「我儘だとは分かっているの。いけないことだとも、分かっているの。それでもわたし、あなたに頷いて欲しいのよ。うんって言って欲しくて堪らないのよ。
――ねえ、ジェラール。……わたしのために、何もかも捨ててくれる…?」




