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12話悪魔の呼び声と心の叫び

「これがセレナに事件の話をさせた理由よ。私達がこれから向かうディアボロの滝。ラストが向かいたいと思う場所。そこにいるであろう悪魔。文字に書かれたメッセージ……どうしても無関係だとは思えないのよ」


 セレナの話を聞き終えて、ステラが顎に手をやって告げた。


 「確かに何か裏がありそうですね。でも、もし事件の犯人がそのパーティを狙っているとするなら、そのパーティがディアボロの滝に行かなければ事件は起きないんじゃないですか?」


 ラストはステラに視線を向けて、頭の中で整理した情報での違和感を口にする。


 犯人の目的も意図も不明だが、もしも犯人の標的がそのパーティだとするなら、ディアボロの滝に行きさえしなければ、次はディアボロの滝だ、というメッセージは成立しなくなるはずだ。無差別殺人をしようと言うなら、話は別だが聞く限りでは犯人の標的はそのパーティにありそうだ。


 しかし、これはあくまでも前提の話。その前提がひっくり返る可能性もないとは言い切れない。


 「私達ギルド職員もそう思って、そのパーティに忠告はしました。しかし、相手は冒険者。プライドと好奇心が邪魔をして素直に従ってくれるとは限りませんが……」


 望みは薄いと判断したのか、セレナが頭を抱える。


 「どっかの誰かさんみたいにね。ラスト、今から私がやっぱりディアボロの滝には行かないって言ったら納得する?」


 「……しませんね」


 目の前に大量の金貨が落ちていて、それを拾ってはいけないというのは酷な話だ。ラストの記憶への執着。客観的に見てやめた方がいいと思われるものも、当事者は何故かやめられない。止まらない。一種の中毒に近いものなのかもしれなかった。


 「はあ……まあ、そういうことよ。けど問題はディアボロの滝にいる悪魔のほうなのよね。セレナ、昨日夕食の時にとあるパーティがその悪魔について話してたわ。えっと、ラスト、リーダーの名前なんだっけ?」


 ステラとしてはここで納得して中断して欲しかったのだろう。分かりやすい溜め息を吐いた。しかし、すぐに表情を真面目なものへと切り替えて、話を進める。

 そこでリーダーの名前についてラストに尋ねてきた。

 リーダーという言葉が出ている時点で、何故答えが出ないのか不思議なものだが、ラストはそこには触れず素直に応じる。


 「確かリダとか言ってたような気がします」


 「そうそう、可愛こぶった青髪の女がそんな名前を呼んでたわ。それで、セレナはそのパーティについて何か知ってる?」


 その青髪の女と呼ばれる少女フィリアと知り合ってしまっただけに多少複雑な気持ちになりながらも、ラストはステラの言葉に耳を傾けていた。どうやら、ステラはフィリアのことがあまり好きではないらしい。恐らく、ステラはフィリアと実際に話したわけではないから評価が早すぎるのではないかとも感じるが、女の勘というやつだろうか。


 「リダさんのパーティですね。確かにディアボロの滝に出たという悪魔を仕留めにいくと宣言して一時間程前に出掛けられましたよ。他のギルド職員が対応するところを見ています」


 「あいつらに勝算はあるわけ?」


 「勝算……ですか。悪魔って一般的に言われる悪魔ではなく例の怪物ですよね?ステラさん達ですら倒せなかった怪物を正直彼らが倒せるとは思えません」


 「ステラさん達ですら倒せなかった怪物?」


 淡々と繰り広げられるステラとセレナの会話を大人しく聞いていたラストだったが、ステラから聞いていた話との相違に首を傾げる。悪魔ではなく怪物。ステラ達ですら倒せなかった? ステラが前に組んでいたパーティと関係しているということだろうか。


 「……ったく、セレナ、余計な事まで言わなくていいのよ! てか、それならなんで見送ってんのよ」


 一瞬だけ視線でステラに睨まれる。これ以上踏み込んでくれるなよ、とでも言いたげだ。ラストは踏み止まり再び傍観者に徹する。それからステラはセレナに向き直り、セレナを責める。


 フードの言葉を鵜呑みにするわけではないが、やはりステラが何かを隠していることは間違いなさそうだ。


「すみません、つい……」


「リダさん達に関しては言っても聞かなかったそうです。まあ、まだ正体はバレていませんが、ステラさんの言ったような化け物がこの街の近くにいるとなるといずれ誰かの手によって討伐は必要になってくるでしょう。あそこから動く可能性は低いにしてもいるという事実が知れ渡れば住民を不安にさせます。その為に報酬も高く設定したわけですし」


 セレナは口を滑らせた事実を謝罪した後に、リダ達を見送ったギルドとしての言い分を告げた。


 「はあ、どいつもこいつも。これだから冒険者は。あんたらギルドもギルドよ。私が話しただけでなんでこんなに話が大きくなってんのよ」


 話を聞いても納得のいかない様子でステラは不満をぶつけていく。


 「すみません――」


 もう何度目になるのか分からない謝罪。ここまでくるとセレナが可哀想に思えてくるが、ラストが口を挟んでも状況はややこしくなりそうだ。心の中で、自分の無力に申し訳なさを感じさせつつ、ラストは窓の外を眺める。


 こんな寒い中でも華麗に羽ばたいている鳥の姿が視界に入る。空を羽ばたく自由な鳥。ああ、鳥になりたい。


「それで……行かれるんですか?」


 現実逃避しているラストとは違って、セレナのほうが強い心を持っているようで、今度はセレナからステラへと質問をしているところだった。


 「行くしかないでしょ。ディアボロの滝には魔物もたくさん出るわ。魔物が時間稼ぎをしてくれてる間にラストの武器を揃えてあいつらが最奥に到達する前に連れ戻す。悪いけど討伐はもっと実力のある冒険者が現れるまで無理だから!」


 ステラは人差し指をセレナへと突きつけて、あくまでも連れ戻すだけであり、討伐ではないと念を押す。


 しかし、気になるのはラストの武器を揃えてという部分だ。武器を手に入れたところで、即時戦力になれるとは到底感じられない。それならば、直行したほうがまだ追いつける可能性は高くなる。当然、そうなればステラに魔物は全任せということになってしまうが。


 「もし、到達してしまっていたら?」


 セレナが最悪のケースを想定して、質問する。


 「到達するだけなら問題ないはず。ただ、もしあの怪物が刺激されて姿を現していたなら……」


 ステラは、少しだけ考える素振りを見せて俯き、セレナの顔を見たかと思うと。


 「見捨てる」


 短く冷たい言葉を言い放った。


 「覚醒した今のあなたなら勝てるのでは?」


 そんなステラの言葉に一切の動揺を見せず、セレナは新たな質問をぶつけていく。


 「分からないわ。でも、私にも最優先で守るべき命はある。ラストに危険が及ぶようならすぐに撤退する。冷たい、なんて言わないわよね?」


 どうやら、最優先で守るべき命に既にラストが含まれているようだ。それを嬉しく思うと同時に何故そこまでという疑問も生じる。


 「冷たい人間はそもそも助けに行こうとなんてしませんよ」


 「そういうことだから、ラスト、早く行くわよ。まずはあなたの武器を買いに行くところからね」


 セレナが挑発するように微笑んで、ステラは既に興味無さげにセレナに背中を向けて入口の方に歩きだし、ラストに視線を送ってくる。


 「話が進みすぎて全くついていけてないんですけど、事件の話は?」


 「それはあと!いいから付いてきて!」


 置いてきぼりにされていたラストがやっと出番か、と言うように説明を求めるも、ステラは急いでいるようで後回しにされる。


 「え、あ、はい。えっと、セレナさん、それではまた」


 戸惑いながらも、ステラを追いかけようとして、一度立ち止まり、セレナに対して手を振る。


 「あっ、ラストさん。ちょっと待ってください」


 呼び止めて、セレナがゆっくりとラストに近付いてくる。


 「なんですか?」


 用件が想像も付かずにじっとしていると、突然ラストは頭を撫でられた。優しい手の温もりと微かに香る心地の良い匂い。ラストの思考は情報過多により停止する。


 「え?」


 遅れて、小さな声が漏れる。


 「髪にホコリが付いていました」


 「ホコリの取り方とはまた違うような気がしましたけど……」


 現に、親指と人差し指をつまむ形でセレナは見せてくるも、そこには何も握られていない。


 「ちょっとセレナ!何してんのよ!」


 その様子を見ていたステラが鬼の形相で、迫ってくる。


 「すみません、つい」


 反省の色を見せず、セレナは舌を出してみせる。


 「もう、行くわよ!ラスト」


 その可愛さに見蕩れていると、腕を掴まれて、無理矢理引っ張られる。


 「ちょっとステラさん。自分で歩けますから腕を引っ張らないでください」


 「うるさい!あんたがぼーっとしてるからでしょ」


 「理不尽な八つ当たりですよ、それ」


 バタンと扉が締まり室内は途端に静かになった。ただ、一人セレナだけが残り、深くため息をついた。


 「ほんと――なにやってんだろ……」


 セレナはラストを撫でた手のひらをじっと見つめて、そう呟いた。


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