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壱 始まりと出会い

どうも、作者です。この物語は、ごく普通の少年・林祈が、神話の存在である精衛と出会い、数千年の因縁に巻き込まれていくファンタジー作品です。舞台は現代の西安。日常の中に潜む非日常、そして主人公の中に眠る力。楽しんでいただければ幸いです。

 果てなき宇宙は静寂に包まれていた。

 だが、静寂は無音ではない。ただ音を伝える媒体がないだけで、そこかしこで激しい変化が起こっていた。

 自然の摂理を超えた一点で、「不自然」な事態が発生する。

 一つの光《魂》が意志を持って天体の隙間を飛翔し、もう一つの光が執拗にそれを追う。追う光が放った一撃が、前の光に命中した。弾かれた光は、近くの惑星の引力に囚われて落ちていく。

 その瞬間、落ちていく光は周囲の空間を歪め、小さなブラックホールを生み出した。光はそこへ消えた。追っていた光も、ブラックホールが閉じる直前に飛び込んだ。


 ……


「……ごめんね」

 目の前で、見知らぬ少女がボロボロと泣いている。仰いだ視線の先に、青い空が広がっていた。

 何かをしようとした瞬間、林祈りんきは意識を取り戻した。


 目を開けると、見慣れた自室の天井があった。同時に、目元から一筋の冷たい涙が流れ落ちた。

「何なんだ、今の夢は? あの子は誰だ?」

 どこかで会ったことがあるような、ないような。少女はまるで大昔の衣装を身につけていた。その理由を知りたくて、祈はいつもと違い、ベッドに横になったまま考え込んだ。流れた涙の理由を、彼は知る由もなかった。

「祈! いつまで寝てるの?」

 祈の姉・がんが部屋のドアを叩きながら声を荒げる。

 茶色く染めたロングヘアは緩くウェーブがかかり、二束が胸元まで垂れている。薄手のパジャマ越しにも、その豊かな胸元がわかる。ハイヒールを履いていないのに、身長が170cmを超える長身だ。姉は、その豪快さの中に洗練された美しさを秘めている。

 枕元のスマートフォンを見ると、「07:02」と表示されていた。これまでで一番遅い起床時間だ。

「やべっ!」

 祈は飛び起き、急いで服を着替え始めた。林祈は9月から高校に入学したばかりの普通の高校生だ。冬の訪れは早く、10月に入ってすぐに冬服に衣替えが必要なほど気温が下がっていた。慣れた手つきで、冬服なのに3分足らずで着替え終える。

 階下のリビングでは、願がソファに座ってテレビを見ていた。

「姉さん、今日も仕事?」

 昨夜も遅くに帰宅した姉を思い、祈は少しだけ心配そうな声をかけた。

「ええ、最近忙しいのよ。それより、のんびりしてる場合じゃないでしょ。早く朝ごはん食べなさい。」

 願は営業事務の会社で働いており、両親亡き後、家計を支える大黒柱だ。彼女の力がなければ、林家は成り立たない。

「そっか。いつもお疲れ様。」

 祈が大きなあくびを一つすると、願がじろりと睨んだ。

「昨夜はスマホ弄って徹夜したでしょ。」

「まさか。俺にそういう習慣がないのは知ってるだろ。」

 祈は確かに徹夜の習慣はない。昨夜は早く寝たはずだった。


「でも徹夜は体に悪いから、ほどほどにしてよ。」

「だから徹夜していないってつの!」

 祈は食卓につき、慌ただしく朝食をかき込んだ。普段はもっと姉と軽口を叩き合うのだが、今朝は夢の残像が頭から離れず、どうにも落ち着かない。

「ごちそうさま!」

「はい、いってらっしゃい。忘れ物ない?」

「大丈夫!」

 祈は玄関でローファーに足を滑り込ませ、家を飛び出した。

 冷たい外の空気が肺を満たし、少しだけ頭が冴える。家から学校までは徒歩で十分少々。いつもなら音楽を聴きながら歩く道のりだが、今日はスマートフォンをポケットに入れたまま、空を見上げていた。

(あの夢は、いったい何だったんだ……)

 空は、夢で見た少女が見上げていた青空と同じ色をしていた。「ごめんね」と泣いていた少女。古い時代の衣装。そして、目覚めたときに流れていた涙。

「まあ、単なる疲労からくる変な夢か」

 祈は小さく息を吐き、思考を振り払うように頭を振った。

 その時、ふと、強い視線を感じて立ち止まった。

 周囲を見渡す。通い慣れた道。周囲の家々や街路樹は、ごくありふれた現代の西安の風景だ。登校中の学生や出勤する社会人が行き交う中、特に不審な人物は見当たらない。

(気のせいか……?)

 だが、違和感は消えない。まるで、見えない天秤が傾き始めているような、不安定な感覚。

 林祈は、自分のこの感覚をよく知っていた。

 あれは中学二年の冬だった。両親と一緒に乗っていた乗用車が大型トラックに衝突された。即死だった両親を前に、後部座席で眠りこけていた自分と、奇跡的に軽傷で済んだ姉だけが生き残った。

 それだけではない。小学六年の時の記念旅行。乗っていたバスが崖から転落した際、生き残ったのは彼一人だけだった。

(また、何か悪いことが起こる前触れじゃなければいいけど……)

 祈は無意識に、ポケットの中で握りしめた拳に力を込めた。両親や友人たちを失った悲しみよりも、「なぜ自分だけが」という拭い去れない罪悪感と恐怖が、彼の心の奥底には常に渦巻いている。自分の周りの人間に不幸が及ぶことだけは、もう二度と避けたかった。

 結局、その視線の主を見つけることはできず、頭の片隅に不穏な違和感を残したまま、祈は校門をくぐった。いつもの日常が、わずかにいつもと違う色を帯びて見えた。


 私立未央宮学園の校門を出ると、乾いた大気と土埃の混じった夕暮れの空気が肌を撫でた。夕日はすでに古都の地平線に沈みかけ、街灯がポツポツと灯り始めている。

 祈は、先ほどの落ちこぼれクラスでの退屈な授業内容を思い出し、小さくため息をついた。周囲の生徒たちが談笑しながら帰路につく中、彼の心には幼い頃からまとわりつく奇妙な孤独感と、不運を呼び寄せる自分への疑念が影を落としていた。

 いつもの癖で、人気のない裏通りへと足を踏み入れたその時だった。

「……っ」

 頭上の夕闇から、何かが落ちてきた。反射的に両手を差し出すと、ずしりとした重みと、温かい体温が掌に乗る。

 見れば、それは一羽の鳥だった。カラスほどの大きさだが、頭には複雑な模様が走り、くちばしは雪のように白い。その特徴的な赤い足の一部が血に濡れ、小さく痙攣している。

 見たことのない鳥だった。図鑑で見たどの鳥とも違う、あまりにも鮮やかで、異様な色彩。この世間にいるような鳥ではない、と直感した。

 祈がその傷ついた命を見つめた、ほんの数秒後。背後から、血の匂いを塗り替えるような、異質な殺気が迫った。

「私を離して、早く逃げて……」

 祈は、鳥が話したことに驚きを隠せない。

「鳥が、喋った?」

「逃げないと、危ない……」

 鳥の息は既に絶え絶えだったが、必死で祈を逃がそうとしているのが伝わってきた。

「その鳥を渡してくれないか、坊や」

 猟銃を構え、笠を深く被った男が、祈の前に音もなく現れた。

「あなたは、誰ですか?」

 男が持っている猟銃を見て、祈は咄嗟に警戒した。

「俺が誰かなんてどうでもいい。その鳥を渡してくれれば、それでいい」

「正体が分からない人に、この鳥を渡すわけにはいきません」

 祈は、傷ついた鳥を渡すことをためらった。

「聞いて……渡して……逃げて……」

 鳥は再び、彼に逃げるよう促す。

「いいえ。そんな訳の分からない男に、渡せるはずがない」

「しつこい坊主だな。ならば……」

 男は銃口を祈の頭に向けた。

「渡さなきゃ、この銃でどうなるか分からないぞ!」

(馬鹿……何で、そこまで私を守るの?)

 鳥はもう声を発する力もなく、ただ心の中でそう思った。

「僕を脅してるつもりですか?」

「脅しじゃねえ。本気マジでやるさ!」

「ならば、撃てばいい! この辺りは、すぐに警察が駆けつけてくる。あなたも逃げられませんよ!」

 どこから湧き上がってきたのか分からない勇気を振り絞り、祈は男に食ってかかった。

「警察? 人間のあれか? ハハハ、そんな連中が俺に何ができる? 俺が誰だと思ってるんだ、坊や?」

 男は不気味に笑った。

(人間の? こいつ、何を言ってるんだ?)

 祈は、この男が普通ではないと直感した。それでも、簡単に引き下がるわけにはいかない。男が虚勢を張っているだけだと信じたい気持ちと、自分の勘を信じて、祈は言い放った。

「なら、撃ってみろ!」

「度胸だけは褒めてやる。だが、その哀れな度胸がお前を死なせるぞ!」

 男は、祈に向かって威嚇するように手に持った何かを投げつけた。


 大きな銃声が響いた。

「ぐっ……!」

 弾が地面に落ち、数回跳ねて止まる。発砲したのは男のはずだったが、突然背を曲げて腹部を押さえ、傷口を塞ぐことしかできないのは、皮肉にもその男の方だった。

「馬鹿な! 何が起こった!?」

 男が撃ち放ったはずの弾丸は、祈に当たる直前、彼を包み込んでいた空気の障壁のようなものに弾き返され、男自身を撃ち抜いたようだった。

 祈は鳥を右手に乗せたまま、左手を前へ伸ばし、掌を男に向けて開いていた。いつもの黒い瞳は、今や鈍い赤色の光を放っている。

「お前は何者だ! まさか……覚えていろ、必ず戻ってお前を始末する!」

 男はそう吐き捨てると、空間にぽっかりと開いたブラックホールのような歪みの中へと消えていった。

 男の姿が完全に消えた瞬間、祈は我に返った。赤く輝いていた瞳の色も、いつもの黒に戻る。

「助かった、のか?」

 今の出来事が夢であってほしいと思うが、掌に残る鳥の温もりと、先ほどの銃声が、それが現実だと訴えてくる。

「君は、何……?」

 鳥は言いかけたところで、意識を失ってしまった。

「大丈夫か? しっかりしろ!」

 鳥はすでに生死の境目を彷徨っていた。


 宇宙空間を、鳥は必死に逃げている。だが、狩人の弾丸の方が速かった——。

 撃たれた瞬間、鳥ははっと目覚めた。

 朦朧とした視界が捉えたのは、柔らかいガーゼでできた布団だった。周りを見渡すと、どうやら知らない誰かの部屋にいるらしい。

 自分の体を確認する。血の滲んだ包帯が丁寧に、それでいてきつくない程度に巻かれている。

「私……生きているの?」

 その事実を確かめ、安堵の息をついた。

(あいつは本当に馬鹿だな。あそこまで私を庇って)

 気絶する前の記憶が蘇る。そう呟きながらも、彼女の心は密かに喜んでいた。

 鳥は自身の傷を確認する。すでに血は止まっていた。口で包帯を解き、体が淡い光に包まれる。光が晴れた時、そこには少女の姿があった。

 光の中から現れたのは、透き通るような肌を持つ少女だった。

 15歳ぐらいと思われる幼い顔の彼女は細身で、まるでガラス細工のように儚げな雰囲気を持つが、そのスレンダーな体型は、鍛えられているというよりは、天性のしなやかさを感じさせた。

 長く豊かな黒髪は、頭頂部に向かって複雑な模様を描くように色が薄れ、まるで夜空の星雲のようだ。意志の強そうな白いくちばしを思わせる唇と、伝承通りの鮮烈な赤い瞳が印象的だった。雪のように白い肌と燃えるような赤い瞳の対比は、人間にはない、神々しいまでの異質さをそこはかとなく漂わせている。


「やっぱり人間の姿の方が動きやすいな」

 少女は、光と共に現れた自身の衣服を整えながら、肩の傷を確認していた。

 ドアが開いたのは、ちょうどその時だった。

「怪我してるだろうから、何か柔らかいものを……」

 祈は盆に乗せた食事を持って部屋に入ってきたが、中にいる見知らぬ少女を見て硬直した。手に持っていた茶碗が床に落ち、鈍い音を立てる。

「あ、あなたは……!?」

 祈の動揺した声が部屋に響く。少女もまた、突然入ってきた祈に目を見開いた。

 祈は混乱しながらも、床に落ちた茶碗と、盆に残った鳥の餌に目を落とす。そして、目の前の少女の白いくちばしを思わせる唇と、鮮烈な赤い瞳に、先ほどの鳥の特徴を重ね合わせた。

「……まず、私を救ってくれたことに感謝します。私は、あなたが救った鳥です」

 少女は、毅然とした態度で答えた。その声は、確かにあの鳥のものだった。

「は?」

 祈は呆然とした。

「やっぱり、信じてくれないですよね」

 少女――精衛は、少し困ったように視線を落とす。

「信じるかどうかというか、信じがたいだけですよ。でも、男が銃を撃ったのに傷一つないどころか、目の前から消えた一連の状況を見た後じゃ……信じたくなくても、信じるしかないというか」

 昨日までの常識が音を立てて崩れていく感覚に襲われながらも、祈は目の前の現実を受け入れようとしていた。

「そうですね。私も、こう言うしかありません」

 精衛は改めて、深く頭を下げた。流れるような、古風で丁寧な言葉遣い。

「それで、名前は? さすがに名前を知らないと呼びづらいですよ」

 祈が問いかけると、精衛は顔を上げた。

精衛せいえいと申します。女媧じょか様の使者です」

「えっ!?」

 祈は驚愕した。「精衛」も「女媧」も、古代中国の神話でしか聞いたことのない名前だ。

「待て待て、ちょっと頭が固まりそうです。それって全部、神話に出てくる名前じゃないですか?」

「そうです。女媧様は『上神』ですよ。何か違っていますか?」

 精衛は不思議そうに小首を傾げる。

「いや、つまり……君は、神様なんですか?」

 祈は自分の耳を疑った。

「いいえ、私はまだ神ではありません。ただの『精』です」

「精?」

「そうです。天界の階級によると、神は一番上の存在、次は仙、仙の下は精。つまり、私みたいな存在です」

「そうですか……」

 祈は、頭の中がファンタジー設定で埋め尽くされながらも、とりあえず納得したように答えた。

 精衛は、そんな祈の様子を見て、少し立場を縮めようと試みる。

「ですから、そんなに緊張しなくてもいいですよ。私はそんなに偉い者じゃないですから」

「いやいや、そういう問題じゃないです! いきなりこんなファンタジーな話をされても、理解が追いつかないですよ!」

 祈は、ようやく我に返り、精衛に向かって叫んだ。非日常は、まだ始まったばかりだ。


 やはり、この状況に直面すれば誰でもこうなるだろう。ましてや、今まで普通に学校に通っていた生徒である林祈なら、なおさらだ。

「とりあえず、あなたは私、精衛を救ってくれた恩人です。しばらくの間、厄介になりたいのですが、もちろん、ただというわけにはいきません。恩返しもさせてください」

 祈は、一生懸命精衛の話を理解しようとしていた。もし彼女の話が本当なら、自分は既にとんでもない事態に巻き込まれている。彼が一番納得できないのは、「神が本当にいる」という事実だった。どう考えても、頭では理解しきれない。

 だが、精衛が何者かに狙われているのは事実だ。あの男の殺気は本物だった。どうしたって、彼女を見過ごすことはできない。

「分かりました。とりあえず、精衛さんはここで傷を治してください。詳しい話は、それからです」

「はい。やっぱり、あなたは優しいですね」

 精衛の素直な言葉に、祈は少し照れたように首を振る。

「優しいとかじゃないです。誰だって、こんな状況を見過ごしたりはできないでしょう」

 祈は、自分の行動が特別なことではないと強調した。

「それより、お腹が空いたでしょう? 食事を用意しますから、ちゃんと休んでいてください」

 祈はそう言って部屋を出て、改めて精衛のための食事を用意しに階段を降りていった。

「……この方に救われて、本当に良かった」

 祈が離れた後、精衛は安堵の息を吐き、静かに呟いた。


 ご飯を食べた精衛は、少し元気が戻ってきたようだった。

「精衛さんを守るって言っても、これからどうすればいいか分からないんです。あの男、また来るって言ってましたよね」

 祈は、男が残した言葉を思い出し、深い危機感を抱いていた。

「大丈夫です。もしあなたに危害が及ぶようなことになったら、その時は私をあの男に渡せばいい」

 精衛は、もし男が戻るまでに傷が治らなければ、自分を差し出す覚悟を決めていた。恩人を危険に晒すわけにはいかない。

「そんなこと、できないって言ったでしょう。その話に乗ったら、どうにもならないですよ」

 昨晩は訳が分からないながらも、何とかあの男を撃退できた。それが単なる偶然ではないと、祈は直感していた。

「本当に、あなたは頼もしいですね」

 精衛は、目の前の少年の心強さに感心する。

「いや、頼れるかどうか分からないけど……何か、そうしろって勝手に行動させられた気がするんです」

 祈は、今まで経験したことのない衝動に、戸惑いを覚えていた。


「そういえば、君の名前はまだ教えてくれなかったですね」

「ああ、僕は林祈っていうんです。精衛さんが天界の者なら、僕にそんな謙遜な言葉遣いしなくていいですよ」

 祈は、精衛が自分に敬語を使うことを不自然に感じていた。

「じゃあ、祈も私にタメ口で話しなさいよ。私もいつもこんなの堅苦しいの。身分の関係なく、祈は私の命の恩人なんだから」

 精衛は、祈ともっと仲良くなりたいと思った。

「わ、分かった。では改めて、よろしくな、精衛」

「よろしく、祈」


「ところで、あれは何者?何で精衛さんを狙ってるの?」

 祈は肝心な本題を精衛に聞き出した。

「実は、あいつは『神狩り』という組織の組員だ。この組織はいつか出来たのはわからないが、私たち天界は既に四千年以上奴らと戦っていた。」

「四千年?ずいぶん昔じゃないか?」

 祈は時間の長さに驚いた。

「そう、そして、この組織は全宇宙の神をターゲットにして、次々と抹殺しようとしている。私は女媧様の神託を持って、途中であいつらと遭遇して、狙われた。一応一生懸命逃げたが、私は罠に嵌められて、やがてやられてしまった。」

 精衛は自分の状況を説明した。

「となると、女媧様の神託もあいつらに関わるということだな。」

 祈は自分の推察を言った。

「察しがいいな、祈さんは。」

 精衛は直ぐ祈を褒めた。

「いや、何か直感でそうではないかと。」

 祈がまさか的中したことにも困惑した。

「正直言うと、神託は助太刀をくれる者を探すと。」

 精衛は自分の任務を祈に打ち明けた。

「ええ…。何かいい加減な感じがしている任務だな。」

 祈は神託がまさかこんなに目標のなさに一瞬引いた。

「しょうがないじゃないか。女媧様も予知能力を持っておらず、こんなことは既に女媧様ができる最善策だから、貶さないでください!」

 精衛は尊敬する女媧様に不敬なことを許せない。

「ごめん、貶す気はないんだけど、精衛さんが危険な目にまでさせたことに考慮が不足だと思うだけ。」

 祈は誤解されたことを弁明した。

「だとしても、これが女媧様のせいではない。私が気をつけなかったから。」

 精衛はやはり女媧様を敬愛している。

「ごめん、女媧様が精衛さんにとって大切な方だと知らずに。」

 祈はこれを察して、精衛に謝った。

「もういいよ、私もちょっと落ち着いてなかったから。」


「それにしても、その人はどうやって探すの?心当たりはあったのか?」

 話に戻ると、祈は精衛に聞いた。

「分からない。でも、逆に祈に気になることがある。」

「僕に?」

「うん、祈さんはあの男を撃退したでしょう?どうやってできたの?」

 精衛は気絶する前、祈が男に反撃したことをはっきり覚えている。

「僕が?」

 祈は全然覚えていない。気づいたら、男が目の前から消えただけだった。

「やっぱり覚えてないね。」

 精衛は自分の考えを言い始めた、

「もしかしたら、祈さんの中に、祈さんさえ知らない力が眠ってるかもしれない。あの時、祈さんは別人みたいな人格が出て、普通の人間では、使えるはずもない技で、あの男を痛い目に遭わせた。」

「そういうことなの?あの時確か一時の意識がなかったが、そんなことできないよ。」

 祈にとっては、やはり信じがたいことなのだ。

「信じられないのは分かるが、それが事実なんだ。でも、私のことも、あの男のことも、君はもう、普通に考えちゃダメなんだよ。もしかしたら、そもそも祈さんが普通の人間ではないかもしれない。」

 精衛は祈を信じさせようと説明した。

「そう…だな。今までの人生も普通の人間にはありえないことだと自覚している。」

 祈は自分が忘却したい過去に直面する、

「周りの人に呼びかけるなんて、ありえないことだ。やっぱり僕の今までの不幸は何か原因がある。考えたら、不自然な点が多すぎるから。」

「祈さんはこの力の正体が分かる前に、使わない方がいいと思う。私はできる限り戦えるように回復して、祈さんのことも色々調べる。」

 精衛は今後のことを考えて、祈に話す。

「得体が分からない力を使わないに分かるが、もしあいつや仲間たちが来たら、どうやって戦うの?」

 祈はこのことを心配している。

「そうね…。」

 精衛は考えたら、

「じゃあ、私と契約してみる?」

「契約?」

 祈は全然理解できない。

「とりあえず、私が言うことに聞いて。」


「それにしても、その『助太刀』は、どうやって探すんだ? 心当たりはあったのか?」

 話は戻り、祈は精衛に尋ねる。

「分からない。でも、逆に祈に気になることがある」

「僕に?」

「うん。祈はあの男を撃退したでしょう? どうやってできたの?」

 精衛は気絶する直前、祈が男に反撃したことをはっきりと覚えていた。

「僕が?」

 祈は全く記憶にない。気づいた時には、男が目の前から消えていたのだ。

「やっぱり覚えてないね」

 精衛は考えを話し始めた。

「もしかしたら、祈の中には、祈自身さえ知らない力が眠っているのかもしれない。あの時、祈はまるで別人格が出てきたみたいだった。普通の人間では使えるはずもない技で、あの男を痛い目に遭わせたんだ」

「そういうことなのか? 確かに一瞬意識がなかったけど、そんな力、使えるわけないよ」

 祈にとっては、やはり信じがたい話だ。

「信じられないのは分かる。でも、それが事実なんだ。私のことも、あの男のことも、もう『普通』に考えちゃダメなんだよ。もしかしたら、そもそも祈が普通の人間ではないのかもしれない」

 精衛は、祈に現実を受け入れさせようとする。

「そう……だな」

 祈は、忘れようとしていた過去に直面する。

「今までの人生も、普通の人間にはありえないことだった。周りの人が不慮の死を遂げることが多すぎて、自分が不幸を呼び寄せているんじゃないかって……考えたら、不自然な点が多すぎる」

「祈は、その力の正体が分かる前に、使わない方がいいと思う。私はできる限り戦えるように回復して、祈のことも色々調べる」

 精衛は今後のことを考えて、祈に話す。

「得体が知れない力を使わないのは分かるけど、もしあいつらの仲間が来たら、どうやって戦うんだ?」

 祈はそれが心配だった。

「そうね……」精衛は少し考えた。「じゃあ、私と契約してみる?」

「契約?」

 祈にはその言葉の意味が全く理解できない。

「とりあえず、私が言うことを聞いて」


 精衛は部屋の床の真ん中に何かを描き始めた。

「精衛、これは?」

 祈は、目の前に水性ペンで書かれた魔法陣模様の図様を見ながら尋ねた。

「これは術陣じゅつじん。神通力を集中させ、術の使い方を決める補助具よ。術陣があれば、術を確実に成功させることができる」

 精衛は祈に説明する。

「契約ができれば、お互い助け合える。まあ、少なくとも私が祈を助けるつもりだけどね」

「精衛が天界の人間だと言っても女の子だし、しかも怪我してるんだ。守られるだけなんてできない。この契約でお互い助け合えるなら、僕が何と言われようと、精衛を守るんだ」

 祈は改めて自分の決意を固めた。

「ありがとう。やっぱり祈といると心強い」

「よし、これで完成」

 精衛は術陣を描き終え、中に入って祈を誘う。

「祈も中に入って」

 祈が術陣に入ってから、精衛は呪文を唱え始めた。

「天火懲覇、万悪尽燃。炎帝の娘の名において、わらわが今、封印を解除し、真の力を呼び覚ます。なんじ、名を乗れ!」

 床に書かれた術陣が光り始める。

「あっ、林祈です!」

 祈は慌てて自分の名前を叫んだ。

「妾精衛、今爾林祈と、契約の成立を誓い合う!」

 精衛は右手を上げ、祈も示された意思を理解し、左手を上げた。二人の手が合わさる。祈は左手中指が熱くなり、光る指輪が浮かび上がるのを見た。向こうの精衛も、右手の中指に同じ指輪が現れている。

「これをもって懲悪揚善、悪と闇に天罰を下す! 妾は林祈と誓う」

 精衛は続けて呪文を唱えた。

 光は一層輝き、目が開けられないほど強くなる。次の瞬間、術陣も光も一瞬で消え去り、二人の指に残った指輪だけが、その証として残った。指輪の光も次第に消えていく。

「これで契約が完了。もし危険に晒されたら、私の名前を唱えれば、すぐ祈の側に転移できるのよ」

 精衛が説明する。

「逆に、精衛も僕を呼べるよな?」

 お互いに助け合えると言ったのだから、逆も可能だと祈は思った。

「うん、ありがとう」

 精衛は祈の気遣いを受け止めた。


「ところで、その服、どうするんだ?」

 契約が完了し、一段落ついたところで、祈は精衛の衣装に目を向けた。精衛が身につけているのは、先ほどの戦闘で一部が破れているものの、古風で洗練された装束だった。鮮やかな赤色がメインイメージで、動きやすさを考慮して裾が短く仕立てられている。

 目の前の華やかな服を着た美少女《精衛》を見て、祈は思わず見惚れた。

「……綺麗な服だな」

「あ、ありがとう」

 素直に褒められた精衛は、また少し照れてしまった。

「でも、精衛はその服、どこから出したんだ? 荷物なんて全然見てないぞ」

「ああ、それはね、術で変えたの。『召喚』みたいな感じかしら」

 精衛の説明に、祈は感心する。

「便利だな……」

 だが、すぐに現実的な問題に気づいた。

「いや、しかし、その服で外には出られないだろ。目立つし、もう冬で寒いし」

「そうかも……」

 精衛も、この世界の常識までは把握していなかったようだ。

「私、元々不本意でここに来たから、何も用意してなかったの」

「じゃあ、明日の放課後、僕が服を買いに行こう」

「いいの?」

 精衛が驚いて尋ねる。

「いいよ。気にしなくていい」

 祈は当然のように頷いた。


 翌朝、祈はいつも通りの時間に目覚めた。

 祈は、床に敷いた布団を巻いて押し入れに戻す。部屋の鍵もしっかりとかけた。もし姉の願に見つかったら、どんな大騒ぎになるか。想像するだけでも怖くなった。

 一階に降りると、願はいつものように朝のニュースを見ている。

「おはよう、姉さん」

 祈は先に挨拶をした。

「おお、おはよう。朝ご飯は電子レンジで温めたらいいよ」

 願は開放式キッチンを指しながら言う。

 祈は言われた通りに朝ご飯を温めた。

「参ったな。先日買った株がなかなか伸びないな。一旦売ろうかな」

 願は22歳と若いが、既に富裕層に数えられるほど有能なビジネスパーソンだ。かつてマスコミは彼女を『ビジネスの天才美少女』と呼んだこともある。2年前、この別荘地を買い求め、祈と二人で住み始めた。彼女の敏感な商人としての直感はいつも的を射ており、株で資産を増やし、会社でも常に建設的なアドバイスで売り上げに貢献していた。

「いいえ、もしかしたら、これから増えるかもよ」

 祈にはビジネスの才能はないが、意外と直感が強い。願はそれを戯言ざれごとと思わず、いつも真に受けてくれるのだ。

「祈がそう言うなら、一旦持っておこう」

 食卓で、願は祈の顔をじっと見つめている。

「ねえ、祈」

 願は急に祈に声をかけた。

「えっ、な、何?」

「いっそ、姉ちゃんと一緒に商売をやろうよ」

「けほけほっ! 何言ってるの? 僕はビジネスなんて全然理解できないって言ったろ」

 突然の提案に、祈はびっくりさせられた。

「平気平気。姉ちゃんが優しく教えてあげるから」

「いいよ。いずれ姉さんが結婚したら、僕は邪魔になる。その提案は将来の旦那さんとしてあげて」

 祈は、今後災厄が降りかかるかもしれないと考え、願を巻き込みたくなかった。

「へえ、しょんぼり」

 願は分かりやすくしょんぼりする。

「まあ、僕のことはいい。姉さんは幸せになればいいよ」

 食事が終わり、祈はリュックを背負い、学校へと向かった。


 放課後、祈はすぐに学校を出て、大型ショッピングモールへと直行した。精衛の服が目立ちすぎるため連れて行けず、一人で買いに来たのだ。

 婦人服売り場で、祈は精衛に似合いそうな服を選ぶのに四苦八苦していた。精衛のサイズも雰囲気も、昨晩見たばかりで曖昧だ。

「あの……何かお探しですか? クリスマスも近いので、プレゼントでしょうか?」

 女性店員が、少し頬を赤らめながら話しかけてきた。祈の様子を、彼女へのプレゼント選びに悩む男子高校生と勘違いしたようだ。

「え、いや……」

 祈は慌てて否定しようとしたが、余計な詮索をされるよりもこの誤解に乗ってしまった方が楽だと判断した。

「……はい、まあ」

 祈が恥ずかしながらも曖昧に肯定すると、店員は「素敵ですね!」と笑顔で、精衛の雰囲気に合いそうな服(古風で赤色がメインという設定を伝えてもいいかもしれません)を次々と提案し始めた。

 最終的に、落ち着いた色合いの、目立たない冬服を数着購入した。店員に見送られ、ショッピングモールを出る頃には、祈はどっと疲れていた。


 タクシーで帰宅し、玄関のドアを開ける。両手には、女性物の洋服が入った大きな紙袋が何枚も下がっていた。

 リビングからはテレビのニュースの音が聞こえる。姉の願は、開放式キッチンで夕食の準備をしていた。

「ただいま、姉さん」

「おかえりー、祈。早かったね」

 願は振り返って挨拶をしたが、祈の両手の荷物を見て、ぴたりと動きを止めた。その視線が、紙袋から祈の顔、そしてまた紙袋へと往復する。

「……それ、何?」

 願の目が鋭くなる。ビジネスで培われた鋭い観察眼が、弟の異常な行動を見逃さなかった。

「あ、いや、これは……」

 祈は言葉に詰まる。

「女性ものの服……しかも、大量。まさか、祈……彼女ができたの!?」

 願は、驚きと少しの羨望が混じった表情で詰め寄る。

「ち、違うよ! 頼まれものっていうか……」

「頼まれもの? 誰に? 私に秘密の友達でもいたっけ?」

 願は、にやにやしながら問い詰める。祈は、精衛のことを話すわけにもいかず、しどろもどろになる。

「い、いいから! とりあえず、部屋に戻るよ!」

 祈は赤面しながら、階段を駆け上がろうとした。

「ええ〜! ケチ! 姉ちゃんにも見せてよ〜!」

 願の陽気な声が背中を追う。


 祈は冷や汗をかきながら、自室へと逃げ込んだ。

 鍵を閉め、大きな紙袋を床に置く。

「精衛、買ってきたよ」

 ベッドに座っていた精衛は、嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ありがとう、祈!」

 精衛は紙袋の中を覗き込み、目を輝かせる。

「とりあえず、着替え方は分かるか? 全部ハンガーにかけておくよ」

 祈は、購入した服をクローゼットにかけながら、簡単な着方を説明する。

「あのさ……さすがに、下着を買うのは僕にはハードルが高すぎて」

 祈は顔を赤くしながら、精衛から視線を逸らした。

「だから、機会があれば、精衛を連れて直接自分で選んだ方がいいと思ったんだ」

「……そうか。ありがとう、祈。そこまで考えてくれて」

 精衛は、祈の照れた様子に微笑みながら、彼の心遣いを素直に受け止めた。

「じゃあ、着替える時は、ドアの鍵、今朝教えたみたいにちゃんと閉めてくれよ。僕は外で待ってるから」

「分かった」

 祈はそそくさと部屋を出て、廊下で待機する。


 数分後、カチャリと鍵が開く音がして、ドアが静かに開いた。

「……」

 祈は思わず息を呑んだ。

 そこに立っていたのは、古風な装束を身につけた神秘的な精衛ではない。落ち着いた冬服を着こなし、現代的な美少女へと変貌した精衛だった。その衝撃は、「馬子にも衣装」という言葉を体現していた。古典的な美しさと現代的な可愛らしさが見事に融合している。祈は、その姿から目が離せなかった。

「どうかな、祈?」

 精衛が少しはにかんで尋ねる。

「あ、ああ……すごく、似合ってる」

 祈が褒めようとした、その瞬間だった。

「祈〜、やっぱり隠し事なんてできないんだから、白状しなさいよ〜!」

 願の声がして、廊下の角から願がひょっこり顔を出す。祈が鍵を閉めたことと、女性服のことが気になって、こっそり様子を見に来たのだ。

 願の視線が、祈の隣に立つ、見知らぬ美少女《精衛》の姿を捉える。

 祈、精衛、願。三人の視線が交錯した。

「あっ」

「あっ」

「あっ」

第一話をお読みいただきありがとうございました。祈の中に現れた裏人格、いかがでしたでしょうか? 物語はまだ序章です。謎の「神狩り」の存在、そして祈と精衛の関係性が今後どう発展していくのか、ご期待ください。ブックマークや感想など、励みになりますのでぜひよろしくお願いいたします。

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