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銀色の脅威 2

 その日のお昼。

 4時間目の授業がおわると、ミソラはナナと一緒に中庭へむかった。

 きょうはここで池の噴水を見ながら、ふたりでお弁当を食べるのだ。

「へぇ~、シドっちって、お相撲好きなんだ」

「うん。毎日テレビのまえであぐらかいて、のどあめ舐めながら観てるんだよ」

「あはは。なんか、おじいさんみたい」

「ちなみにヒビキヤマっていう力士が好きなんだって」

()しの力士がいるんだ。じゃあ、これがほんとの『()相撲(すもう)さん』だね」

 そんなことを話していると、中庭についた。

「ところで、ナナちゃん」

「なに?」

「さっきから気になってるんだけど」

「うんうん」

「ナナちゃんのお弁当どこ?」

「あ……」

 どうやらナナは自分がお弁当をもっていないことに気づいていなかったらしい。

「あー! どうしよう、教室にわすれてきちゃった。そらみん、ベンチの確保おねがい。わたし、お弁当取りに行ってくるね」

 池に行くと、すでにベンチに女の子がすわっていた。

 それはミソラとおなじクラスの(たき)アサミだった。

 アサミはめがねをかけたおとなしい子で、クラスでは図書委員をつとめている。

 彼女とは何度か話したこともあるし、むこうも「ミソラちゃん」と名前で呼んでくれるので、クラスメイトのなかでは話しやすい子……なのだが、人との会話が苦手なミソラは自分から話しかけることができないでいた。

「ミソラちゃん、よかったら一緒にお弁当食べようよ」

 ミソラがこまっていると、アサミのほうから話しかけてくれた。

「え……いいんですか?」

「もちろん。こっちにきて一緒に食べよ」

「ええと、それじゃあ失礼します」

 ミソラはアサミのとなりにすわった。

「ミソラちゃんも、よくここでお弁当食べるの?」

「わたしはあんまり……。ナナちゃんがよくくるみたいで」

「そういえば、まえにナナちゃんがここでサンカヤー・ファクトーンを食べてるの見たことあるよ」

「サンカ……なんですか、それ?」

「タネをくりぬいたかぼちゃにココナッツミルクプリンを入れたお菓子だって。気になって()いたら、ナナちゃんが教えてくれたの。お弁当がプリンって独創的だよね」

「でも、なんだか、ナナちゃんらしい」

 そのあとも、ふたりはたわいもないことを話しあった。

 ふたりの距離がすこし近づいたとき、アサミのスマートフォンがなった。

 ミソラのかようコトノハ中学校では、お昼休みと放課後だけ、生徒はスマートフォンを使うことが許されているのだ。

「あ、お母さんから電話だ」

 アサミが電話に出ると、

「アサミ、やった! やったわよ!」

 スマホのスピーカーから、うれしそうな声が聞こえてきた。

「お母さん、そんな大声出してどうしたの? なにかあったの?」

「あるにきまってるじゃない。合格したのよ」

「なにが?」

「『キミトリンク』っていう、あたらしいアイドルグループのオーディション。あれにアサミの履歴書をおくっといたの。そしたら、さっき合格通知の書類が家にとどいたのよ」

「はぁ?」

「来月に2次審査があるんだけど、それに参加してくれって。ぜんぶで5つの審査があるんだけど、それに合格したら、アサミはアイドルになれるのよ」

「ちょ、ちょっとまって。お母さん、なんで勝手に履歴書なんかおくったの?」

「だって、あなたいつもいってるじゃない。『いつか、ぜったいアイドルになるんだ』って。アイドルになるのが、あなたの夢なんでしょ」

「それは、そうだけど――」

「夢をかなえられるチャンスをつかんだんだから、よかったじゃない。そんなわけだから2次審査がんばってね」

 アサミのお母さんが一方的に電話を切ったようだ。

 アサミはしばらくスマホの画面を見ていたが、

「聞いてた?」

「うん」

「お母さんの声、おおきかったもんね。聞かれてとうぜんか」

「アサミちゃんの夢って、アイドルになることなの?」

「うん。ちいさいときから、わたし、ずっとアイドルになりたくて、歌とかダンスとか家で練習してるの。でも、いくら練習してもぜんぜん上達しなくて……あはは、わたしみたいなダメ人間がアイドルなんてなれるわけないよね」

「アサミちゃん?」

 あれ? これって、どこかで……。

「あ……」

 そうだ、思いだした。

 いまのアサミは今朝のミソラとおなじなのだ。

 自分で自分を傷つけるアサミが、ミソラには、

「こんなダメ人間が声優(せいゆう)になれるわけないよね」

 そういった、あのときの自分と重なって見えた。

「歌もダンスも上達しないし、見た目だって、ぜんぜんかわいくない。そんなわたしが夢をかなえられるわけ……うう」

 不意にアサミが胸をおさえた。

「アサミちゃん、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶ、すこし胸が苦しいだけ。ちょっと保健室に行ってくる」

「肩貸すよ。一緒に行こ」

「だいじょうぶ、ひとりで行ける」

「ひとりじゃムリだよ。わたしも一緒に――」

「だいじょうぶって、いってるでしょ!」

 不意にアサミがミソラをつきとばした。

 いったい、アサミのどこにそんな力があったのだろう。

 すさまじい衝撃を受けて、ミソラは背中から地面にたおれてしまった。

「ご、ごめんなさい!」

 アサミは逃げるようにして、その場を立ち去った。

 

 *  *  *  *  *


 アサミのすがたが校舎のかげにかくれると、入れ替わるようにしてナナが中庭にやってきた。

「そらみん、おまたせ~って、なんでたおれてるの?」

「ちょっといろいろあって」

 背中に痛みはあるけど、ナナを心配させないために、ミソラは何事もなかったように立ちあがった。

「そうそう。さっき教室にもどったときに聞いたんだけど、2年生のたかカエデ先輩、『キミトリンク』っていうアイドルグループの書類審査に合格したんだって」

「ナナちゃん、それ、だれから聞いたの?」

「聞いたのはまっきぃだけど、先輩が自分でいいふらしてるらしいよ。合格通知のことを家族が電話で教えてくれたんだって」

 まさかこの学校から、アサミ以外にもオーディションの合格者が出るなんて。

 けど、アサミのことは本人の様子がおかしかったこともあり、あえてナナにはつたえないことにした。

「さあて、ここでそらみんにクイズで~す。きょうのナナちゃんのお弁当はいったいなんでしょうか?」

 うしろに手をまわして、ナナがランチボックスをかくした。

「制限時間は5秒。5、4、3、2……」

「ええと、ティラミス」

「お、いい線いってる。けどハズレ」

「ザッハトルテ」

「おしい! あと一息」

「フォンダンショコラ」

「ざんね~ん。正解は――」

 ナナが胸のまえでランチボックスのふたをあけた。

「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテでしたー」

(いや、わかるかーい!) 

 サクランボせチョコケーキを見せるナナに、ミソラはキョーレツな脳内ツッコミ炸裂させるのだった。


(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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