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銀色の脅威 1

 ミソラが声勇(セイユウ)になってから3日が経過した。


 その日も、ふたりは早朝の広場で訓練をしていた。

「どうした、動きが鈍いぞ」

 シドの剣がミソラにおそいかかる。

錬声(レンセイ)

 黄金の手を出して、ミソラはシドの攻撃を防御した。

「あ……」

 ぐらっ。

 防御したさいにバランスをくずして、ミソラはたおれてしまった。

 たおれたミソラにシドが剣をむける。

 鼻先でゆれる剣の()(さき)

 勝負あり。シドの勝ちだ。

「これが実戦なら死んでいたぞ」

 シドが差し出した手をにぎって、ミソラは立ちあがった。

「おまえの動きは、なにをするにしてもちいさすぎる。まるで失敗することを恐れているようだ。過去になにかあったのか?」

「記憶を知ってるなら、過去になにがあったかもわかるでしょ」

「おれが知っているのは記憶の一部だけだ。すべてを知っているわけじゃない」

 そこでミソラは、保育園のときのことを話した。

「運動会のかけっこでね、わたし、ゴールまえでころんじゃったの」

 そのとき、ほかの子に笑われたのがショックで、それ以来、ミソラは運動するとき、失敗しないように、からだをちいさく動かすクセがついてしまったのだ。

「何年もまえのことを引きずってるなんて、わたし、ほんとダメ人間だよね」

 そういって、ミソラはむりやり笑顔をつくった。


 ちがう。おまえはダメ人間なんかじゃない。


 本当はシドにそういってもらいたかった。シドに自分の存在を認めてもらいたかった。

 そのためにミソラはわざと自分を傷つけるようなことをいったのだ。

「運動もダメなら、ほかのこともぜんぶダメ。あはは、わたしってなんの才能ももたずに生まれてきちゃったんだね」

 自分で自分を(わら)うと、すごくみじめな気もちになった。

「ミソラ、すこし落ち着け」

 シドが心配して声をかけてくれた。

 それでも言葉のナイフはとまらなかった。

「才能のない人間が夢をもつのなんておかしいよね。うん、わたしみたいなのが夢をもっちゃいけなかったんだ」

 いった瞬間、鼻の奥がいたくなって、目になみだがにじんだ。

 本当はそんなこといいたくない。

 いや、冗談でもいっちゃいけない。

 それはわかってる。

 わかってるけど、こころが黒い雲におおわれて制御できない。

 いくらとめようと思っても、言葉のナイフがつぎからつぎへと勝手に飛び出して、自分を傷つけてしまうのだ。

「こんなダメ人間が声優(せいゆう)になれるわけないよね」

 いやだ、もうやめて。

 これ以上自分で自分を傷つけたくない。

 夢をかなえるための声で、自分の夢を踏みにじりたくない。

 ミソラのこころにヒビが入りかけたとき、

「ラシ・ラ・ミソラ」

 シドがミソラをだきしめた。


 *  *  *  *  *


「え……」

 一瞬、なにがおきたのかわからなかった。

 ふわっとシャンプーのあまい香りが鼻をくすぐったかと思うと、シドの顔がすぐとなりにあり、たくましいうでが自分の背中にまわっている。

 もしかして、わたし、いま……。

 シドにハグされてる?

「ええええええええ!?」

  自分でも信じられないぐらいおおきな悲鳴が出た。

「ちょ、ちょっとシド、な、な、な、なにしてるの!」

 ハグされているので、手が動かせない。なので必死に脚をバタバタさせた。

 はずかしいとか、苦しいとか、いきなりハグとかわけわかんないとか、けどちょっとうれしいとか、どうせなら汗をかいてないほうがよかったとか、いろんな感情がピンポン球みたいに頭のなかではねまわって、まともに呼吸ができない。

「シド、は、はなして……息ができない」

 やっとシドがハグを解いてくれた。

「どうだ、すこしは落ち着いたか?」

「落ち着くわけないでしょ。ぎゃくに死ぬかと思った」

「あのままほうっておくと、おまえは本当に地獄に落ちていたかもしれないぞ」

「地獄に落ちる? なにそれ?」

「グイード王国には、自分で自分を傷つけるようなことをいった人間は、悪魔になって地獄に落ちるといういいつたえがある。だきしめるのは、この世に、からだとたましいをとどめておくためのまじないだ」

「じゃあ、わたしをハグしてくれたのって――」

「おまえを地獄に落としたら、レミさんや隊長に会わせる顔がないからな」

 そっか。

 やりかたが大胆すぎるけど、シドはわたしを助けようとしてくれたんだ。

「ありがとう、シド」

 すなおな気持ちでお礼をいえたことで、こころのヒビがふさがったような気がする。

 感謝の気持ちが、いまのミソラにはいちばんの薬だったようだ。

「わたし、これからは、からだをおおきく動かすことを意識してみる」

「ああ。それができたら自分で自分をほめてやれ」

「自分をほめる?」

「そうだ。たった1歩でもいい。努力してまえに進めたときは自分で自分をほめてやれ」

 いつものミソラなら、ここで、

「そんなの、はずかしくてできないよ」

 そういっていただろう。

 けど、シドにお礼をいえたことで、ミソラの気持ちは前向きになっていた。

(よし、これからは、きのうより1分だけはやく起きたとか、テストで40点取ったとかの、ちょっとしたことでもいいから、自分をほめてあげよっと)

 そうミソラは決心したのだった。

「ところで、さっきいってた、なんとかミソラって、どういう意味?」

「ラシ・ラ・ミソラのことか。あれは――」

 そのとき「グー」とミソラのおなかがなった。

(えええ! ふつう、このタイミングでなる!?)

 とはいえ、訓練はいつも朝食のまえにするので、おなかがすくのはしょうがない。

「ほう、なかなかいい腹の音だ」

「そんなのほめないで!」

「腹がなるのは訓練で体力を使った証拠だ。はじる必要がどこにある」

「女の子にはあるの!」

「時間もせまっているし、きょうの訓練はここまでだ。家に帰って朝食をとるぞ」

 家まで走るシドのあとを、ミソラはおなかをグーグーならして、おいかけるのだった。


(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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