勇者になるとき 3
3人がむかった『ハーヴェ』はショッピングモールのなかにある人気のスイーツ店だ。
「ムスティッカ・ピーラッカって、ブルーベリーパイのことだったんだ」
「ほんとは夏のスイーツだけど、秋のムスピーもいけるでしょ」
おいしいスイーツを食べたあと、3人はマリン公園に行った。
マリン公園は海のそばにある、おおきな公園。
近くにテレビ局があることから、コトノハ区の観光スポットとしても有名な場所だ。
「ちょっと、わたし、ジュース買ってくるね」
ナナがもどってくるまで、ミソラとシドは海を見ることにした。
「……いい町だな」
ぽつりとシドがつぶやいた。
「町に声と笑顔があふれている。むかしのジュゼ村みたいだ」
休日ということもあり、公園はピクニックにきた親子のたのしそうな声でにぎわっている。
けど、しあわせそうな家族を見るシドの目は、どこかさびしそうだった。
「おれが生まれたのは、グイード王国のはずれにあるジュゼ村という、ちいさな村だった。そこで、おれは家族と一緒に野菜を育てていたんだ」
シドが自分の手のひらを見つめた。
けど、いまのシドは、きっとなにも見えていない。
おそらく頭のなかで、剣ではなく農具をにぎっていた日々を思い出しているのだろう。
「けどあの日、ナラズの大群がジュゼ村にせめこんできた。おれは、たまたまとなりの町に野菜をとどけにいって村にはいなかった。村がナラズにおそわれていることを聞いて、あわてて帰ったが、おれが到着したときは、ともだちも家族もみんなナラズにやられていた。おれは村の唯一の生き残りなんだ」
壮絶すぎるシドの過去を知ったミソラは、どんな言葉をかけていいかわからず、うつむくことしかできなかった。
「声勇に志願したおれは、そこでファラド隊長に出会った。おれが声勇になれたのは、あの人にきたえてもらったおかげだ」
シドがミソラのほうに顔をむける。
「隊長はきびしい人だったが、それとおなじくらいやさしかった。おれがうまく装声できなくて泣いていたときなんて、夜中まで一緒に訓練につきあってくれたんだ」
思い出を語るシドの目は、ミソラではなく、どこか遠くを見ているようだった。
「隊長は錬声術以外にも、人として大切なことをたくさん教えてくれた。おまえの父親は声勇としても人間としても尊敬できる立派なお方だ」
お父さんに会ったことはないけど、そういってもらえると、ミソラはすごく誇らしい気持ちになった。
「隊長が守ってきたこの町を、今度はおれが守る。いのちも夢も、ぜんぶ、おれがこの手で守ってみせる」
そのあと、すぐにナナがジュースを持ってもどってきた。
「ふたりとも、おまたせ~。ねえねえ、せっかくマリン公園にきたんだから、テレビ局をバックにして写真撮ろうよ」
ナナがポーチからスマホを取り出した。
そのとき、
ゾゾゾゾ ゾゾゾゾ
まわりの空気が、とつぜんふるえはじめた。
(この感覚、まさか……)
ミソラはうしろをふりかえった。
広い公園のなかには、葉のしげった木がたくさんはえていて、ちょっとした林のようになっているところがある。
波の音や人の笑い声はそこにむかって流れていた。
(まちがいない。きのう神社でナラズと会ったときと、おなじ感覚だ!)
そういえば数日前に、この近くにハレオチが落ちたことがある。
もしかしたら、そのときに落ちてきたナラズが公園のなかにいるのかもしれない。
「どうした、ミソラ?」
どうやらシドは異変に気づいていないらしい。
いやシドだけじゃなく、ほかの人も音が林のほうに流れていることに気づいていないようだ。
「まさか、もう腹がへったのか? だったら――」
「シド! ナラズがいる!」
「なんだと」
グシャッ!
シドが険しい顔で、ジュースの缶を握りつぶした。
「まちがいない、林のほうにナラズがいる」
「ミソラ、いくぞ!」
シドはミソラの手をとって、林のほうへ走り出した。
「ちょっとちょっと、ふたりとも、どこ行くの~」
「ナナちゃんは、ここでまってて!」
手をパーにして、ナナにさけんだ。
林に入ると、シドはすぐに装声した。
「シド、あそこ!」
ミソラが指さす先には、ナラズとサッカーボールをもった10歳ぐらいの男の子がいた。
恐怖で動けないのか、男の子はその場で氷のようにかたまっている。
「錬声!」
声の力でつくった赤い剣を、シドがかまえる。
「ナラズ、おまえの相手はおれだ!」
わざと大声でさけんで、シドはナラズの気を自分にむけさせた。
「さ、はやくこっちに」
ふたりが戦っているあいだに、ミソラは男の子を林の外に避難させた。
「うおぉぉ!」
シドの剣がナラズのからだをまっぷたつに斬り裂く。
ふたつにわかれたナラズのからだは、すぐにドロドロに溶けた。
「やったね、シド」
ミソラがシドのもとへ駆けよる。
剣を光に変えて消すと、シドはミソラにたずねた。
「ミソラ。おまえは、なぜここにナラズがいるとわかったんだ?」
「なぜって……。だって、こっちのほうに音が流れていったから」
「音が流れる? それでナラズがいるとわかったのか?」
「うん」
「やはりおまえは隊長の子だな」
「どういうこと?」
「隊長は声勇のなかでも、音の力を感じる能力にすぐれていた。だから、音のもつエネルギーを〈流れ〉として感じ取ることができたんだ」
装声を解くと、シドの髪が黒色にもどった。
「声勇といえども、音のもつエネルギーを感じ取れる者はすくない。おまえは隊長から血だけでなく、力も受けついでいるようだな」
そのときだった。
ゾゾゾゾ
「え?」
「どうした?」
シドの「どうした?」という声が、木のうしろに引き寄せられてゆく。
「シド、気をつけて!」
木のうしろから、なにかが飛び出した。
水色のムチ。
ちがう。長くのびたナラズのうでだ!
「もう一体いる!」
その直後に、ナラズのうでがシドの胸を直撃。
声もあげずに、シドが後方にふきとんだ。
「シド!」
うでをのばしたナラズが、木のうしろからあらわれた。
「に……げろ」
シドがいった。
「はやく……逃げろ」
胸を強くなぐられて、シドは動くことができない。
ナラズはうでをもどすと、今度はそれを剣に変えた。
半透明の水色の剣。
それがゆっくりとシドにせまる……。
* * * * *
(シドを助けなくちゃ!)
このままじゃ、シドがナラズにやられちゃう。
助けを呼んでるヒマはない。
だから、わたしがシドを助けなくちゃ!
(でも、どうやって?)
力もない。
この場をきりぬけるアイデアもない。
なにももっていないわたしに、いったいなにができるの?
ジリ……。
足がうしろにさがる。
ナラズはミソラには見向きもしない。
逃げだすには絶好のチャンスだ。
でも――。
「いやだ」
グッと足裏を地面に押しつける。
逃げたくない。
わたしはシドを守りたい。
応援してるぞ。
そういって夢を応援してくれた人を守りたい。
できるか、わからない。
でも、もし本当にお父さんの力を受けついでいるなら、わたしだって「装声」できるはず。
声勇として、ナラズと戦えるはず。
(やるしかない! シドを助けるためにはやるしかないんだ!)
シドを守りたい。
その想いをのどにあつめて、
「装声!」
ミソラは大声でさけんだ。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




