勇者になるとき 2
シドの訓練が一通りおわると、ふたりは家にもどった。
朝食をとったあと、シドが、
「海を見たい」
というで、ふたりは海の近くにあるマリン公園へ行くことにした。
公園付近にあるショッピングモールのまえを通りすぎようとしたとき、
「それじゃあ、またね~」
聞きおぼえのある声に、ミソラは足をとめた。
声のするほうに目をむけると、ショートボブの女の子が、ざんねんそうにスマホの画面をながめていた。
(やっぱり、ナナちゃんだ!)
その子はミソラの(数少ない)ともだちのひとり、伊福部ナナだった。
「はぁ……さすがにひとりでスイーツ店はきついかな」
がっくりと肩を落としたナナが顔をあげる。
その瞬間、ナナとミソラの目があった。
「うそっ、そらみん!?」
おどろいたナナが手で口を覆った。
「わーん、そらみーん。ひとりぼっちのかわいそうなわたしをなぐさめてー」
甲高い声でさけびながら、ナナは大勢の人のまえにもかかわらず、ミソラにだきついてきた。
「ちょ、ちょっとナナちゃん、苦しいよ」
「うんうん、苦しいよね。約束当日にドタキャンされたら悲しいし、苦しいよね」
「……されたんだ、ドタキャン」
「うん。まっきぃ、今朝38度の熱が出て、これから病院に行くって」
「そうなんだ」
「風邪だから、しかたがないのはわかるよ。でも、やっぱりドタキャンは悲しい」
「う、うん、そうだよね。わかるよ、その気持ち」
「せっかく『ハーヴェ』で、ムスティッカ・ピーラッカを食べようと思ってたのに~」
「ムスティ……どんな食べ物かしらないけど、それはざんねんだね」
「てなワケで、そらみん一緒にムスピー食べに行こ」
「なんでそうなるの!?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。半額クーポンもあるから」
ナナがスマホをふってみせる。
「ぜったいに損はさせないから。だから彼氏さんも連れて3人で行こ」
「彼氏さん?」
「そらみんもすみにおけないなぁ~。わたしの知らないあいだに、こんなイケメンくんとつきあってたなんて~」
ニヤニヤするナナの目線の先をおう。
そこには、ナナの迫力に圧倒されて、目をまるくするシドがいた。
「ちがう、ちがう、ちがう! ナナちゃん、ちがうの!」
ミソラは顔を真っ赤にして、手で×をつくった。
「この人は彼氏でもなんでもないの!」
「え、ちがうの? じゃあ、なに?」
「この人は……ええと、その……そう親戚! わたしの親戚なの」
目で「話をあわせて」とシドにうったえる。
それがつうじたのか、シドは、
「ああ。おれはこいつの親戚だ」
うまいぐあいに話をあわせてくれた。
「いままでは遠い場所で暮らしていたんだが、わけあって、この町で暮らすことになってな。それでミソラに町を案内してもらっているんだ」
「なーんだ、そういうことか。それじゃあ、これからよろしくね。ええと……」
「シドだ。シド・クルティス」
「これからよろしくね、シドっち」
ナナが背伸びして、シドの肩をたたいた。
「ねえねえ、せっかくだから、わたしも一緒に町案内させてよ」
「ナナちゃんも一緒に?」
「うん。映えスポットもパワースポットも、この町のことならコトノハマスター・ナナさまにおまかせあれ。それとも――」
ナナがミソラに顔を寄せる。
「シドっちとふたりきりのほうがよかった?」
ニヤニヤしながら、耳元でささやいた。
「ちがっ! そんなんじゃないって」
「じゃあ、わたしがいてもノープログラム。一緒に行ってもいいよね?」
「う、うん。けどそれをいうならノープログラムじゃなくて、ノープロブレムだよ」
「こまかいことは気にしない。それじゃあまずは『ハーヴェ』に行こ。美少女とイケメンでムスピー・パーティーだ!」
ナナがこぶしをつきあげて、うれしそうにピョンピョンと飛び跳ねた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




