声の力 3
そのあと、ミソラは丘の上の広場にむかった。
(シドなら、きっとここにいる)
そう思ったからだ。
ミソラの予想どおり、シドは広場にいた。
「錬声!」
シドは声の力でムチをつくり、それを休憩用の建物の柱にまきつけていた。
「剣以外もつくるれるんだ」
「イメージすれば、どんなものでもかたちにできる。うまくつくれるかはべつだがな」
何度かふっただけで、ムチはボロボロになり、光になって消えてしまった。
「なにをしにきた。二度とあらわれるなといったはずだ」
「想いをつたえにきたの。わたしの想いを、ちゃんとシドに知ってもらいたいから」
「ナラズをたおす気になったのか」
「ちがう、わたしはアサミちゃんを助けたい。たおすんじゃなくて、ともだちを救いたい」
「なら話はおわりだ。おまえと話すことはなにもない」
「シド、まえにいったよね。『いのちも夢も、ぜんぶ、おれがこの手で守ってみせる』って」
「ああ、いったな」
「アサミちゃんにもね、夢があるの。アイドルになるって夢があるの」
「…………」
「わたしはその夢を守りたい。シドと一緒にアサミちゃんの夢を守りたい」
すぅっとみじかく息をすうと、ミソラはシドに頭をさげた。
「おねがい、シド。もう一度わたしに力を貸して。この町のすべてを守るために、わたしに力を貸して」
ミソラはシドの返事を聞くまで顔をあげないつもりだった。
けど……。
「ひとつ!」
いきなりシドがさけんだので、ミソラはおどろいて顔をあげてしまった。
「声勇は、その力を己のために使ってはいけない!」
「シ、シド?」
「ひとつ、声勇はその力を人類の平和のために使わなければいけない!」
シドはこぶしを胸にあて、空にむかってさけんでいた。
「ひとつ、声勇はその力を破壊ではなく、救済のために使わなければいけない!」
シドがこぶしをほどいた。
「ミソラ、おれをなぐれ」
「え?」
「声勇三カ条をわすれた罰だ。おれをなぐれ」
「いや、そんなこといきなりいわれても」
「なぐれ、これは命令だ」
「いや、だから命令とかそんな……」
「なぐれ!」
「あー、もう! わかったよ!」
パーン!
ミソラは思いきり、シドのほほをビンタした。
「……おまえ、意外と力あるな」
ほほをさすりながら、シドがうなる。
「口では『守る』なんていいながら、おれはナラズをたおすことしか考えていなかった。復讐のために、おれは声の力を使っていたんだ」
髪をかきあげて、シドがため息をついた。
「『おまえの声はナラズのいのちをうばうためにあるんじゃない。人のいのちを守るためにあるんだ』そう、いつも隊長にいわれていたのに、それをわすれていた自分が情けない」
「でも思いだすことができた。だったら、思いだせた自分をほめてあげなよ」
「おまえ……」
「いまシドに地獄に行かれたら、わたしがこまるの。だからさ、シド。自分のこと『ラシ・ラ・ミソラ』してあげなよ」
「そうだな」
ふっと笑うと、シドは自分のうでをなでた。
「それにシド、ほんとはアサミちゃんをたおす気なんてなかったんでしょ」
「なぜ、そう思う?」
「だって、ほんとにたおす気があるなら、こんなところにいないで、アサミちゃんをさがしてるはずだもん」
「それは……」
「剣じゃなくてムチを錬声してるのもそう。ムチはアサミちゃんの動きをふうじるために練習してたんでしょ」
「ま、まあな」
シドが照れくさそうに返事した。
「ところで、アサミを救う方法は考えているのか?」
「確実な方法じゃないけど、ひとつだけ考えがあるの」
そのとき、ミソラのスマホに電話がかかってきた。
「そらみん、助けて!」
電話に出るなり、ナナのさけび声が耳を刺した。
「ナラズにおそわれてるの。高田先輩も一緒にいる」
「ナナちゃん、場所は? いまどこにいるの?」
「アンジェロ教会。できるだけはやくきて。それまでわたしがなんとかするから」
その直後に、ガラスの割れる音と、ふたりの悲鳴がスピーカーから聞こえた。
「ミソラ、行くぞ!」
「うん!」
「「装声」」
ふたりは同時に装声した。
「走るより飛んだほうがはやい。シド、教会まで飛んでいくよ」
「飛ぶ? そんなことどうやって――」
「こうやってだよ」
ミソラは息をすうと、頭のなかで黄金のつばさをイメージした。
「錬声」
イメージを声に乗せて出す。
するとミソラのせなかに黄金のつばさがはえた。
「おまえ……すごいな」
「感心するのはあと。アサミちゃんを救う方法は飛びながら教える。だから、はやく教会に行くよ」
「ああ」
シドがミソラの手をにぎる。
「せーの!」
力をあわせて地面をけって、ふたりは夕空へと飛びたった。
(つづく)
次回はいよいよ最終回!
※一年間がんばった自分へのクリスマスプレゼントとして、映画『学校の怪談』のDVDを買いました。




