ハレオチとイケメン 1
この物語は2023年に書いた作品に加筆と編集を加えたもので、『夢の狩人』同様『ゴクドウの花子さん』のプロトタイプとなった作品でもあります。
声勇――声で戦う勇者を題材にしようと思ったのは、ランニング中に、
【装声】
という単語が、ふと頭のなかに浮かんだことがきっかけです。
連載期間は20~25日の6日間。最後まで読んでいただけたら幸いです。
いえない。どうしてもいえない。
わたしはわたしが大好きだもん!
マイティ・マイコの、このセリフをミソラはどうしてもいえなかった。
コミックをとじる。
そしてゆっくり深呼吸。
(もっとマイコの気持ちを理解しなきゃ。キャラクターの気持ちを理解しないと声優にはなれない!)
背筋をのばすと、ミソラはもう一度『無敵少女マイティ・マイコ』のコミックをひらいた。
問題のセリフがでてくるのは敵の怪人とマイコとの戦闘シーンだ。
「なぜだ。なぜ、まだ戦える!」
せいいっぱいの低い声で、ミソラは怪人を演じた。
「人間のこころから愛はうばったはず。なのに愛を力に変えるおまえが、どうしてまだ戦える!?」
「戦えるにきまってるじゃん。愛なら、わたしのこころにあるもん」
マイコと怪人をひとりで演じながら、ミソラはページのマイコとおなじように胸に手をあてた。
「じ、自分を愛するこころが、わたしに力をあたえてくれるの」
声がうわずって、ちいさくなる。
(こ、このセリフはマイコが自分にいってるの! わたしが、わたしにいってるんじゃないの!)
わかってる。そんなのわかってる。
けど自分の声ゆえに、耳に入ったその言葉は、どうしても自分自身にいっているような気になるのだ。
「……わ、わたしはいつだって、わたしを応援してる」
ちがう。
ミソラはミソラを応援なんてできない。
勉強、運動、料理、人との会話。
どれもダメダメな自分を応援なんて、はずかしくてできない。
「世界中のだれよりも、わたしはわたしを信じてる」
信じてない。
ダメな自分を信じるのなんて、バカみたいだもん。
「だって……」
胸をしめつけられるような気分で、ミソラはページをめくった。
そこにはおおきなふきだしで、
わたしはわたしが大好きだもん!
そのセリフがあった。
きらめくマイコの笑顔と最強にあかるいセリフ。
そのすべてがミソラにはまぶしすぎた。
「ダメだ。やっぱり、いえない」
コミックをとじて、ミソラは背中からベッドにたおれこんだ。
窓のむこうの夜空の星が、いつもより遠くでかがやいて見える。
彩音ミソラ、13歳。
声優という夢に手がとどくのは、いつの日になることか……。
* * * * *
「声優になりたい!」
ミソラの胸にその夢が芽生えたのは、3年まえのことだった。
当時、ミソラは新型のウイルスに感染して、入院していた。
高熱、頭痛、とまらない咳とそれによって引き起こされる吐き気。
痛くて苦しくて、からだもこころもボロボロだった。
そんなつらい日々をささえてくれたのが病室で観るアニメだった。
ラブコメ、ミステリー、ギャグにバトルに魔法少女もの。
ジャンルに関係なく、魅力的なキャラクターとワクワクする物語は、闘病中のミソラに元気をあたえてくれた。
そうしてアニメを観ているうちに、ミソラはキャラクターに声をあてる声優という職業に興味をもつようになったのだ。
(声優になって、みんなを笑顔にしたい!)
自分がアニメにささえられたように、今度は自分が、つらい想いをする人たちを元気にしたい。
そんな想いから、ミソラは声優をめざすようになったのだ。
けど……いまのままでは声優になれない。
それはミソラ自身がいちばんよくわかっていた。
自分に自信のないミソラは、自分をほめたり、信じたりするようなセリフがどうしてもいえなかった。
どれだけキャラクターになりきっても、あかるく前向きなセリフをいうことができない。
それを経験するたびに、ミソラは自分の情けなさを恨み、こころがしずんだ。
「はあ……ダメだな、わたし」
ためいきをついたとき、
ピロリン♪
スマホを見ると、お母さんから『MINE』のメッセージがとどいていた。
きょうもお仕事で帰りがおそくなるの。ごめんだけど、夕飯はひとりで食べてね。
「ええ~、きょうも~」
ベッドの上で足をバタバタ。
「きょうは一緒に食べるっていったのに~」
ミソラの母親・彩音レミといえば、さまざまなドラマや映画に出演している超がつくほどの人気女優だ。それゆえに撮影や収録で毎日がいそがしく、帰りがおそくなる日もおおい。
「ま、お仕事なら仕方ないよね」
怒ってもおなかがすくだけで、お母さんがはやく帰ってくるわけじゃない。
そう自分にいいきかせて、ミソラは1階におりた。
冷蔵庫のドアをあけると――。
「あ……」
ない。たべものがひとつもない。
「そうだ。きのう茹でたウインナーで最後だったんだ」
あわててミソラは冷凍庫のドアもあけた。
「おねがい! パスタでもハンバーグでもなんでもいいから、かんたんに調理できるものが残ってて!」
でも、ざんねん。
冷凍庫のなかにあるのは凍った青ネギだけだった。
「ウソウソウソ。ほんとになにも食べ物がないの?」
食品だなもすべてあけてみたが、パンもカップラーメンも見つからない。
「どうしよう。オーダーイーツは使わない約束だし」
ミソラはあせった。
家からいちばん近いコンビニまで500メートル。
自転車をとばして、すばやく買い物をすませれば往復10分ぐらいで帰ってくることはできる。
けど、時間はすでに夜の7時をすぎている。
11月の7時といえば、とうぜん、あたりはまっくらだ。
「ゲル・ピープルに出会ったら、どうしよう……」
ゲル・ピープルとは、ゼリーのようなからだをした都市伝説の怪人だ。
この怪人が撮影された動画を、ミソラはともだちに見せてもらったことがあった。
もし、あの動画みたいに闇のなかからゲル・ピープルがあらわれたら……。
そう考えただけで、背筋がつめたくなる。
ゲル・ピープルはこわい。
でも、おなかはすいている。
ミソラは迷った。ひとりでお腹をならしながら、さんざん迷った。
そして迷いに迷ったあげく、
「あ、あんなのただのウワサだし、動画だって、どうせCGだよ」
自分をふるいたたせて、コンビニにむかうのだった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
「……よく考えたら、プロフィールにいっさい情報を載せてなかったな」ということに、いまさら気づいたので、プロフィールを更新しました。
あと、活動報告【おはぎ日和】をはじめました。
日常の出来事、作品のこと、こどものときに好きだったものなどを気が向いたときに、ゆる〜く書いていくつもりです。
気になった方は、ぜひご覧になってください。




