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最終話

「ミサちゅわーん! 今日も来たよー!」


「わぁ、あっくん! 本当に今日も来てくれたんだ。ミサ、すごく嬉しい。今日もVIP席でいいよね?」


「もちろんだよ、早く行こう!」


俺は“彼女(仮)”のミサに会うため、カップルカフェ――通称カプカフェに、二ヶ月間ほとんど毎日のように足を運んでいる。


この店は「恋人のように接してくれる」ことを売りにしたコンセプトカフェだ。だが、ミサだけは違う。

あの子は確実に俺に本気で恋をしている。そして俺も同じ気持ちだった。


彼女には病気の弟がいる。高額な治療費が必要で、そのため仕方なくこの店に通い詰めているのだと聞いた。

チェキやゲームの売上の一部が彼女の収入になると知ってからは、欠かさずチェキを十枚は買い、ゲームも可能な限り一緒に遊ぶようにしていた。


「あっくん、今日も来てくれてありがとう」


「愛する人に毎日会いに来るのは当たり前だろ?」


「ふふっ、あっくんって本当に優しいんだね」


そう言った彼女の瞳が、ふいに濡れる。


「あっ……ごめんね。弟のこと思い出しちゃった。仕事中なのに、私ったらダメだな……」


「そ、そんなことない! 家族を大事にするなんて、とても素敵なことだよ」


「ありがとう。あっくんといるとね、肩の力が抜けて……すごく楽になれるんだ」


その言葉に胸が跳ねた。思わず口走る。


「ミ、ミミ、ミサ! きょ、今日は……アフターいけるかな?」


「嬉しい……でも、ごめんね。今日も仕事が終わったら弟のところに行かなきゃ。ほんと、ごめんね」


「そ、そうだよね! 全然大丈夫、大丈夫だから」


彼女は申し訳なさそうにしていたが、すぐに気持ちを切り替えたように尋ねてくる。


「それより、あっくん。今日は何する?」


「昨日はチンチロだったし……今日は、あの平均台を時間内に渡るやつにしようかな」


「いいね。準備してくるから、ちょっと待っててね」


やがて始まった“ドキドキ鉄骨渡りゲーム”。俺とミサは笑い合いながらそのゲームに熱中していた。

――その最中だった。


街全体に、耳をつんざくような緊急避難警報が鳴り響いた。


『緊急避難警報、緊急避難警報。名古屋市中村区にてゲート発生、ただちに避難してください。繰り返します――』


「え、嘘!? やばい、逃げなきゃ!」


「俺とミサの時間を邪魔するなんて……。ミサ、早く避難しよう」


「その前に……ドリンクとチェキ、それからゲーム代合わせて八六四〇円、ちゃんと払ってね!」


「え? あ、はい……」


反射的に財布から一万円札を出すと、ミサはそれをひったくるようにして受け取り、そのまま走り去っていった。


「こんな時まで仕事に手を抜かないなんて……さすがミサだ」


あの真面目さに惚れる奴も多いに違いない。けれど、もうミサは俺の嫁みたいなもんだ。誰にも渡す気はない。このモンスターの襲撃が終わったら、必ずプロポーズしてみせる。


そんなことを考えていると、携帯に通知が届いた。画面には見慣れたスキマバイト――「トキーナ」から急募のお知らせが届いていた。


「彼女を見習って、俺も仕事するか」


そう呟きながら通知を開き、いつものように操作を進めていく。


「ブルーゲート、ナンバー十五……俺が行く必要あるのか? まあ、すぐ目の前だからいいか」


マッチング成功の表示を確認した瞬間、俺は能力を使い一瞬で現場に移動した。


「うわ、もうモンスター出てきてるじゃん」


ゲートからはすでに複数のモンスターが姿を現し、近くでは他のキーパーたちが必死に応戦していた。


「どうも。トキーナから派遣されたキーパーです。よろしく」


「トキーナ!? ふざけているのか君は! 危険だ、早く退避しろ!」


「ふざけてるのはどっちだよ」


俺の前に飛び出してきた男は、次の瞬間、モンスターの一撃で胸を貫かれた。


「タカシ!? くっ……ぐわぁぁぁッ!」


もう一人の男も叫ぶ間もなく、首を刎ねられ地面に崩れ落ちる。


「あーあ、助ける義理なんてないんだけど……まあ、仕方ないか」


俺が指を鳴らした瞬間、胸を貫かれたタカシも、首を落とされたタカシBも元どおりになった。まるで今起きたすべての出来事が、初めから存在しなかったかのように。


「胸の傷が……消えてる……? もしかして、あの人が……」

「あれ……何が起きたんだ? もしかして、あの人が……」


「お前らは下がってろ。ここからはこの俺――九条葵がなんとかする!」


「やっぱりあの最強キーパーの!」


「さて、どう料理してやろうか」


ゲートはすでに第三ウェーブへ突入していた。吐き出されるモンスターは十五体。ブルーゲートは第一で五体、第二で十体、第三で十五体と段階的に数を増やしていく。

つまり今この場には、すでに三十体ものモンスターが溢れかえり、アウトゲートが出現した“ナナちゃん人形”へとじわじわ迫っていた。


「はぁ……ゲートそのものを“なかったこと”にしたいんだけど、なぜかそれだけはできないんだよな。パラドックス的な制約ってやつか? まあ、いい。今日はどうやって勝利を楽しむか……だな」


俺は一瞬でナナちゃん人形の前にワープし、宙に浮かんだまま戦場を見渡す。どう遊ぶか、どう片を付けるか、それを考える時間がたまらなく心地いい。


「よし、今日は全部ワンパンで行こう。俺が殴ったら全員まとめて破裂――それでいこう」


『リアライズ』


軽く指を鳴らし、能力名を口にする。詠唱も動作も、本当は必要ない。ただ、自分のテンションを高めるためだけにやっている、それだけのことだった。


そして俺は次々とモンスターを殴り倒していった。拳が一度でも触れれば、それだけで相手は内側から破裂し、あっという間に数は半分に減っていく。


「よし。最後は……指を鳴らしたら全員まとめて爆発ってことでいいか」


本当は、あと一体でも倒せば勝利条件は満たされていた。

アウトゲートに対してモンスターの数が不足すれば、俺たちキーパーの勝ちとなり、ゲートとモンスターは消滅する。


ゲートが消えれば、その都市の誰かに新しい能力が宿る――それがこの世界の仕組みだ。授かる力は完全にランダムで、先日、三重県四日市市のゲートが消滅したときは「空を自由に飛ぶ」能力を得た者がいたらしい。もっとも、何も授からない場合もあるのだが。


俺は上空のカメラに向かって最高のキメ顔を作り、そのまま指を鳴らした。瞬間、残っていたモンスターが一斉に爆ぜ、派手な火花と血飛沫を撒き散らして消えていく。


映画のワンシーンのような光景に、テレビの前のみんなもきっと喝采を送っているに違いない。


こうしてゲートは消滅し、名古屋市には再び平穏な日常が戻った。


「あ、そうだ。退勤のQR読みに行かなきゃ」


なぜ出勤の時は不要なのに、退勤の時だけQRコードの読み込みが必要なのか。

その理不尽さに首をかしげながら、俺は名古屋支部へと足を向けた。



「室伏長官! 無事、ゲートは消滅しました!」


名古屋支部に歓喜の声が広がった。しかし、浮かれていられるのは束の間であり、被害状況の確認や救助活動はこれからが本番だ。


「八神さん……あの人、一体何者なんですか……」


「彼は九条葵くん。おそらく、日本で最も強いキーパーよ」


「九条葵……? 名簿に載っていませんけど!?」


三崎は慌ててキーパー名簿管理システムを検索するが、その名はどこにも存在しなかった。


「色々と事情があって、彼は未登録なのよ。だから隙間時間を使って、時々だけキーパー活動をしているの」


「隙間時間で人を救うなんて……かっこいい。戦いもすごかったですよね! 九条さんの能力って一体……?」


「『リアライズ』よ。思ったことを実現する力」


「えっ!? そんな……それって最強じゃないですか! 彼がいれば日本も安泰ですね!」


「彼が“全国どこにでも”いてくれれば、ね。今回はたまたま名古屋にいて助かったけれど……ぐっ……あっ……!」


「八神先輩!? しっかりしてください、先輩!」


突然、八神の身体が痙攣し始め、苦しげな息を漏らした。三崎は動揺し、声を張り上げる。


「誰か! 八神さんが!」


その叫びに室伏が駆けつける。


「大丈夫か!? 八神くん!」


「サイコ……キネシス……?」


その言葉を残し、八神は意識を失った。


「サイコキネシスだと……!?」


そんな騒動が起きているとは露知らず、のんきにオペレーター室へ足を運ぶ男が一人。


「こんちはー。退勤のQR――」


「すまない九条くん、後にしてくれ! 新しい能力者が誕生したんだ!」



どうやら名古屋に、最強となり得る新たな能力者が生まれたらしい。

彼女はオペレーターを続けながら、隙間時間でトキーナを使ってキーパーとして活動していくことになる――のかもしれない。

こちらでこの物語は完結となります。

もし反応が良ければ……?

読んでくれてありがとうございました!


指摘がありましたが、たしかに短編にすればよかったですね。

次からそうします、すみませんでした。

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