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第1回、初デートはどこがいいでしょうか会議

 ブルーノとの交際が始まってはや1ヶ月。学園への登下校を一緒にしたり、お昼を食べたり、と健全で堅実なお付き合いをしていた。


 そろそろ新しい1歩を踏み出しても許されるのではないだろうか。


「というわけで、第1回! 初デートはどこがいいでしょうか会議」


 盛り上げの一環として拍手をしつつ、期待するようにヴェロニカを見つめた。彼女は無表情を崩さずにひと言。


「解散」

「お願いだから少しは迷ってよ!」


 さっさと教室から出ていこうとするヴェロニカに追いすがり、泣き落としを試みること20分。ようやくヴェロニカは席に着いてくれた。


「はぁ、仕方ないから早く始めましょう。その第2回以降があったら絶望的な会議を」

「…………確かに。初デートのことなのに2回目があったら嫌だね」


 それ即ち、ブルーノと別れているということだ。その未来を想像するだけで胸がキュッとする。私はどうやらブルーノのことをかなり好きになっているみたいだ。


「そうならないように……いや、いらない心配ね。さっさと始めましょう」


 ヴェロニカの発言の真意は私からは分からない。ただ聞いても教えてくれないだろうし、下手に尋ねると会議を終わらせる気がないと見なされて教室から出ていってしまう可能性がある。彼女の気分が乗っている今は、そっちに集中だ。私が言い出しっぺなのだから。


「ショッピングとかでいいんじゃない。よし、解散」

「待って待って待って」


 前言撤回。全然乗ってなかった。また帰ろうとするヴェロニカを引き止めて、また席に着いてもらう。誰の目から見ても同じやり取りだった。3度目がないことを祈る。


「私もそれは考えたよ。でも、街に出てもいいのかなって」

「あぁ、確かに」


 ブルーノの顔面は慣れていない人からすれば、凶器となりうるものだ。街に出て騒ぎになればデート所ではない。


「隠してもらったら?」


 もちろん彼女の言うとおり、隠すという選択肢がある。けど、こちらから誘った初デートで「顔を隠して来てください」と言うのは失礼な話だ。私が恋人に言われたら、怒りの前に悲しみを覚えるだろう。ブルーノにそんな気持ちになってほしくない。


「隠してもらう……とか以前に、私はブルーノの顔を見てデートしたいんだよね」


 確かに最初は……ううん、今も彼の顔はブサイクだと思う。あそこまで恐ろしい外見は他にいないと。


 でも、私はあの顔を見て、笑ってデートをしたい。貴方の顔は恥ずべきものではない。それを理由に侮蔑されていい訳ではない。貴方はそのままで素敵な人間だと行動で示したい。


「私は顔も性格も、全部ひっくるめてブルーノと向き合いたいから。だから、そのままデートしたい。……何かいい案ある?」

「そうね……」


 ヴェロニカは手を顎に当てて静かに目を閉じる。余計な情報を入れないために目を閉じる、彼女が真剣に考え込む時の行動。どうやらやっと気分が乗ってくれたみたいだ。


 私ももう一度、何か良いデートプランがないかを考える。人が多い所で問題があるなら、人が少ない所なら。そこまでは毎回考えつくのだが、肝心の人が少ない所がさっぱり思いつかない。デートに行くなら休日。しかし休日は大抵どこに行っても沢山の人がいる。人の少なさそうなスポットをリストアップして確認しに行ったが、どこもそれなりに人がいて、1日収穫なしだった時は泣きたくなった。


 逆に人が多いところに行く? 人が大勢いれば、他人の顔など注視しないだろう。しかし注視しなくても、ブルーノの顔は一目見ただけで衝撃的だ。絶対に騒ぎになる。これも絶対なしだ。


 やはり何度考えても私の頭じゃ限界がある。ヴェロニカの頭に期待したい。

 期待を込めてヴェロニカを見つめれば、ちょうど彼女の目が開かれる。どうやら何か思いついたようだ。


「なにか思いついた!?」

「えぇ、とびっきりよ」


 自信満々な様子に期待で胸が高鳴る。ヴェロニカは私よりも成績がよく頭が回る。彼女に相談して正解だった。


「人の多い場所は論外。デートに行くのが休日なら人が少ない場所は限られている」

「おお!」


 私がたどり着くまでに、脳内会議計3回はかかったことを1回目でたどり着いている。ここから思いつくなんて。流石ヴェロニカ。


「結論、寮の部屋に連れ込みなさい」

「ダメでしょ!!」


 全然、流石ではなかった。


「あ、私の心配はいらないわ。そこら辺のカルロでも連れてどこか行くから」

「そういう問題じゃない!」


 一応、カルロが周囲にいないことを確認してから叫んだ。ヴェロニカが名前を呼んだら「呼んだ?」と言って登場することがよくあるので、確認は重要だ。……どこから聞いているのかは考えないことにしている。


「いいじゃない。2人っきりになれるわよ」

「そもそも、寮に異性を入れちゃダメでしょ!」

「私はよく入れてるわ。勝手に入ってくるとも言うけど」

「聞きたくなかった!」


 寮の自室なんて自分とヴェロニカ、そして寮母さんくらいしか見ないと思って整頓はサボり気味だ。それを他でもないカルロに見られていたなんて。絶対人のことを馬鹿にしていた。自分のスペースの掃除をサボるズボラだって。その通りなのでぐうの音も出ないが。


「今度からしっかり掃除しよう」


 本やマンガは本棚にしまおう。筆記用具も使いっぱなしにしない。カルロに馬鹿にされないようにしよう。


「……マンガ、そうだ!」

「いきなりどうしたの?」

「図書室行こうと思ってたんだ」

「図書室?」

「私の好きなマンガの新刊が、図書室に入ったらしいの」


 昨日、掲示板に張り出されていた図書室の入荷リスト。その中に私の好きなマンガの新刊があったのだ。もちろん、自分でも買う。当たり前だ。それでも早く読みたい。なので借りて読んで、週末に買いに行こうと思ったんだ。


「という訳で今日の会議は解散! 図書室行ってくるね」


 どうせこれ以上、案は出ないだろう。成果はゼロ。何も得られたものは無いが、私の退室で意味の無い会議は終わったのだった。


 今日のお礼は考えている。次の週末、マンガを買いに行く途中でヴェロニカに人気のスイーツ店で新作を買って帰ろう。だからそんなに睨まないで、許してほしい。

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