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告白劇の翌朝

「……あら、今日は朝早いのね。おはよう、メイア」


 私が学園へ登校する準備をしていると、いつも通りの時間に起きてくるヴェロニカ。寝起きでも目がキリッとした彼女に「おはよう」と挨拶を返した。しかし、疑問に答えるかは悩んだ。


 彼女の言うとおり、いつもの私はこの時間に制服を着ていない。パジャマ姿のまま、着替えるのが面倒だとボヤいている。そんな私が制服に着替え、持ち物の確認をしていることは、私と生活を共にしているのなら不思議に思うだろう。

 その理由は、人に偉そうに言えるものではない。だから悩んだ末に「早く起きたのは、ちょっと理由があって……」と誤魔化した。


「どうせ、ブルーノに謝りに行くとかでしょう」

「なんでわかったの!?」

「分かるわよ。メイアの考えそうなことくらい」


 それだけ言って、ヴェロニカは洗面所の方へ行ってしまう。そんなに分かりやすいだろうか、私は。


 昨日、告白をしたのに逃げ帰ってきてしまったことをブルーノ・ペルティに謝る。今日の目標はそれだ。言葉にすると簡単だが、私の心はどんより重い。


 謝罪はできる。理由が明白だから。問題は、告白を了承したのに逃げるような女性間違いなく振られるであろうことだ。私が男性なら「昨日のことは無かったことに……」と提案する。イケメンに振られてばかりという負の要因があるのに、更に上乗せされると、地雷どころではない。もう爆発しているも同然。完全にアウトだ。


 正直、ブサイクしか欠点のないブルーノ・ペルティの方がマシだ。いや、マシとかではない。最高の男性だ。だって悪い所がそれしかないのだから。私は欠点が多すぎる。酷いところしかない。自分で考えても良いところなどさっぱり思いつかない。今まで自分を客観視したことは無かったが、ここまで欠点ばかりの酷い人間だったとは。


 やはりここは素直に身を引くしかない。最速破局になってしまうが、これに関しては私が悪い。


 謝罪をして、振られるだろうから受け入れて。朝からハードになってしまうが、今日も頑張ろう。


 コンコンっ! と大きいノック音が響く。朝という時間、そして急ぐような音。明らかに異常だ。朝から何かあったのか、驚いていれば、慌てたような声が聞こえてくる。


「メイア・チェッキさんは起きていますか!?」


 この声は寮母さんだ。挨拶をする時によく聞く落ち着いた声は、困惑に染め上げられている。


「はい、どうかしましたか?」


 こういう時こそ落ち着いて対応しなければ。動揺を隠して扉を開けば、寮母さんは青ざめた顔をしていた。恐ろしい化け物から逃げてきたかのような顔に、何となく胸騒ぎがした。


「あぁ、メイアさん! 早く、外に出てください! みんなが、驚いて、私も……」


 よく見ればカタカタと小刻みに震えている。言葉も要領を得ない。外に何があるというのだろう。熊かイノシシでもでた? 私を呼ぶ意味は無い。

 私を呼ぶ意味。今日、外にいる何か。怯える寮母さんや、他の生徒。ピースは揃っている。私は拙いながらも頑張って繋ぎ合わせて、そしてたどり着く。


「……もしかして、ブルーノ様が来てたりしますか?」

「えぇ! ブルーノ・ペルティさんが、貴女を待ってて!」


 私は鞄を掴み、走って外に向かう。朝ごはんを食べていなくて力が出ないが、今出せる全力を出して走る。

 寮の玄関付近には外の様子を伺う生徒がそれなりにいた。この時間に登校しようとする生徒がこんなにいるのか。まだ少し早い時間なのに。


 現実逃避のように関係なことを考えてみるが、外を見た瞬間にそんな余裕無くなってしまう。


「ブルーノ様……」

「メイア様! おはようございます」


 ぱぁっと顔を明るくするブルーノ様に、言おうとしていたことが全て吹っ飛ぶ。ブルーノ様の顔は昨日と同じでブサイクだ。なのに可愛いと感じる自分がいた。


「どうして……というか、いつから……」

「メイア様が、いつ登校されるのか分からなかったので、朝日が昇る前から待っていました」

「いくらなんでも早すぎる!!」


 どう考えても朝日が昇る前に登校する生徒はいない。なんなら、その時間に寮の玄関が開いていると思えないし、どう考えても朝ごはんを食べていない。


「メイアと呼んでください……」


 何から言えばいいのか分からなくて、結局私の口から出たのは今言わなくてもいい事だった。


「でも、俺が……よ、呼び捨てなど――」

「そう呼ばれたいんです!」

「…………それでは、メイアと呼ばせていただきますね。俺のこともブルーノと。その……恋人ですし」


 少し恥ずかしそうに目を伏せながら話すブルーノ。その姿よりも、発言の方が私にとっては問題だった。


「……恋人」

「昨日、その……告白、してくれましたよね」

「はい。しました」

「ですから、恋人……ですよね」


 不安そうな表情の彼。私の態度がおかしいと気づいているんだろう。説明をしなければ、私が考えたことを。


「その……」


 話を始めようとして、昨日の逃亡を思い出す。寮の方を見れば、沢山の人が私たちを見ている。このままだと、昨日の二の舞になることが容易に想像できた。


「と、とりあえず! 移動しましょう!」

「……はい。それでは荷物お持ちしますね」


 当たり前に鞄を持とうとするブルーノに「大丈夫です。自分で持ちます!」と伝え、学園まで引っ張って行った。




 学園の空き教室。ここら辺は空き教室ばかりで人通りが少ないので、話を聞かれる心配はしなくてもいい。

 とりあえず、椅子を2脚持ってきて座る。話の切り出しはもちろん決まっている。頭を下げ、お腹に力を入れて叫ぶ。


「昨日は逃げてごめんなさい!」

「えっ」

「告白しておいて、逃げるなんて最悪最低なことをして。本当にごめんなさい!」

「か、顔を……上げてください……!」


 切実そうな声色にしぶしぶ顔を上げる。泣きそうなほど瞳を潤ませるブルーノを見て、罪悪感で心臓が痛んだ。


「俺は、悪いとは思ってません。メイア……が走って行ったのも、その……何か深い理由があるのかと」

「単純に大勢の前で告白して恥ずかしかっただけです! ブルーノが悪いと思ってなくても、私はこれが悪いことだって自覚があるの。だから本当にごめんなさい」


 相手が悪いと思っていなくても、謝らないと自分が納得できない。相手がそう思っていないのなら許される、とは到底思えないし、そういう考え方は良くないことだと思う。ブルーノの優しさに甘えすぎてはいけない。彼と健全な関係を築いていきたいのなら、初めは肝心だ。


「その……だから、俺は……悪いなんて……」

「私が悪いよ。不誠実だった。恥ずかしいって、それだけで逃げるなんて最低だった」

「貴女は……」


 ブルーノは何かを言おうとして止めた。それは大切そうなことだったけど、彼が言わないと決めたことなら私が気にすることではなかったのだろう。


 数秒の間の後「謝罪は分かりました。だから……もう大丈夫です」と作り物みたいな笑顔を浮かべた。


「俺にとって、大事なのは……貴女が逃げたことではなくて……その、お付き合いの事で……。本当に、俺でいいんですか?」

「それは私のセリフだよ。ブルーノは、私なんかでいいの?」


 49回振られ、告白しておいて逃げ出し、迎えに来てくれた彼を待たせる。どの要素だけを切り取っても最悪最低。これ以上下も存在しないレベル。


 本当に、彼が私でいいのか。彼はこんなにも優しい人だ。私なんかを心配して、心を砕いてくれる。きっと彼を知れば、彼を選ぶ人も多くいるはずだ。私なんかよりも、ずっといい人がいるはずだ。なのに、私でいいのだろうか。


「俺なんかに告白してくれたのは、貴女くらいですよ」

「きっと、ブルーノのことを知れば、みんな告白してくるよ」

「誰も! 俺の事なんか知ろうとしませんよ」


 彼の空色の瞳は私を映しているが、私を見てはいない。過去の自分の記憶を見ているのかもしれなかった。その中で、彼を理解しようとする人がいなかったとしたら、それはなんて悲しいことなんだろう。


 私は衝動的に彼の手を取った。掴まなくちゃいけない気がした。そうしなければ彼はもっと自分を嫌いになると思った。


「私、ブルーノのことを知れるように頑張る! 知って、貴方の素敵な所を沢山! 貴方に伝えられるように頑張る! だから……その……」


 そこら辺でようやく我に返った。私は何を言っているんだ。何を伝えたかったんだ。頭がごちゃごちゃで、自分でも何をしたかったのかよく分からない。


 それでも、ブルーノは今度こそ嬉しそうに笑ってくれて、意味がわからない私の言葉にも価値があったんだと分かった。


「メイア……これから末永く、よろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそ。よろしくね」


 後ろめたいことがある。でもそれを伝えてしまえば、この笑顔が壊れてしまう。だから伝えられなかった。そう言い訳をした。


 そのことを私が後悔するのは、半年ぐらい先の話だ。

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