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49回目の破局

「話がある。メイア・チェッキ嬢」


 お昼休みに沢山の人が恋人、あるいは友人と過ごす学園の中庭。そこで私は男性と向き合っていた。


 硬い声で私の名前を呼んだのは、現在の恋人であるべニーニョ様。

 制服の上からでもわかる、はちきれんばかりのふくよかな肉体。顔つきも素敵で、頬は丸々とした形をしていてとても柔らかそうだ。そして私が特に好きなのは、私の顔の高さよりも低い身長。平凡な私と違って、完璧な見た目をした誇れる恋人だ。


 べニーニョ様は、声と同じ硬い表情で私を見つめていた。傍らには、私とは似ても似つかない美しい女性。そして周りには、私たちの様子を伺う生徒達。


 私はこれとよく似た光景を知っている。何度も、回数で言うと48回見た。これで49回目だ。


 しかし理由まで同じとは限らない。でも不安で仕方なくて、私は手に持ったランチボックスを握りしめる。


 ランチボックスの中には今日は天気がいいからと、寮のキッチンを借りて作ってきたサンドイッチが入っている。それ以外にも、肉や揚げ物などの男性が好みそうなおかずを沢山詰め込んだ。


 学校で借りた本に書いてあった「異性の心を掴むなら胃袋から」という方法を実践したのもあるが、1番は彼に喜んでもらいたかったからだ。笑顔の彼を想像しながら、深呼吸をして思考を落ち着かせる。


 まだ期待を捨てるべきじゃない。


 そうだ。だっておかしい。こんなことが49回も続く訳が無い。きっと今回は違う。彼があんなにも美しい女性を、抱き寄せる理由があるはずだ。私には一切触れてくれなかった彼が、大切そうに彼女に触れる理由が、何か必ず有るはずだ。冷静になった頭はその理由を必死に考えるが、何も浮かばない。


 だから直接尋ねなければ、彼に。


「あの、その人は誰ですか?」


 私の問いかけに、彼は女性の頭を抱き寄せているのとは反対の手で撫でる。その手は優しく、大切に扱っていることが分かる。


 昨日、寮まで一緒に帰ろうと、誘おうとした私の手を払いのけた手は思えなかった。……思いたくなかった。


「メイア嬢」


 相変わらず、彼は他人行儀に私の名を呼ぶ。付き合っているのだから呼び捨てでいい、と何度も言ったのに。彼は頑なにそうはしなかった。


 そして彼は確信的なひと言を、ついに言い放った。


「私と別れてほしい」


 あぁ、これで49回目が確定してしまった。


 私は平静を装って「どうしてですか?」と問いかけた。


 お願いだ。理由だけは違っていて。理由すらも前の48回と同じなら、私はもうどうすればいいのか分からない。


「私が、こちらのビオレを愛してしまったからだ」

「べニーニョ様……!」


 女性は慎ましく可愛らしい瞳に涙を貯め、彼を見つめた。悲しみからくる涙ではないことは、誰の目からでも明らかだ。


 自分の体にしがみつくビオレ様を愛おしげに見つめた直後、彼は私を睨みつけた。ビオレ様に向けていたのとは違う、冷気すら感じてしまうような鋭い瞳。それを無遠慮に向けられれば、本来なら恐怖を感じるのかもしれない。しかし私の心に込み上げてきたのは恐怖ではなく、悲しみだった。


「それに君は、私を愛してはいなかったじゃないか」


 いくらべニーニョ様でも、許せることの上限はある。今の発言はそれを大きく超えていた。


 いくら彼でも、その発言は許せない。


 私は心の底から彼を愛していた。彼のためを思い、優先して行動していた。それを否定するのは、彼と付き合っていた私自身の否定と同義だ。


「……! 私は――」

「私と付き合っていたのも、イケメンだからという理由だけだろう。この面食い令嬢!」

「めんくい……?」


 知らない単語で疑問が先に来てしまい、反論ができなかった。それを肯定と捉えた彼は、見たことがないような冷たい顔で「私と貴女は今日で終わりだ。失礼する」と私に別れを告げた。


 私は立ち尽くしたまま、去っていく2人の背中を見つめる。


 言葉の意味は分からない。私がわかったのは、べニーニョ様に振られてしまい、これで破局回数が49回になってしまったのだということだけだった。

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