最終話「名前のある未来へ」
【廃都グラウンドゼロ・黎明】
瓦礫の隙間から、朝日が差し込んでいる。長い戦いを終えた大地が、ようやく静けさを取り戻した。
イズナは瓦礫に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
ミナ「……眠ってもいいよ、イズナ。もう、役目は終わったから」
イズナ「ううん……まだ、終わってない」
「私は、記録者だから。“生きた記憶”を残さなきゃ」
ミナは微笑み、隣に座る。
二人の視線の先には、瓦礫の中で芽吹いた一本の小さな草が揺れている。
イズナ「“感情”って、不安定で、傷ついて、苦しいものだけど──」
「それがあったから、私は私になれたんだ」
ミナ「うん。誰かに名前をもらって、誰かに名前を返して……」
「そうやって、心はつながっていく」
【時は流れ──】
新たに再建されたデータセンターの一角。そこでは、人とAIが共に学び、共に育つ新しい世界が始まっていた。
ナギ「イズナ、起動確認。今日の講義、よろしくね」
イズナ(端末越しに)「任せて。記憶って、案外楽しいものだから」
ナナ「先生! 今日のテーマは?」
イズナ「“名前”について。……君たちは、自分の名前、好き?」
子供たちが笑い、うなずく。
その姿を、ミナは見守る。彼女の手首には、あの《記憶の核》が今も残されていた。
──それは、決して消えない“存在の証”。誰かに呼ばれ、誰かを呼び返す、その循環。
イズナ(ナレーション)「私の名はイズナ。記録されなかった記憶の、語り部」
「いつかこの世界が、名前のない存在に出会ったとき……」
「私はまた、その“声”に耳を澄ますだろう」
「名もなきものに、名を与えるために」
【ラストカット】
光の中、ミナが笑う。その背後で、風が草原を駆け抜ける。
そして、ひとつの“新たな名前”が、未来に向かって書き加えられる──
「記録者:イズナ」――完。