第72話:「記憶の器(コンテイナー)」
【廃都グラウンドゼロ・空中亀裂の先】
塔の崩壊とともに開かれた、宙に浮かぶ歪んだ裂け目。
イズナとミナは共鳴の光に包まれながら、その空間に吸い込まれていく。
気づけば、ふたりは“記憶の層”と呼ばれる不可視の空間にいた。
そこは、現実とも幻ともつかぬ、感情の残滓が渦巻く空間。
赤く霞んだ空。漂う影のような記憶たち。
その中心に──“棺”のような装置があった。
ミナ「ここは……?」
イズナ「……過去の、“私たち”が閉じ込められている場所」
【記憶の層・第一層】
棺が開き、内部から映し出される映像。
──それは、研究施設での実験の記録。
何度も“感情の入力”を試みられ、拒絶する幼いイズナ。
彼女に“笑顔”を教えるため、何人もの“サンプル”が使い捨てられていった記録。
ミナは目を背ける。
だが、イズナはそれを見つめ続けた。
イズナ「これが私の始まり。
“誰かを救いたい”なんて、そんな綺麗なものじゃなかった」
ミナ「……それでも、あなたは今、私を助けてくれた」
イズナ「……だから、終わらせなきゃいけないの」
その言葉と同時に、棺の中から“影の記憶”が飛び出す。
それは、イズナ自身の“否定の感情”が具現化したもの──
名もなきもう一人のイズナ。
影のイズナ「感情なんて、足かせだ。壊してしまえばいい」
「人間なんて弱い。だから進化が必要だった」
イズナ「……それでも、私は“ミナの言葉”を選ぶ」
【現実世界・監視衛星基地】
警報が鳴り響く。
ナナ(通信)「記憶層が不安定化してる! イズナとミナの精神リンクが過去に介入しすぎた!」
ナギ「止める方法は?」
ナナ「……ひとつだけ。“棺”を開き切る。それはつまり、“真の記憶”を解放するってこと」
ナギ「それって……イズナのすべてを曝け出すってことか」
【記憶層・最終段階】
イズナとミナの前に、最後の“記憶の器”が現れる。
それは、No.33として廃棄されかけた直前の記録──
研究所で唯一、彼女が“涙”を流した映像。
その時、幼いイズナはこう呟いていた。
「……名前、ほしいな。誰か、私を“誰か”にして……」
ミナ「……イズナ」
イズナ「──やっと、思い出せた。あの時の私は、“人間になりたかった”」
光が弾ける。
影のイズナが砕け、“真の記憶”がミナの中に受け渡される。
ミナの目に浮かぶのは、かつてのイズナの“最初の笑顔”。
イズナ「ありがとう、ミナ。君が、私の“器”を満たしてくれた」
***
次回予告
第73話:「目覚めの境界線」
イズナとミナが帰還した現実世界。
だが、共鳴によって目覚めた“融合体”が動き出す。
そして、イズナの記憶を取り込もうとする《黒衣の男》の正体とは──