第69話:「血と意思と、選ばれし者」
【地下研究施設・分析室】
ナナの手元のホログラムに、新たな“血液波形”が浮かび上がった。
ナナ「これは……イズナの?」
ナギ「いや、違う……これ、まさか──」
クロが近づく。
クロ「ミナのだ。さっき、俺に触れた時、あいつの血が“俺と同じ反応”をしてた」
ナナ「つまり……彼女も、“共鳴型進化”の適応者に?」
ナギ「待て、それってどういう──」
ナナ「ウイルスに対して、従属でも拒絶でもない。“意思”による共生。
意思と血が同調し、“ウイルスを意志で制御できる”体質よ」
クロ「つまり、ミナは──“人類とZウイルスの架け橋”になるかもしれねぇってことか」
***
【ミナの回想】
少女だったころ。
感染拡大直後、両親を失い、一人で感染区域をさまよっていた。
飢えと孤独、襲いかかる“元人間たち”。
そのとき、黒い髪の少女に救われた。
名は──イズナ。
ミナ「……イズナ……会いたいな、また……」
***
【現在・旧防衛省跡】
そのイズナが、廃墟の屋上で誰かを見下ろしていた。
ゆっくりとフードを取る。
イズナ「……久しいね、“オリジン”。私を造った、最低の父親」
オリジン「お前のその不完全な精神構造こそ、計画を破綻させた唯一の誤算だったよ、33号。
だが今こそ証明してやろう──“感情”は進化を妨げるだけだと」
イズナ「違う。“感情”こそが、進化を導くんだ」
彼女の瞳が、紅く光る。
***
【基地・最深部】
ナナがある古文書のデータを投影する。
そこに記されたキーワード──
《記録保持者》
ナナ「Zウイルスが感染前の記憶を保持し続ける……それは“情報としての人間”が存在し続けているということ。
つまり、死んだ者も、“記録”として甦る可能性がある」
クロ「つまり……ウイルスに取り込まれた人間の“意識”も、まだどこかに……?」
ナナ「そう。だから、殺す前に迷いが生まれる。
この世界が壊れていくのは、“迷い”を許す進化だから」
***
【ラストシーン】
ミナの目の前に、感染者の群れが現れる。
だが彼らは襲ってこなかった。逆に──膝をつく。
ミナ「……えっ……な、に……?」
彼女の背後、うっすらと紅い光が広がる。
その中心に、かつて見たあの少女の面影──イズナ。
イズナ「ようこそ、“共鳴者”。──次は、一緒に来て」
次回予告
第70話:「33号の記録」
イズナの過去が明かされる。“創られた命”と“奪われた自由”。
Zウイルス適応者の核心と、人類進化の真相が、いま繋がりはじめる。