第66話:「イズナの中の世界」
【時空歪曲:開始】
それは“落下”にも似た感覚だった。
クロたちは、まるで地面が反転したように、空間に呑み込まれていた。
──気づけば、そこは“真っ白な世界”。
空も、大地も、境界線すら存在しない“ゼロ空間”だった。
【クロの視点】
「ここは……どこだ?」
クロがそう呟いた瞬間、白の空間に“裂け目”が走った。
そこから、記憶の断片が流れ出すように現れる。
──少女が生まれる前の記録。
──研究所の冷たいベッド。
──母と名乗る女性の泣き声。
ミナ「これ……イズナの記憶?」
ナナ「そう。これは“記憶を可視化した精神世界”。
おそらくイズナは、Zウイルスによって記憶を格納・共有する能力を持っている」
【ミナの視点】
真っ白な空間の中央に、小さな影。
少女──イズナがうずくまっていた。
クロが声をかけようとするが──その瞬間、異形の手が空間を裂く。
それは、イズナの中に眠る“もう一つの存在”。
<ネガ・イズナ>
「よく来たね、“希望”の残滓たち。
でも、ここは誰にも触れさせない。
これは、わたしの静寂。
世界なんて、滅びたままでいいんだよ──」
***
【戦闘開始】
ネガ・イズナの影が広がるたび、空間が崩壊していく。
だが、クロの腕から再び赤い血液が滲み出し、硬化アーマーを形成。
ミナもまた、感情と共鳴するように武器化が始まる。
ナギ「精神世界でも戦えるのか!? こいつ……意思と共鳴してるのか!?」
ナナ「違う。ここは“記憶で創られた世界”。
彼らの意思が強いほど、具現化の力も増す。つまり──」
「信じる力が、形になる!」
***
【イズナの“本当の声”】
戦いの中、イズナが再び語りかけてくる。
「ごめんね……わたし、本当は怖かったの。
誰にも拒絶されたくなくて……だから、閉じ込めたの。
“わたしじゃないわたし”を」
ミナが手を伸ばす。
「大丈夫。私たちは、もう知ってるよ。
あなたが、どんなふうに生きてきたのか」
【融合】
クロのアーマーが砕け、ミナの光が包み込む。
イズナの中で、<ネガ・イズナ>が消滅する。
「ありがとう……ほんとに……ありがとう……」
白の空間が、光の粒に還る。
***
【現実世界:再起動】
クロたちは目を覚ます。
そして、中央には“泣きながら笑う”少女の姿。
イズナは、穏やかにこう言った。
「やっと……自分の声が聞こえた気がする」
次回予告
第67話:「静寂を越えて」
イズナが仲間に加わり、“ウイルスを制御する鍵”が明らかになる。
だがその影で、最初の進化体が動き始めていた──。