第60話:「進化の呼び声」
世界は、一度静かになったかのように見えた。
あの日、進化中枢が崩壊し、人類と感染体の均衡は一時的に保たれた。
──だが、それは嵐の前の静けさだった。
***
【南方・第零隔離領域】
霧が立ち込めるジャングルの奥、かつて「第零研究所」と呼ばれた場所。
深い地下の格納庫。その中心で、巨大な培養槽の中に眠る“何か”が、ゆっくりと指を動かす。
警告音が響き、警備ドローンが作動するが──すべて、停止。
静かに“それ”は立ち上がった。
「……我ハ、オボエテイル……進化ノ、カタチヲ」
赤い瞳が闇に光を灯す。
それは、感染体でもなく、人類でもない。
人類が遺した“最初のZ進化体”、コードネーム【プロトゼロ】。
***
【廃都市・高台】
ナギは痣のような進化痕を見つめながら、ミナと共に防衛区の復旧作業にあたっていた。
「少しずつ、人が戻ってきてる」
「うん。でも、俺たちは……何を守ればいいんだろうな」
「……全部、でしょ? 私たちが“生きたい”って思ったもの全部」
ミナは笑った。以前のように、強く、優しく。
だがそのとき、警報が鳴り響く。
「未確認高熱源体、南から接近!」
「またかよ……!」
ナナがスコープ越しに確認する。
「……違う。これは……何? 感染体のパターンじゃない」
そのとき、クロの耳に“音”が届く。
──呼んでる。
進化の、深層が。
クロの目が鋭くなる。
「来るぞ、“本当の始まり”が……!」
【つづく】