第57話:「進化の代償」
白い光に包まれる中、アヤメは微かに笑った。
「……帰ろう、ナギ。こんな場所じゃなくて……あの頃みたいに、青空の下で……」
しかし――
「アヤメ、離れて!」
クロの警告と同時に、白光の中から噴き出す黒い衝撃波。
それは、ナギの“記憶”と“感染進化核”の最深部に眠っていた《防衛本能》だった。
「……進化は、止まらない……僕が……止まらないんだ……!」
ナギの声は苦しげに震えていたが、すでに“彼の意思”だけでは止められない。
***
外部ではミナとナナが、融合ゾンビ群を掃討しながら中枢のデータを解析していた。
「これ……この中枢、自己複製機能を持ってる……!」
「それって、放っておいたら……!」
「ナギごと、地球全域を“進化”させかねない!」
アヤメは立ち上がった。決意を込めて、最後の進化核を手にする。
「私が……“止める”。例え彼が、戻れなくても」
「違うよ、アヤメ!」
ミナが叫ぶ。
「戻すんじゃない! “一緒に進む”んだよ、未来に! 過去を壊すんじゃなく、今を作る!」
その言葉に、クロもアーマーを砕きながら頷いた。
「お前がそう決めたんなら、俺たちは全部ぶっ壊して、未来を切り開く……!」
アヤメの手の中で、進化核が砕けた。
その破片がナギの核へと飛び、融合する。
衝撃とともに、巨大な進化中枢が崩壊を始め──
彼女は、ナギを抱きしめていた。
燃える中枢の中で、彼の瞳が微かに揺れた。
「……ただいま、アヤメ……」
【つづく】