第54話:「終末の巨影」
咆哮が山々にこだました。
空が震え、雲が砕け、周囲の空気が腐蝕していく。
現れたのは──三つの頭部を持つ、異形の巨獣。
ノイズ進化体。
旧人類の「最終兵器」として開発されたが、制御不能に陥り封印された存在。
その“鍵”となる個体。それが、アヤメだった。
***
「こいつが……Zウイルスの原型……!」
クロが呟いたその瞬間、地面が裂け、重金属の尾が唸りを上げた。
ミナが間一髪でクロを突き飛ばす。
「アンタ、また突っ立ってる気だった!?」
「悪ぃ、見とれてたわ……あれが、“俺たちの未来”だとしたら、な」
プロト・ケルベロスの咆哮が脳に直接響く。
──《感染許可、解除。旧規格、無効》
視界に無数のエラーメッセージ。
Zウイルス耐性を持つクロたちにも、ノイズ感染の兆候が現れ始めていた。
「アヤメ!」
ナナが叫ぶ。
「あなたなら、止められるんでしょ!?」
アヤメは震える手で、自身の胸を押さえた。
「私は“器”……彼を止めるには、私自身が……」
ミナがアヤメの肩を掴む。
「だったら一緒にやろう。私たちは、進化した人間だ」
クロも頷く。
「この世界を喰ったウイルスに、“意思”で立ち向かってやる」
アヤメの瞳が揺れ、やがて決意の炎を宿す。
「なら……“融合制御コード”を発動する。私の血液を、君たちに使うわ」
彼女の血は、Zウイルスの“母型”。
それを基に、クロとミナの進化形態は更に変異する。
──クロ:強化形態
──ミナ:超加速形態
彼らの身体は、赤黒い血液の膜に包まれ、硬化し、鋭く、脈動する鎧へと変わる。
「人間が、“進化”に負けないってことを見せてやる」
クロとミナは、咆哮する巨獣の前へと跳ぶ。
終末の巨影に立ち向かう、“意思を持った進化体”──それが、人類の最後の灯火だった。
【つづく】
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次話では、プロト・ケルベロスとの激戦が本格化。
“意思”vs“暴走進化”