第51話:「三重進化(トリプル・エヴォ)」
「間に合えっ!」
ミナが空中でナナを抱きとめる。落下の衝撃を血のアーマーで受け止めた。ナナはかすかに微笑み、囁いた。
「ごめん……先に……行くつもりだったのに……」
「バカ言わないで。ここからが始まりなんだから!」
クロがその横をすり抜ける。飛翔装置すら持たない彼は、自らの血を“蹴る力”に変え、空を跳ねるように舞う。全身が赤黒い結晶で包まれ、まるで生きた甲冑のようだった。
ケルベロスが迎撃態勢に入る。
「対象三体、進化度異常上昇。分類不能。危険レベル、再評価――AからSへ」
空中で、三つの意志が交差した。
「――ミナ、今!」
ミナが応じるように、両腕を広げる。血が解放され、巨大な円盾が形成された。ケルベロスの熱線を受け止め、砕けながらも突破口を作る。
「ナナ、まだ飛べる?」
「うん……私の血、最後の一滴まで使い切る!」
ナナの翼が再展開。以前よりも短く、細い。だがその分、鋭さを増していた。彼女の血液が、最も切れ味のある“刺突特化”型へと進化していたのだ。
「三重進化態、連携開始」
クロが前方へ突進。ケルベロスの一体に拳を叩き込み、装甲を割った。
すかさず、ミナのアーマーがクロの背中に覆い被さるように接続され、彼の身体を一時的に再構築する。
「この力……連結できるのか……!」
「今だけよ、すぐ剥がれる。でもその一撃に全てを込めて!」
クロの拳が変形する。まるでミナの意思が込められたかのような“貫通器官”――鋭く、しなる生体杭となった。
そして――
ナナが真上から突き刺す。
「これで終わり!!」
三つの進化。
三つの血。
それが、一つの攻撃線として重なった瞬間――
《ケルベロス・最終機体、機能停止》
空が爆ぜた。
三人は地上へと落下しながらも、互いの腕を取り合い、無事に着地する。
まだ、戦いは続く。しかし――
「やれる。私たちなら……やれるわ」
ミナの声が、空に消えた煙の中で、力強く響いた。
【つづく】