第50話:「決戦 ―空に散る進化―」
「ナナ、下がれっ!」
地上からクロが叫ぶが、彼女はその声に首を振る。
「いいの。ここで、終わらせる」
空中に浮かぶナナの背に、血の羽が広がる。
だがその輝きは、すでに限界に近い。
Zウイルスと同調した血液は、彼女の命を削りながら力を生んでいた。
一方、ケルベロスの残る二つの顔が、機械的に笑う。
「対象ナナ、エネルギー消耗警告レベル――致死域。勝利確定」
「うるさいっ!!」
ナナは叫び、翼を振るう。
無数の羽刃が放たれ、ケルベロスの装甲を削っていくが、もう以前のような鋭さはない。
「このままじゃ、ナナが……」
ミナは唇を噛む。
クロも拳を握りしめていた。
だが――次の瞬間、ミナの手が紅く光った。
「なっ……!? おい、ミナ!」
「分かってる……でも、もう止まらないの。私の中にも……何かが、目覚めようとしてる」
彼女の体の中心、胸部から微かに血が滲み出る。
それは空気に触れた瞬間、硬質化し、指先から爪のような鋭い刃へと変化した。
「ガード反応……自己硬化型……!」
クロの目が見開かれる。
ミナの身体に、第二の進化が発現し始めていた――
「ミナ……お前も……!」
「行こう、クロ。あの空の戦場へ……!」
地上を蹴った二人の背後に、何かが生まれていた。
それは人の意志で形作られる、進化の証。
Zウイルスがもたらした“絶望”の中で、人類が手に入れた“新たな可能性”。
その瞬間、ナナの翼が散った。
全身の血が限界を迎え、空中で彼女の体がふわりと沈んでいく。
「――ナナァァァ!!」
ミナとクロが空へと駆ける。
三人の意志が、ついに重なる。
――運命が、動く。
【つづく】