第49話:「覚醒 ―血の羽(ブラッド・ウィング)―」
空に浮かぶ影――それは、血液の滲出から生まれた、深紅の翼。
ナナの背に広がるその形状は、まるで神話の天使のようで、しかし禍々しさすら纏っていた。
「飛べる……っ?」
ナナ自身、驚きとともに空中に身を委ねる。
その身は軽く、そして意思に応じて自在に動く。
Zウイルスが彼女の血液と融合し、限界を超えた変化を与えたのだ。
対する《ケルベロス・ユニット》は、すでに空中戦モードに移行していた。
背部から伸びる三枚の鋼翼が回転し、黒煙を撒き散らす。
「進化体、“ブラッド・ウィング”。抹殺対象に再指定」
ナナは呼吸を整える。
周囲の音が消え、集中が極限まで高まる。
そして、ケルベロスの一撃を――見切る!
「遅い!」
彼女の体が空中で回転し、逆に斬撃を叩き込む。
血液の羽が刃のように変形し、ケルベロスの肩の装甲を切り裂いた。
「やった……!」
しかし、それは“演出”だった。
ケルベロスの三つの顔の一つが笑う――
「“読み取り完了”。ブラッド・ウィングの構造、コピー可能」
「な……!?」
次の瞬間、ケルベロスの背部からも赤黒い翼が広がる。
しかも、ナナのものより鋭く、長く、早い。
「模倣能力……!」
地上では、ミナとクロがその様子を見上げていた。
クロが拳を握る。
「やばい。あの化け物、進化を“コピー”してやがる」
「ナナの力が逆に……武器にされてるのね……!」
だが、ナナは顔を上げたまま、震えていない。
その瞳は、むしろ炎のように燃えていた。
「……私の“進化”は、私だけのもの。
コピーされた力なんて、私の想いには届かない!」
彼女の体から、さらに血液が放出される。
それは翼に吸収され、再び変化する。
――花びらのように広がり、周囲に漂う“刃の羽”。
「いける。感じる……これは私の中の、もう一つの力!」
《ケルベロス》が突撃してくる。
ナナは、両手を広げる。
「これが私の答えよ……!」
――【ブラッド・ウィング:第二形態】発動!
刃の羽が雨のように降り注ぎ、ケルベロスの翼を削り、顔の一つを破壊した。
重力が乱れ、空中で《ケルベロス》がバランスを失う。
「――ナナァァァ!!」
クロとミナの声が重なる。
地上から彼らも援護の構えに入る。
空中の戦いは、いよいよ決着の瞬間を迎える。
【つづく】
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次回、第50話
「決戦 ―血と鋼の空中戦―」
「そして、誰かが目覚める」