第5話:ミナの鍵
――記憶の欠片が、道標になる。
クロとサクラは、廃都市の地下へと潜っていた。
そこは、かつてORD(人類再興機関)が設置した「記録中枢」。
選ばれたZ進化者だけがアクセスできる“記録の墓場”だった。
「……ここが“オルム”。記録された脳波、思考、実験データ……すべてが蓄積されている」
サクラの声が、金属の壁に反響する。
(ミナ……君の記録は、ここにあるのか)
クロは胸元に差し込まれたIDチップを握った。それは、自分の身体から摘出された“ナノ鍵”――記録領域への唯一のアクセスキー。
> 「ID認証完了。アクセス承認。開封する記録:ミナ・アサギリ個人ログ 第79層」
記録装置が青白く光り、ホログラムが現れた。
白衣を着た若い女性。だが、その目には疲労と、決意が滲んでいる。
「これが最後の記録になると思う……。私はZ進化を止めたかった。だが、クロを犠牲にしてしまった――」
(俺を……?)
「クロ、君がこれを見ているなら、どうか許してほしい。君は“人類最後の正常な進化体”なの……。君の中にある“再構築因子”だけが、この世界を救えるのよ」
映像が揺れる。奥から、誰かの足音が近づく。
> 「ミナ……ここにいたのか。逃げるな。お前も、Z進化者だろう?」
その声とともに、映像は黒く塗りつぶされた。
「……彼女はこの直後、処分されたのよ」
サクラが静かに言った。
「処分……だと?」
クロの指先が震える。怒りではない。罪の共有者としての痛みだった。
「それでも、彼女は君に希望を託した。だから、記録を封印せず、君に渡したの。……その意味、わかるでしょ?」
そのときだった。
> ――「希望、ね。それが、どれだけ多くの人間を壊したと思ってるの?」
女の声が響いた。機械ではない、生きた声。
振り返ると、そこにいたのは――銀髪の女性。
片目をバイザーで覆い、右腕は義手。
肩口から血液のような赤い物質が流れ、アーマー状に拡張されている。
「カナ・ジンライ……! ORDの“記録破壊者”!」
サクラが身構える。
「へぇ、あんたがクロ? よくここまで来たね。……でも、残念。ミナの記録はここで“完全に消える”の」
カナの右腕が赤く光る。血液を硬化させたような刃が形を取っていく。
「ミナはね、“Z進化の鍵”を自分の記憶ごと埋め込んでたの。あんたがそれを取り戻すなら……私が殺すしかない!」
「だったら、やってみろ」
クロの瞳に燃えるような光が宿る。
彼の全身から滲み出す血が、空気と反応して鎧となり、音を立てて“装甲化”していく。
「彼女の記録を、誰にも壊させはしない――!」
> 世界が終わっても、記録は生きる。
そして、記録は次の“進化”へ繋がる。
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次回予告(第6話案)
第6話「進化の共鳴」
カナとクロの激突――血液を媒介にするアーマー同士の進化バトルが勃発。
互いに“記録された記憶”を読み取りながら、戦いは“感情の共鳴”へと変わっていく。カナの目的とは?
そして、ミナがクロに遺した“最後の記録”とは――?